23.麗しきその身を
ヘリオスちゃんの攻撃はとてつもなく強力で。
魔法に詳しくない俺は何が起こっているのかが分からなかったが、なんだか、ルーチェリエルの攻撃を全て無効化しているような動きだった。
「はぁぁぁぁ……ッ!」
「ぎぃぃぃぃ~~っ!」
もしかしたら。
ターゲットのアリスと一悶着あるとか。
街の中での更なる激戦とか。
ダンジョン内に蔓延る極悪トラップに苦戦するとか。
そういう未来があったのかもしれない。
けれど、全てを分かりやすくする女神。
かたや、全てにおいて企て、企む魔法。
あまりにも相性が良すぎる相手によって。これから先にあったであろう仕掛けは、全て棄却することとなった。
「『大輪咲き狂う大光弁』――――」
「無駄です。――――『消却』」
ルーチェリエルの魔法が、ヘリオスちゃんに当たる瞬間。
それは綺麗に消失する。
そして、
掌に蓄えた魔法により。
ルーチェリエルを制圧し、豪奢な玉座へとめり込ませた。
「うぉぉ……」
衝撃により、ただでさえ脆くなったダンジョンは崩壊する。
瓦礫が下へ落ちていくことは無く、浮遊した地面から分離した瞬間から、魔力の霧へと変わり消えていく。
だから基本的に、この質量が街に落ちることは決してない。
そう――――ルーチェリエルが管理している物に限って言えばだ。
「……あッ!?」
「うっ……」
どうやらヘリオスちゃんの力により、ルーチェリエルは無力化したらしい。その証拠に、ダンジョンの周囲で街へと飛び降りようとしていた魔法体たちも、次々に霧散していっている。
しかし。
ダンジョンを支える、大地――――地盤までは、ルーチェリエルの魔力範囲では無かったらしい。
「マジか……! 落ちる!?」
土地はまだ中空のままだ。
しかし魔法が切れかかっているのか、小刻みにぶるぶると振るえ、不可思議な動きを見せている。
俺もヘリオスちゃんも飛行は出来る。ルーチェリエルも、彼女が抱えて飛ぶだろう。だから無事だ。
だけど街の人々は、確実に無事では済まない。
この質量だ。
直撃しなくても、衝撃だけで建物は倒壊してしまうかもしれない。
「やべえやべえやべえ……!」
今街の人たちは、避難所の中に居るのだ。
地下なら地盤がへしゃげるかもしれないし。高所なら建物が崩れ落下するかもしれない。
どっちにしろ、この質量を街に落下させるわけにはいかない!
これはヘリオスちゃんも予想外だったのか、しまったという顔を見せていた。
つまり――――
「俺が……どうにかするしか!」
幸い魔力はほとんど消費していない。俺はこの街に来てほとんど戦っていないから。
だけどそんなもの、何になる。
ベルの全力でも破壊できるか分からないものだ。それを俺一人の力でどうにかするなんて不可能に近い。
「でも時間ねぇ……!」
秒読みだ。
地盤の挙動は既に限界を迎えており、もう間もなく地に堕ちるだろう。
「コースケさん! 身体の中にある魔力を、全て使ってください!」
「……!」
「ベルアインが武装装填を出した時を思い出して!」
振り返ると、捉えたルーチェリエルごと宙へ脱出したヘリオスちゃんがいた。
捕縛と飛行するだけで精いっぱいみたいだな。ルーチェリエル、まだばたばたもがいてるし。
「ベルが武装装填を使ったときのことを……」
確かあのとき。弱っていたアイツは確か、わざと極限状態まで自分を追い込んで、その力を発揮したとか言ってたな。
「えーっとですね……。身体は極限状態に追い込まれたとき、――――魔力やらなにやらをぶわっと出すのです!」
「分かりやすい説明ありがとう!」
分かりやすさ大正義だな!
手段を択ばないヘリオスちゃん、マジで天使! マジで女神!
「ぶわっと……か」
言われてみれば、その感覚に覚えがある。
ヒナとトラップを設置していたさい、一般冒険者を助けたときのことだ。
前提として、このイケメンの姿は身体に魔力を流しやすい。それは事実なんだろう。
けれど、それだけじゃない。
俺はあのとき、人を助けないといけないと、少なからず必死だったのだ。
イケメンの姿に変わったから強くなったのではなく。
これまで持っていた強さを、出しやすくなっただけ。
限界を超える力は、これまで発露されなかっただけで、元々持ち合わせてはいたのだ。
「でも、それでも全然足りねえぞ……」
この街に居る冒険者よりは強いかもしれない。
だけどそんなレベルでは、落下する大地は止められない。
でも、ベルなら、アリスなら、ヒナなら。どうにかしてしまえるかもしれないのに――――
「――――あっ……!?」
そういうコトか……?
コレ、いけるのか?
脳内に電撃が走る。――――と、同時。浮遊した大地は落下を始めていた。
支えられていた魔力がほどけていくのが分かる。
今は緩やかな落下だが、次第に勢いを増していくだろう。
街の人たちは避難所の窓から空を見上げ、たちどころに悲鳴を上げている。
あの混乱を治めるには、このバカでかい大地を破壊してしまうしかない。
「う…………おぉぉぉぉぉッッ!!」
飛行を操り大地の下へ向かう。
これも極限状態のお陰なのか、不格好な飛行ではなく、真っすぐに速く飛ぶことが出来た。
振り絞っているからか。
俺の飛行の軌跡は、きらきらと光り輝いている。
「ママ! ひかってるよ!?」
「天子様……? いえ、まるで神様みたい……」
神々しい魔力が溢れる俺の姿に、人々は願いを託していた。
期待に応えるように。
俺は全魔力を放出して、大質量の大地を中空で受け止める。
「うぉぉ! 止めてる! 止めてるぜアニキぃ!」
「オレたちはとんでもねえぇもんを目撃してるぜ……!」
「いけぇイケメンの兄ちゃん! 俺たちを救ってくれぇ!」
声援が。
背中を押す。
が、それでも。落下する大地は止まらない。
「おぉぉ――――おおおおおおおおッ!!」
「おにいちゃあああああん!!」
「神よ!」
「イケメンの人ーッ!!」
「頼むーッッ!!」
あったかい。ちからづよい。
頑張るから、俺。振り絞るから。全部出すから……!
「出来るハズだ……!」
凄まじい重力の中、俺は考えを巡らせる。
ルーチェリエルから俺に放たれた概念変化の魔法は。
厳密に言えば、攻撃ではない。
概念を変化させるだけの魔法。それが同じく概念生物であるベルたちとは相性が悪いというだけで、本来ならば攻撃魔法では無いのだ。
「俺は概念変化を、よく知ってるはずだろう……!」
解きたくても解けない魔法。
姿かたちが変わる――――その姿に納まる魔法。
それは、俺がベルたちに使用している、
仮装着と同じではないか。
「つまり……! 術者と繋がっている……!」
ルーチェリエルがコレを解いていないのならば。
ルーチェリエルの魔力と、俺は繋がっているはずだ。
繋がっている魔力の道があるならば――――それを引き出すことも出来るはずだ!
「おおおおおおおッッ!!」
概念変化の魔法を通して、俺の体中に神聖な魔力が溢れてくる。
経験したことの無い魔力。それが、確実に大地をせき止めていた。
これが……、極大魔法の力……! 神の魔力かッ……!
「止まる! 止めてるぞあの兄ちゃん!」
「さすがイケメン……。素敵……」
「英雄だ! 神だ! ばんざあああああい!!」
声援は加速する。
地上からの視線は、俺に最後の力を振り絞るエネルギーになる。
だからこそ。
………………………………ごめん。
ごめんな、みんな。
「…………さよならだ」
この身を。捧げて。
最後のエネルギーを引き出す。
崩れ行く刹那。
みんなことをおもいだせて、よかった。
「…………っ」
みんな、よろこんでくれるかなぁ……。
「でも最後に、もう一度会いたかった」
つぶやいて。
俺は、ラストピースを唱えた。
「『――――、――――――――』」
瞬間。
この身体と落下する大地は同時にはじけ飛ぶ。
「…………………………あ、……………………あぁ、ぁ……ッ……」
ぴきぴきとひび割れていく己が身体。
膨大な魔力に耐えられず、悲鳴を上げていた。
そりゃそうだ。
同時に二つの莫大な力を使っているのだから。
「じゃあな――――」
別れの涙が宙に舞う。
一瞬の後、それも蒸発して。それが離別の合図となった。
「――――俺のイケメンの身体あああああ!!」
光る。
そして――――戻る。
「太ってきたああああ!! うわ、体毛! やべえ! 顔もめっちゃぶよっとしたぁ!」
「「「「「「「………………え?」」」」」」」
中空で。
爆ぜていく大地を消滅させる――――かつてイケメンだったもの。
だけど今は、太ったオッサンで。
そしてそいつは……。
「最後の力を振り絞るぜええええええ!!!!」
「「「「「「「イケメンの中からバニーガール着たオッサンが出てきたああああああああ!!!?????」」」」」」」
毛むくじゃらで太った身体に、ぴっちぴちのバニーガール衣装を纏っているのであった!
「そうさ……、最終手段ッ!
俺自身が、バニーガールになることだ……ッッ!!」
イケメンも捨て! バニーになることで! 極大光魔法と天界の力、両方をこの身に宿す!
「じゃあなああああああ! イケメンの姿ぁぁぁあぁぁぁぁああああああッッ!!!!」
悲しみの力を炸裂させる。
くそ! どうだよベル! アリス! 太った身体に戻ってやったぞこらあああ!!
お前らは喜ぶだろうなあああ! でも俺は、やっぱりイケメンの姿が良かったぜええええ!!
「だりゃああああああああ!!!!!」
イケメンの頃からは想像も出来ないような、汚い声が響き渡る。
のち。人々は語り継ぐ。
この街を襲った未曾有の大事件の全容を。
「これで消滅ッッ!! 終わりッッ!!」
神様みたいなイケメンを応援してたら、羽化して中から変態のオッサンが出てきた件――――と。
【読者の皆様へ】
気づけば100ポイント間際! 応援ありがとうございます!




