21.魔竜のおくりもの
一分後。
「くっ! それでも敵の増援は止まらないのか!」
「急なシリアスじゃのう」
そうだね、ただいま! またね乳の楽園!
でもお陰で、エロスにより戦闘スイッチが入った。ありがとう乳の楽園。
「くそ……。これじゃあ制圧したエリアも、きっとまた魔法体であふれかえってるぞ……」
「そうかものう。底なしじゃがさて……」
アリスたちの方がどうなっているかは分からないが、ヘリオスちゃんからの緊急連絡がないということは、まだ大丈夫と見ていいだろう。
「街の人たちはもう全員避難できてると思うんだよな……」
ただ、あの幼女の目的はアリスのはずだ。
そうなると、彼女を守る方向で考えたほうがいいか?
「いや……、アリスの方はヒナらが行ったんじゃろ? なら大丈夫じゃ」
「ベル、気づいてたのか?」
「話した通り、予想しておったからのう。
それに、魔力の枝分かれも感じた。なんかこう、脇腹辺りがむにゃむにゃする」
「あぁそう……」
それはいいんじゃがと、魔法体を倒しながらベルは空に浮かぶ洞窟を見上げる。
「最優先は、あの洞窟の停止じゃ」
「やっぱそうか……」
「ヒナの言う通り、あの洞窟が魔王城の再現体だとするならば。この増援は止まらんと思うてよい」
「どういうことだ?」
「魔王城はたしか、空気中に散っていった魔力を吸いあげ、再利用する魔力炉があると聞いたことがある。
この話が本当なら、降ってきた魔法体は、消滅しても再びあの洞窟に回収され、新生させて再襲撃が可能ということじゃ」
「チートじゃん!?」
マジで無限なのかよ!
「じゃあどうにかして、あの洞窟を攻略しなきゃいけないわけか……」
「そうじゃ――――のう!」
返事と共に、ベルはもう何体目か分からない魔法体を薙ぎ倒した。
「……っ」
気持ち的には前向きだ。
気力も十分滾っている。
しかしこのままだと、事態が好転しないのも事実。
相手は『魔法』という概念だ。
ただでさえ得体の知れない相手なのに、ダンジョンという要塞に籠ったままに、こちらへモンスターを無限に放ってくる。
「幼女地獄だ……!
じゃねえ、じり貧も良いところだぞくそ……!」
繰り返し確認するが。
このモンスターたちの攻勢を止めるには、召喚元となるダンジョンを攻略するしかない。しかしそのダンジョンに戦力を裂いたら、攻勢を止めるための守りが足りなくなる。
「やっぱ一般冒険者に手伝ってもらうか……?」
「いや、やめておいた方が良いじゃろう」
「どうしてだ?」
「魔法体の挙動で分かったが、こやつらはおそらく、ニンゲンを捕獲するのが目的じゃ」
「は……!? それって、人質ってことか!?」
「うむ」
この辺りの冒険者は、強くてもBランクくらいだ。魔法体三体を相手にして、倒し切れるかどうかである。
「魔法体に連れ去られて人質が増えちまうと……、こちらから攻撃しづらくなる」
勿論人質を無視して攻撃することは出来る。
が、そんなもの俺もみんなも望んではいない。
「いや、最悪ワシはぬしの幸せのためなら攻撃出来るぞ。ぬしが一番大事じゃ」
「ベルさん、一話前の感動返して」
まぁ最終手段だろうけどさ。
ともかく……、この街の防衛も、あの洞窟へ攻め入るのも、俺たちだけでやらないといけない。
「ヒナが二人に増えたのはありがたいけど……、それでもギリギリなんだよな……」
そもそもの話。
あのダンジョンに一人で乗り込んだところで、踏破は不可能だ。
あまりにも入り組みすぎているし、ここ以上に魔法体たちがひしめき合っているはずである。
「つーか……、この街を放棄して全員で攻め込んでも攻略は難しくないか?」
「フム……」
概念防御で外側から破壊するのも難しい。
入り口からベルを魔竜状態にして、力づくで進んだとしても……、概念変化の矢に当たれば致命的だ。
「それにバニーの力にも限界があるし……」
魔力の流れでアリスたちを確認する。
おそらくアリス、ヒナ(光)の二人とも、バニー状態になっている。
「これ以上の魔力を与えることは、今の俺には無理だ……」
正直これでも、初期よりは出力も上がっているのだ。褒めてほしいくらい。……あ、本当に頭撫でなくて大丈夫ですベルさん。迎撃に集中してもろて。
つーかベル、なんかさっきから余裕ある感じじゃない?
じり貧なんだよ? 理解してる?
「そこら辺の冒険者を十人くらい捕まえて、バニーの力を渡すか……? いや、それでも人質に取られたときのデメリットが大きすぎる……!」
考えて。
考えて。
考え抜く。
それでも――――打開策は出てこない。
そのとき。
ベルが「のう」と口を開く。
「ぬしよ。何を考え込んでおるんじゃ?」
「は?」
敵の攻撃を勢いよく弾き(というかそれだけで消滅させ)、ベルはあっけらかんと言った。
「これは旅を続けたころから微妙に引っかかっておったことじゃがの。ぬしは嘘つきか?」
「なに……、何を言ってんだよベル? というか、何の話をしてんだ!?」
「頼れる仲間がどうとか、人間の気持ちがどうとか言うとったじゃろうが」
「はあ?」
……いやだから。
マジで何の話?
ぽかんとしている俺に、ベルは珍しく、心底呆れたため息を吐く。
「人手が足らん。戦力が足らん。それはワシにも分かっとる」
荒れ狂う戦地の中。
彼女はすっと綺麗な指で――――天を指した。
「仲間なんじゃろ? あの、小女神も」
「は……、」
「じゃったら頼らんか。遠慮なんかせずに」
いや。……いやいや。
「ベル、お前も知ってるだろ? ヘリオスちゃんはこっちには来れないよ」
嘘つきってのはそういうことかよ。
いや、俺だってヘリオスちゃんのことも、仲間だとは思ってるよ。
けれど、それとこれとは話が別だろ。なんたってヘリオスちゃんは女神で。
「ニンゲン界の事件には干渉できないから、俺たちみたいな、代理のニンゲンが居るわけ、で……?」
言いながら、俺も何か違和感を覚える。
ニンゲンが起こした事件? ニンゲン界の事件には、干渉できない?
俺の気づきと同時。ベルは変わらず、さらりと言葉を口にした。
「人間が起こした事件か? コレは」
「そうだぁぁぁぁッッ!!」
これ、人間が起こした事件じゃねええええええ!
魔法だ! 魔法が意思を持ってニンゲン界で事件を起こしてるんだ!
「しかもルーチェリエルは、極大光魔法じゃねえか! 元々は確か――――神が放ったとかいうもので……!」
「そうじゃぞ。じゃからこれは、むしろ奴らの不始末じゃ」
俺はわたわたと中空に指で四角を描く。
タブレットの魔法が起動され、そこには。
いつもの明るい笑顔の彼女が映し出された。
『ようやく気付いてくださいましたねコースケさん!』
「ヘリオスちゃん!」
『いやぁ……、いけるかなと思って口にしたら、案の定禁則がかかっちゃいましたので、どうにかならないかなあとやきもきしていたのです』
「そうだったのか……」
珍しくもにょもにょとした態度を取っていた彼女だが、しかし『気づいたのならもう大丈夫です!』と、元気な顔でに戻る。
そして意気揚々と白い歯を見せ、言葉を紡いだ。
『さあ、女神を糾弾してください! 元気よく!』
「いや言い方ってもんがあるだろ」
どんな窮地でも。
とりあえずツッコミをしてしまう、悲しい性がある俺だった。




