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20.人らしさ



 人に危害を加えることは出来ない。

 それは、魔竜・ベルアインを縛る、枷である。


 ただ勿論、抜け道は在る。

 ベルに攻撃の意志はなく、けれど二次災害として人に危害が加わってしまう場合などだ。

 建物を倒壊させ、その破片が対象に降り注ぐ――――など。


「ベルが全力で戦ってたら……! やばい……!」


 走る。――――走る。

 道中の魔法体を打ち払いながら、ベルの居るエリアへと全力で駆けつけた。

 そこには。


「……っ」


 多くの怯える一般人と。

 大量の魔法体の攻撃を避け続けている、ベルの姿があった。


「ク――――」


 長い髪に隠れていて目元は分からないが、ベルの口からは苦しそうな吐息が漏れている。


「やっぱり苦戦して――――ん?」


 あれ? いやあれ、笑ってない?


「ク…………クァハハハハハッッ! 当たらん! そんな攻撃当たらんぞッ!」


 なんか。

 激しく笑っていた。

 ……楽しそうだな?


「おいベル笑ってないで……」

「おぉ? なんじゃようやっと来たかぬしよ。仕事じゃぞ」

「は!? なに……」

「あのニンゲンども、さっさと連れていかんか。

 こちとら(はよ)うすり潰したくてうずうずしとるんじゃ」

「え、えぇ~……」


 状況が理解できないままに、群衆の方へと走る。するとそこには、深めの線が引かれてあった。


「あっ、アンタ! あのバニーガールの仲間か!?」

「そうですけど?」


 おそらく実力者と思われる冒険者が、群衆の中から顔を出す。

 何事かと事情を聞いてみると、彼は狼狽した声で説明をしてくれた。


「ここらの冒険者全員で街の人を守っていたら、急にあのおっかない美女がやってきて、俺たちをここに追いやったんだよ。そして、『この線より前に来たものは容赦なく殺す』って言ってきて……!」

「オウフ……」


 俺、どういう感情持てばいいんだよ……!

 おそらく町の人を守ろうとしたんだろうし、他の冒険者が居たら逆に戦いにくいからひとまとめにしておいたんだろうけど。

 それにしたって言い方ってもんがあるだろ……!


「と……とりあえず避難所へ! 俺が案内するんで!」


 お帰りはあちらとばかりに、冒険者含む三十人ばかりをささっと誘導する。

 この場には、俺とベル、大量の魔法体だけが残った。


「では、蹂躙じゃ」


 ピンヒールがかつりと鳴る。

 勝負は一瞬だった。







「……はぁ~、どうにかなったな」

「いまいちじゃったなぁ。

 もうひと暴れしてきたいがのう」

「じゃなくてベル! 言い方があるだろうもうちょっと!」

「まさかまだ避難しておらん者がおったとはのう。ニンゲンは思ったより鈍くさいわい」


 まったくとため息を吐く。

 そこへ、後ろから小さな足音が聞こえてきた。


「あ、あの……。いけめんのおにいさん……」

「ん? え、女の子? さっきの避難者の中に居た……」


 およそ六、七歳の女の子だ。

 小さな手をぎゅっと胸の前で握りしめ、俺を見上げていた。


「お、おねえちゃんを怒らないであげて……」

「いや、怒ってはいないけど……」

「おねえちゃん……、わたしたちがいたから、たたかえなかったんだとおもうの……」

「え……?」


 話を聞くと。

 魔法体に最初に襲われたのは、この子だったのだという。

 しかしそこへベルの鋭い蹴りが炸裂。

 魔法体は倒すことが出来たものの……、その衝撃で建物が倒壊してしまった。


「案の定だったか……」


 けれどベルはその瓦礫から。

 彼女を、皆を守った。

 その身に大小さまざまな瓦礫を受け、一人の犠牲者も出すこと無く。


「でもみんな、それでおねえちゃんをこわがっちゃって……。まわりはへんな生き物にかこまれちゃうし……、それで……」


 なるほど。

 半ば脅しみたいにしたのは、説明しても聞いてもらえないと判断したからか。

 恐ろしい生物がいくら『逃げろ』と言ったところで、言うこと聞いて良いのか分からなくなるもんなぁ。

 それでもこの子は、ベルに感謝してるってわけか。


「だっ、だからね! おねえちゃんこわかったけど、わるいひとじゃないって、おちついたみんなもわかったから!」

「…………」


 女の子は小さな手を握ったまま、俺からベルへと視線を移し、笑顔で言った。


「まもってくれてありがとう! おねえちゃん!」

「くるる……」


 それを受けて、ベルも喉を鳴らして答えた。


「無事で何よりじゃ。ワシも、ぬしに怪我が無くて嬉しいぞ」


 近くに寄り、ひざを折り、目線を合わせて女の子の頭に柔らかく手を置くベル。


「さ、ここは危ない。ぬしも(はよ)う戻れ」

「うん! おねえちゃんも、がんばって!」


 女の子は手を振って、迎えのご両親の元へと向かい、再び避難場所へと戻っていった。

 それを見送った後、立ち上がったベルに俺は向き直る。


「ニンゲンを、気にかけてくれたんだな」

「何を言う。当たり前じゃろう」

「いや当たり前じゃ無かったよ。この間までは」

「クァハ。……そうじゃったかのう」


 まったく。覚えてるくせに。


「だいたい、ニンゲンどもは感謝しすぎじゃ。あれしきの瓦礫に身を投げ出すことなど、本当に大した痛みでは無いんじゃがな」

「それは分かってるけどさ」


 これまでは、俺の命令で人間を傷つけていないだけだった。

 けれど今は、自分の意志で人間を傷つけないことを選んだ。


「こんなに嬉しいことが……あるかよ」

「なんじゃ。泣いておるのか?」

「なっ、泣いてねえよ! 封印も外れてませんー!」

「なんじゃ残念。まぁ今のワシなら、封印が外れても好き勝手暴れんがのう」

「ウワーッ! ベルが大人になったあああ! 大人になったよおおおおおおッッ!!」


 大号泣する俺を、よしよしと乳の谷間へ誘うベル。

 まったく……。どさくさに紛れて何やってるんだか。でも嬉しいぞ俺は。


「なにせこれくらいやっておかんと、ハーレムは作れんからのう」

「……ん? どういうこと?」


 ぴたりと、感涙は止まる。

 なんか変なこと言わなかったかベル?


「いやな。これまでは力づくでハーレムを作ればいいと思っておったんじゃ。アリスに紋章をつけたときのようにのう。じゃがそれでは、身も心も屈服させる必要があるじゃろ?」

「ベルさん、何言ってんの?」

「まぁそれはそれでアリじゃが、向こうから望んでキてくれるのも視野に入れねばならん。

 ならば、ヒトらしくヒトを守ることが、一番『カリスマ性』を上げるには一番なわけじゃな!」

「……あのさぁ」

「『なんて強いバニーガールなんじゃ! これは抱いていただくしかない!』と思わせれば勝ちじゃ」

「むしろ大敗北だよ! 今な!

 お前いつの間にそんな残念な思考になったんだ!?」

「いやぁ、ワシもぬしに感化されたのう。こんなにも丸くなって」

「俺のせいだって言ってんの!? 俺のせいでそんな残念思考なったのか!? なぁ!」

「クァハハハハ! さぁコースケよ、さくっと解決してハーレムじゃ!

 なぁに。それでもなびかんなら、この功績をちらつかせればよいだけよ」

「完全にソレ目的の人助けだったんだなおい!」


 まったく。少しは丸くなったと思ったのに。

 コイツが人の心を理解するのは、まだまだ先になりそうだった。








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