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15.成り代わり



 鉱山から脱出して駆け付ける――――とは勇んだものの。

 一向に打開策は思い当たらない。


「この鉱山について、まったくヒントがねぇ……」

「困ったもんじゃ」


 無闇に動いても仕方がないので、二人してうーんと考える。

 まずは情報を整理しよう。


「一つ分かったのが……あの幼女の目的だ。

 街にモンスターを向かわせたのが彼女だと仮定すると。街、もしくはアリスたちへ攻撃するのが目的だ」

「なるほどのう。

 ワシらのほうへは向かってきておらん。つまり、少なくとも今は、街の方に狙いがいっておるわけか」

「あぁ。……けど最初に会ったダンジョン内では」

「明確にぬしを狙っておったな」

「……たぶんな」


 これも憶測でしかないけれど。

 あの言動や魔法発動のタイミング。道中でのストレスのかけ方と、そこから生じる行動の読み方。

 アレは全て、最後の一撃のための布石だったと思う。


「つまり……、最終ゴール地点はぬしなワケじゃ」

「……たぶんな」


 二度目の頷き。

 言葉までループしだしたワケじゃないです。

 ただ不透明なことが多すぎて、曖昧な返事しか出来ないのだ。


「う~ん。俺の周囲の奴を順番に消していくのが目的か……?」

「それを前提で考えてみようかのう」


 フムとベルは指を顎に当て、「ム?」「ムム……?」と、何かを思いつくようなつかないようなニュアンスで、うろうろしていた。

 日ごろのベルにしたらだいぶゆったりな動きなので、ウサミミと尻尾が見たことも無いような動きで揺れていて新鮮だ。

 ついでにおっぱいもゆったりと揺れていて――――って、俺は非常時に何を考えてんだ!


「これじゃあベルのこと叱れないな……」

「なるほど乳か。ぬしは本当に好きじゃのう」


 愛い奴めと俺の顔を自分の胸へとあてがおうとするベル。

 やめなさい! 止まれなくなるから!


「熱い視線で見られると興奮するじゃろ」

「ケモノかお前は!? あ、いや、似たようなもんだったわ……」

「あの快楽を知ってしもうたからのう。とどまることを知らんぞい」

「やかましいよ」


 こういう時でも、ベルはベルだな……。

 はぁとため息をつく。するとベルは「あ」と、これまた見たこと無いような表情をして口を開けていた。


「……そういうコトかえ」

「え!? 何か分かったのかベル!?」

「脱出には全く関係ないんじゃがのう。光魔法・ルーチェリエルの目的が、はっきりしたかもしれんわい」

「マジか」


 ベルは「マジじゃ」と頷いた。


「簡単に言えばあやつの目的は……、新たなる宿主を見つけることじゃ」

「宿主……?」

「言い換えれば主人。つまりは、ぬしじゃな」

「……あー、ゴールが俺ってそういう」

「うむ。つまりのう……」


 ベルの説明を要約すると。

 何らかの方法でニンゲン形態を得た光魔法・ルーチェリエルは、何らかの方法で俺たちの情報を仕入れた。

 そしてベルたちのポジションを羨ましく思い、排除しようとし動いた……と。


「そんなんで俺やヘリオスちゃんが納得するわけないだろうに……」


 人の気持ちをなんだと思っているのか。


「ヒトではないからのう。AになりたければAを消すというやり方しか思いつかんのじゃろう」

「でも洞窟(ダンジョン)内では、心理戦こそ得意みたいだったけどな。実際やられたわけだし」

「戦闘の心理を理解しておるのと心情を理解するのは別じゃろう。何せワシも、情緒なんかは理解しておらん。強き者や魔なる者の立場じゃからのう」

「なるほどな……」


 う~ん、でも、何かしっくりこないような……。

 ベルの説明を聞いても、なお俺が小首をかしげているのを見て、彼女は「何がじゃ?」と問いを投げた。


「俺がゴールで俺以外を排除しようとしたっていうのは、まぁ分かった。

 けど……、だとしたらあのときの――――」


『わらわの狙いが――――その男じゃと』


「――――明確な、殺意のようなものが、あった、あの攻撃が。……説明がつかない」

「フム……」


 搦め手、ハメ手、誘導、後、射出。

 俺の身体をこの姿(イケメン)に変えたあの一閃は、結果はどうあれ、明確な殺意が込められていた。

 死にはしないのだろう。けれど、仮に死んでしまっても良いと思えるような。そんな視線だったと思う。


「俺もある程度の敵とは対峙してきたからさ。何となくそういうのは分かるようになってきたんだけど……」

「ではその言を信じるとして。しかし、それならなんじゃろうな?」

「うーん……」


 じゃあ何が引っかかってるんだ?

 俺に概念変化の魔法を当てたのは計画通りだろう。で、死んでもいいというのもおそらく本当。

 俺とベルをここに閉じ込めて、時間を稼いでいる間に街を襲撃している。

 街にはアリスとヒナがいて、ヘリオスちゃんが指揮を取っていて――――


「ん……? アリスとヒナがいて……?」

「思いついた顔じゃな」


 アリス……。アリス?

 このイケメンの姿……。あいつのリアクション……。


『太ったコースケを返せ! 脂の乗った腹肉を返せッッ!』


 まぁそのあと、ベルもヒナも同じような発言をしてはいたけれど。

 でも、俺の元の容姿に一番惹かれているのも、アイツなわけで(信じられないことだけど)。

 アリスが好ましくないイケメンの姿。

 それは――――つまり、そういうこと、か……?


「だからか……? だから、俺が死んでも良いってことなのか……?」

「ぬしが死んだら良くないが」

「いやそういう意味じゃ無くて……ちょ、抱きつくな離せ!」

「嫌じゃ。ぬしにあの矢が当たった時のことを思い出してちょっと気持ちがきゅっとなった。べたべたさせろ。ぬくもりを渡すがよい」

「いきなりカワイイこと言うな! いいから頭がはっきりしてる間に言語化させてくれっ!」


 無理やり引きはがして間を取る。

 こほんと咳払いして仕切り直し。


「ベルの推理は途中までは合ってたんだ。けど、最後の一ヵ所が違う」

「ふむ」


 どこからか俺たちの存在を仕入れて、鳴り替わろうと思ったのまでは合ってるんだろう。

 だけど、その後だ。


「あの幼女の想定してる未来に、ベルとヒナはいないんだろ? なら、二人と紐づいてる俺もいらない(・・・・・・)んだ」

「ほう? ……なるほど」


 そう。

 人外を管理するのは、天界側のヘリオスちゃんと、地上の人間が一人居ればいい。


「そして、俺をこの姿に変化させた理由。それも説明がつく」


 アリスが興味の無い容姿。それがイケメンだ。

 もっと言えば。

 彼女が興味津々の太った身体。

 ルーチェリエルとしては、それと逆の姿に変化してくれれば何でも良かったわけだ。


「なるほどのう……。あやつは神代を生きた光魔法。

 ニンゲンの容姿ストックは無いが、ニンゲンとよう似たモンスターのストックならあると」

「そう。全ては、アリスが俺に興味を失くせばいいと考えた」


 勿論アリスは、それくらいで俺への興味を失くさない。が――――


「人間の心理を理解していない人外(もの)からすると、あり得る思考回路じゃなァ。

 かくいうワシも覚えがあるわい。……今もちょいちょいあるわい」

「お墨付きいただきました!」


 というわけで。

 ルーチェリエルの目的は――――


「俺ではなく……アリスだ!」


 たどり着いた答えと共に。

 俺たちは戦禍に想いを馳せた。

 しかして脱出の糸口は。

 未だ見えない。







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