14.防衛戦線
『――――というわけです、アリスさん。西門の方角からの進行を防いでください』
「分かりました! 急行します!」
ヘリオスちゃんから連絡を受けた後、私はヒナと一緒に街の外へと急ぐ。
「もう門に詰めてきてんの?」
「数は少ないがそのようだな。しかし、一体一体が異常魔力を吸って狂暴化しているモンスターらしい」
「そんなん。この辺りの冒険者じゃあ、太刀打ちできるヤツ少ないっしょ~」
「あぁ。だから急がなければならない――――なに!?」
走る私たちの頭上を、黒い影が横切る。
「ダークバット……!? 空からもか!」
鋭い牙と爪を持った、空を飛ぶ魔物。それがこの街に侵入してきている。
モンスターとしては小柄だが、対応できない者にとっては十分脅威になり得るだろう。
「この……!」
ヒナは掌に小型の魔剣を召喚し、ダークバットに投げつけ、たちどころに三体を消滅させた。
「ケド……数多くね?」
「これは、街の者には避難してもらわねばならんな」
「協力じゃなくて?」
「これ以上の強さの魔物が来たら大変だろう。いくら冒険者が自己責任の職業とはいえ、死人が出たらコースケが責任を感じる」
「……愛されてんね~。
でも、アタシもそれは嫌かな!」
二人して力強く頷く。
「そっち、考えあるカンジ?」
「なとなくな。後は走りながらまとめる。なのでヒナ」
「おっけ。先にガンダするわ」
「頼んだ」
「獲物残ってなかったらごめんちょ☆ ……そんじゃ!」
ヒナは軽口を叩きながらも、真剣な眼差しで西門へと走った。
「……、」
小さくなっていく背中を見送りつつ、私は高速で考えをまとめていく。
既に西門付近にいた一般冒険者は、戦闘を開始していると情報が入ってきている。
「非常事態だ。天界絡みであることも人外であることも隠さなくて良い。
……とは言え。あまりにも人が多すぎると、かえってヒナは戦いづらいだろう」
彼女の戦闘スタイルの一つに、疑似魔剣を召喚・展開しての投擲がある。
先ほどダークバットへ放った攻撃の上位版だ。
一本一本をどこまで正確にコントロールしているのかは分からないが、万が一一般冒険者に当たってしまうと、下手をしたら魔物の一撃よりも深手を負ってしまうかもしれない。
「では私の役割は……、一般人と冒険者の誘導だな」
私は道中にあるギルドをちらりと見やる。
表に出しっぱなしにしてあった拡声の魔法筒を、走りながら手に取った。
「おいアンタ……!」
「代金は後で支払う! 借りるぞ!」
ギルドの主人への返答もそこそこにそのまま走る。
よし、西門が見えてきた。
私は見張り台の上へと駆け上り、魔法筒へと声を乗せた。
「【一般冒険者に告ぐ! 冒険者は全て、街の中の警備に備えよ!】」
「……!?」
突然の指示に戸惑う冒険者たち。
無理もないだろう。街中のアナウンスとは違うことを、いきなり若い娘が言い出したのだ。指示に従う道理はない。――――が、それでも私は言葉を続ける。
「【繰り返す! ここには強力な援軍が到着することになっている! 一般冒険者は空からの襲撃に備え、街の中の警備に当たれッ!】」
「アリしゅ……」
既に戦闘を開始していたヒナと一瞬目が合う。
互いにこくりと頷くと同時。ヒナは再び戦闘を。私は声を張り上げた。
「【そしてここには、広範囲殲滅の技を使用する者もいる! 一撃一撃が即死級の威力だ! 巻き込まれたくなければ下がれ!】」
「即死級……!?」
「マジかよ……」
「いやいや。そんな冒険者、この街にはいねえぜ?」
「でもそれじゃあ、俺たちを退避させる理由が無くねえか?」
更なる混乱を呼んでいるようだが、ある意味計算通りだ。
敵を欺くには~ではないが、身をもって実感してもらおう。
「【かまわん! ヒナ、六割の力でやってやれ!】」
「オッケーアリしゅ!
みんな~~~~! アタシより前に出ちゃダメだかんね~~~~!」
ざわめきは増す。その視線は、突如大量のモンスターの前に躍り出た、謎のギャル剣士に集まる。
「疑似魔剣――――展開ッ!」
両手を大きく広げるヒナの周りに、十二の剣が召喚される。
「――――一斉射出ッ!」
広げた両手を素早く前へと送ると、魔剣は一斉に射出され、モンスターを斬り刻んでいった。
漂う血飛沫。舞う瘴気。
ある意味地獄絵図のような光景が、一瞬にして眼前を覆う。
「【今のが六割だ!】」
「これに更に魔力が乗って、前後左右に乱れ打ちするから。そこんとこヨロ♪」
「「「「――――……ッッッ!!!?」」」」
「モンスターも来ちゃうからサ。あとじゅーびょーで次イクよん☆」
「「「「こ、ここはまかせましたああああああああああッッッ!!!」」」」
青ざめる冒険者たちは、一斉に門の中へと走っていく。
ヒナはそれを見て、「よくできました♪」とこちらにピースを送った。
「見張りのきみたちも、街中の警護に当たれ」
「し、しかし……!」
「ここまで流れ矢が来ないとは保証できんが?」
「わ、分かりました……!」
こうして西門付近には、私とヒナだけが残った。
「さて、それでは有言実行だな」
私も高台から降り、剣を構える。
「待たせたね、ヒナ。『強力な援軍』、到着だ」
「これは強力だね☆ やっちゃおうぜ~アリしゅ!」
ずらりと立ち並ぶ、百を超える異常モンスターに囲まれる。
「仮装着解放! 及び、武装装填へ『魔の力』付与ッ!」
「本領魔剣――――展開ッ」
対するこちらの戦力は、二人。
だが……!
「耐えて見せるさ、あの二人が来るまでな!」
「いやいや、むしろ残さず平らげようよ☆ あの二人が来るまでに!」
笑い合う。
にじり寄る。
そして――――開戦する。
「「行くぞッ!!」」
こうして。防衛戦線という名の、殲滅戦が幕を上げた。
日が高く昇る、正午のことだった。




