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12.魔竜の更なるナニカ



『ベルアインが起きてくる前に、少しよろしいでしょうかコースケさん』


 昨日の夜遅く。

 俺は別部屋にて、ヘリオスちゃんと二人だけで話をすることになった。


『あなたにはベルアインと行動してもらうのですが……。そこで一つ、秘密裏に探っていただきたいことがあります』

「ベルに秘密で……かぁ。なんかバレそうな気もするけど」

『バレてしまったら素直に話してしまって構いません。まずはお耳を頂戴しても?』

「いいよ。聞こう」


 ありがとうございますとヘリオスちゃんは笑って、指を立てた。


『この間も説明をしましたが、ベルアインは本来、弱体化していなければおかしいのです』

「あぁ……、アリスとヒナが加入したことで、魔力の流れがおかしくなってる……みたいなアレね」


 本来なら魔力の流れが、


 天界 → 俺 → ベル → 天界 ……


 となっているのが、今は、


 天界 → ↓   ↓ ← 俺 → ベル → ↓

     ヒナ → アリス ↑ ← ← ←  天界 ……


 みたいになっていて、しっちゃかめっちゃかになっているのだとか。

 俺とアリスは恩恵を受ける側なので問題無し。

 しかしその中央に位置するベルは違う。

 体内の血流がぐちゃぐちゃになるようなものらしい。

 普通なら立ってるだけでも奇跡的――――なはずらしいんだけど。


「でもアイツに聞いたら、ヒナっていう人外が加わったことで、むしろ安定したって言ってたな……」


 嘘をついてるようにも思えなかったし。


『えぇ。私もベルアインが嘘をついているとは思いませんし、体調(バイタル)もこちらで管理しているので、その言は本当でしょう』

「そっか。なら良かった」

『はい。良かったです。――――が、』


 ヘリオスちゃんは微笑んだ後、真っすぐにこちらへ視線を向ける。


それでは(・・・・)というお話をさせてください』


 一瞬何のことか分からなかったが、これまでのことを整理してみると、彼女が何を言いたいのかが理解できた。


「なるほど……。『それでは何故、ベルは弱ってないのか』って話か……」

『えぇ。ヴァルヒナクトが加入しようが何だろうか、本来ならば弱っていなければおかしい状況です。しかしベルアインは弱っていない。

 ではもしかしたらの話。逆にパワーアップしている可能性がある』

「パワーアップ……」


 マジですか。

 これまでも散々、厄災や大魔神めいた強さを発揮してたのに、これ以上強くなってる可能性があると?


『というより、確実にパワーアップしているはずなのです。ですが、今のところその力は発露されていない』


 なのでコースケさんと彼女は続ける。


『ベルアインの強さの上限突破。その条件を、見つけてください』

「あー……なるほど。確かにこれは、ベルには言わない方が良いな」


 今のあの体の中に更なる力が宿っていると分かれば、知らず知らずのうちに上限を超えようとして無茶な動きをするかもしれない。


「でもバレたとしても……話せば分かってくれるか」

『今のコースケさんとの関係性なら、ですがね』

「素直に照れるなぁ……」


 明確な恋仲になったわけではないけれど。確実に心の距離は近づいている。

 人と関わることが苦手だった俺にしてみれば、あり得ないくらいの進歩だ。


『ただし、カッコイイと思い過ぎないでくださいね!』

「うっ……、気を付けます……!」


 俺たちが行くところは鉱山だ。

 枷が外れてしまって暴れ回られると、鉱山自体が崩壊して生き埋めになってしまうかもしれない(それでも生きて帰れそうではあるけど)。


「それじゃあその任務……承った!」


 ――――と、そんなやりとりがあって現在。


「……モンスターがいねえ」

「静かなもんじゃのう」


 青白く光り輝く、クリスタルの路を行く。

 この鉱山は基本的にはだだっ広い作りになっている。なので遠くまで見渡せるのだが……。


「――――敵影無しか?」


 俺の質問にベルは、つまらんと言いながら髪をかきあげる。


「影どころか匂いも無いわい。こりゃあ少なくとも、このフロアには生物はおらんぞ」

「マジか」


 この鉱山は見かけこそ山になっているが、ここから地下へと続いている。

 情報によれば四階層。

 そこから先は掘り進めていないのだそうだ。


「十五年くらい前までは普通の鉱山だったらしいんだけど、そこにモンスターが住み着いちゃったらしくてさ。ここの主を誰も倒せて無いから、それ以上の開発がストップしちまってるんだと」

「それでも浅い階層から、鉱物を採取しておったのか。涙ぐましいことじゃ」

「まぁこのあたりで、一番取れるところらしいからな。完全放棄するには勿体ないだろうし」


 あの街があそこまで大きく発展してるのも、この鉱山の恩恵もあるだろう。

 仮に俺たちがこの場所を元に戻してやれたとしたら、少しは役に立てるかもしれない。


「じー…………」

「ん? どうしたベル?」

「いやな。やはりその姿、慣れんなあと思うての」

「また唐突だな。……まぁ確かに、お前はずっと寝てたからなあ」


 このインキュバス(イケメン)の姿を見て、合計四時間くらいしか経ってないのか。そりゃ見慣れないよな。


「やっぱベルも、元の姿の方が良いと思うのか?」


 アリスとヒナにも散々言われたことだ。

 ため息をつきながらの質問に、しかし意外にベルは横に首を振った。


「いや。どちらでもよい」

「そうなの?」

「まぁ見慣れておった元の姿に戻って欲しくはあるがのう。

 しかしぬしが一生その姿だとしても、ワシは変わらずぬしを好きじゃぞ」

「おっ……おふぅ……」

「なんじゃその息は」

「いや……面と向かって言われるとな……」


 照れる。照れすぎる。

 普段勝気な美女がふいに柔らかく微笑むというギャップは、あまりにも破壊力が高すぎた。


「まぁ、それはアリスもヒナも同じじゃろうけどのう」

「なんだよ。じゃあ結局二人と一緒なんじゃん」

「うむ。あやつらはぬしのことをよう好いとる。みなで下着を買いに行った時もそうじゃった」

「お前ら俺の知らないうちにそんなことになってたの!?」

「女子会というやつじゃ。それはともかく。

 ぬしのその姿は、好む好まんはさておき。『状態異常』中じゃということを忘れるでないぞ」

「状態異常……か。確かにな」


 今はたまたま良いように効果が回っているだけで、本来の姿とは違うという事実は変わりないのだ。


「ワシの身体だって、本来とは違うモノじゃ。天界の監視下にあるから、成立しておるようなもんじゃしのう」


 言いながら、自身の凹凸のあるボディーラインを撫でまわすベル。

 無意識なんだろうけど、ナチュラルに動作がエロいな……。


「ま、異変が起こったらワシや小女神がいち早く気づくでのう。心配はせんでも良いが」


 ……異変が起こってるかもしれないのはお前も同じなんだけどな。


「でもそうか。俺も監視下に入ってるようなもんなのか」

「そうじゃぞ。じゃからワシらのアレコレも、小女神には筒抜けじゃ」

「………………ソウデスネ」

「あの小女神はどっちなんじゃろうのう。アリスと同じくムッツリなのか……。それともヒナと同じくオープンなタイプか……」

「お前、エロのことになると雄弁になるよね……」

「欲望に忠実じゃからのう!」


 クァハハハと豪快に笑う、オープンなタイプのベルだった。


「……あーそうだ」

「ん? なんじゃ?」


 一旦足を止めて、先を行く彼女に俺は言う。


「言われっぱなしも癪だから、俺も言っとくわ」

「フム?」


 こちらを向く彼女。揺れる長い黒髪とバニー耳。

 目と目が合ってから。きちんと言葉にする。



「俺も、お前がどんな姿になっても、変わらず好きだから……!」

「――――」



 一瞬の間。

 後、衝撃。

 それがベルに押し倒されたのだと、後になって理解できた。


「もう無理じゃ。まぐわるぞコースケ」

任務(クエスト)中だ離しやがれ!」

「大丈夫じゃ。小女神はヒナを見ておるから、今は監視をしておらんわい」

「そうじゃねえよ! 敵がいつ襲ってくるかわかんねえだろ! それにこんなミラーハウスみたいな場所でヤれるかッ!?」

「フム……。大勢に見られておるようでちと興奮するのう」

「無敵かお前!?」


 色気たっぷりにしなだれるベルは、所作とは裏腹に力が強かった。

 好みの外見じゃ無いとか言いながらも、簡単にデレすぎやしませんかねえ!?


「ちょ……! お前マジで……! おい、無言なのやめろぉ!? あっ、あ~~~~~……ッ!!」


 きらきら光る洞窟内に、俺の情けない声がこだまするのだった。

 ……あ、さすがにしてませんので。






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