10.アリスのウェポンズ
「――――ビ、ミ、ョォ、ォォォ……」
消滅していくオーガを完全に見送った後、俺はアリスに駆け寄った。
役割を終えたと思ったのか、アリスはバニー化を解除し、元の軽鎧姿で綺麗に立っている。
「うまくいって良かったよ」
「おま、お前、何やったんださっきの!?」
「まぁまぁ落ち着けコースケ。その姿で迫られても全く嬉しくない」
「特殊な感性だなほんと!」
自分で言うのもなんだけど、本当なら、イケメンに迫られた方が嬉しい人が大半なんだからな!? 魅了とか関係なしに!
「ん? なんかヘリオスちゃんからも連絡入ってる?」
「なんと?」
「メッセージで、『何したんですかアリスさん!? 分かりやすく説明をお願いします!』とのこと」
「そうだね。それじゃあせっかくだ。森を出て街に戻ってから、ヒナも交えて説明してしまおう」
「おっけ。ならそう伝えるぜ」
そして朝日が昇り、昼前。
森を出て街へ空間転移し、ひと眠りして起きる。
日も沈み始めた夕方ごろ。
ヘリオスちゃんを加えた俺たちへ、アリスは説明を開始した。
『想像力で……』
「武装装填を操った?」
「は? マジば?」
「うむ。マジばだ」
マジばというのはマジ話の略です。念のため。
アリスは優雅に紅茶を口へ運び、一息ついて再び口に含む。
「武装装填というのはそもそも、『バニーガールが持っているであろう物』を呼び出し、『強力な武器の概念』を加えて扱うことができる能力……だろう?」
「そ、そうだな……」
画面の向こうでヘリオスちゃんも、『うんうん』と頷いていた。
ここまで食いつきの良いリアクションをするのも珍しいな。ワンコみたいでかわいい。
「だからアタシもアリしゅもベルりんも、『バニーが持ってるもの』で武器作ってるじゃんね?」
ヒナがワインとか酒の瓶。アリスは銀のトレー。ベルが手持ち看板だ。
たしかにこれらは、バニーガールが持っていてもおかしくはない物である。一般人に聞いてみても、みんな納得する物品だろう。
「そこなのだがな、コースケ。
あくまでも武装装填は、個人の想像の範疇からきているということだ」
「個人の……? あぁ、たしかにな」
俺は使えないから分からないけど。
使ってる三者はそれぞれ、世間一般のバニーガール像とは関係なく、自分のイメージだけで武装装填を構成している。
その証拠に。ベルが武装装填を使えるようになったのは、実物のバニーガールを見た後だった。
アイツの中に実物のバニーガールのイメージが芽生えたからこそ、武装装填を作ることが出来たのだ。
「なので私はこう思うことにしたんだ。『バニーガールは剣を持っているものだ』と」
「「………………うん?」」
『アリスさん?』
「バニーガールは剣を持っているんだよ。トレーや酒瓶、立て看板と同じように。騎士が持っているような鋭い剣を、彼女らだって番えている。そんなバニーもきっとこの世に存在する」
「え……、えぇ~……」
「――――そう自分に言い聞かせることで、私の中の常識は上書きされ……『バニー剣術』が誕生したのだ」
「「『…………………………」」』
ドヤ顔で言い切るアリスを前に、俺たち三人は呆気にとられる。
「いやまぁ、その。理論は分かったよアリス。確かにそれならできそうだけど……、」
ちらりとヘリオスちゃんとヒナを見る。
二人はめちゃくちゃ神妙な顔をして腕組みをしていた。
「コーにゃんは……使用者じゃないからわかんないよね~…………」
『簡単に言っていますが、とんでもないことですよこれは…………』
「やっぱそうなのか……」
だってさ~とヒナは口を開く。
「自分の根っこにある想像力を、更につよつよ想像力で上書きするってことっしょ? ありえんてぃだから――――」
『そんなの、相当強い想像力を持っていなければ成立しません。
これまでの自分自身を捨てる勇気と、自分自身の常識を再構築できる気力を持ち合わせていないと――――』
そこまで言って二人は「『あっ」』と目を合わせた。
「アリしゅは、」
『アリスさんは、』
「『ドがつくほどの想像力大魔神だった(でしたね)!」』
「え……?」
「…………!」
一瞬の静寂。その後、再びヘリオスちゃんとヒナの声がこだまする。
「そーだよ! アリしゅはいっつもムッツリな想像しまくってるし!」
『それに、定期的に散々な目に遭っていますからね! 常識改変をさせられるプロと言えるでしょう!』
「いやらしいコトを考えちゃう自分の特性を戦闘に応用するだなんて、さすが妄想のプロ!」
『時折作戦会議中にもコースケさんの身体を舐めるように見つめていたのも、この力を育むためだったのですね! 見直しました!』
「………………~~~~っ」
ドヤ顔をしていたアリスの顔は、瞬く間に紅潮し、ぷるぷると震える表情に変わっていく。
「ドエロなアリしゅまじえぐいって!」
『妄想を力に変えられる、最高の仲間を持ちましたねコースケさん!』
……二人とも。とりあえずそのあたりで。
彼女の尊厳のためにも、どうか一つ。




