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9.芽生えた魔の力



 コトが終わり、森を引き返す。

 夜もだいぶ更けてきたので、来るとき以上に慎重に歩を進める。


「まぁどっかで一度、戦闘はするんだけどな」

「う……うむ。そうだな」

「……」


 あれからというもの、どうしてもアリスは俺と目を合わせてくれない。

 確かに『致した』んだろうけど、夢の中なんだし、かつ、互いに記憶は消されてるはずだ。

 あまり引きずらないでほしいんだがなあ。


「なぁアリス」

「ぴっ!?」

「うーん……」


 これでは会話にならない。

 既にヘリオスちゃんとの会話は切れてしまっているため、森は二人で進まなければならないんだけどなぁ。


「コホン……。いや……すまない」

「ん? 大丈夫か?」

「そうだよな。きみが毅然とした態度を取っているにも関わらず、私がこうではいけないよな」

「まぁその……。無理は強いたくないんだけどさ。

 それでも、メインで戦うのがお前な以上、いつまでもそうされても困ると言うのが本音だ」

「分かっている。

 ……よし、切り替えた!」


 ぱんと自分の両頬を叩くアリス。

 気合い入れるのはいいけど、お前の両手は籠手(ガントレット)だろ? 絶対痛いよなソレ。


「とりあえず……帰るまではもたせるからな」

「お、おう……。信頼してますので……」


 ひとまず持ち直したアリスは、すっと剣を抜き、軽く魔力を流し込む。

 すると剣は、淡く緑色のオーラをまとった。


「これが『魔の力』か……」

「あぁ。森を出る前に、何度か戦闘をしてこの力に慣れておこうと思う」

「ぶっつけ本番は怖いからなあ」

「それに、試してみたいこともある」

「……?」


 疑問もそこそこにほどなく歩くと、そこには行きがけに見たようなコカトリスがいた。

 鶏の頭だから鳥目なのかとも思ったが、ぎょろぎょろと目を動かしているあたり、夜でも関係ないらしい。


「では行ってくる。コースケは周囲を警戒し、奇襲や増援に備えておいてくれ」

「分かった」


 静かな足取りでコカトリスの前に立つアリス。

 獰猛な瞳と嘴による威嚇。しかし歴戦の戦士である彼女の前では、それも響くことは無い。


「行くぞッ!」


 魔の力を纏ったアリスの剣が、コカトリスの胴体を狙う。

 しかし流石はBランク地域のモンスター。素早い動きで一閃を回避した。


「でもアリスなら……ん?」


 剣を振り下ろしたアリスを見ると、身体中が淡く発光している。


「アレは……、仮装着(ドレスアッパー)が発動してる!?」

「やはりか……」


 アリスの装備はこれまでの軽鎧から、バニーガール衣装へと変化していた。


「おかしいな。バニー衣装になるのは、相当魔力と闘気が昂ったときだけなのに」


 たしかにBランクの敵。世間的には強敵だ。

 だけどあれくらいなら、変身せずとも問題ないはずだ。


「そうか……。魔の力!」


 アリスは今、魔の力を纏っている。だから魔力の昂りだと身体が判定したのかもしれない。


「織り込み済みさ。はぁぁぁッ!」


 手持ちの武器が剣から銀のトレーに変更されるも、すぐに対応して攻撃を開始する。

 とんでもないスピードでバジリスクへと迫ると、あっという間に胴体を両断することに成功した。


「よし! やった!」

「ふむ……」


 生命活動を停止し、中空で散っていく敵影。

 それを見送ったあと、アリスは「よし」と続けた。


「バニーにもなれた。次が本番だ」

「え? そうなのか?」

「あぁ。この後もう一戦だけ付き合ってくれコースケ」

「それは構わないけど……。あれか? さっき言ってた、試したいことってやつか?」

「うん。私の考えが正しければ……。いや、私の意思(・・)が強ければ、おそらく」

「?」


 疑問のまま、バニーガールのアリスと共に森を行く。

 夜はモンスターも活動をしていないのか、来る時ほど姿を見かけない。

 だからついつい、彼女の凹凸のついた肢体に目がいってしまう。


「…………」


 夢の中とはいえ、この身体とコトを成したんだな俺……。

 こっそりヘリオスちゃんに、記憶を消さないようお願いすればよかったか? いやいや! それは流石にアリスの信頼を損なう! ……でもどんなコトをしたのかくらいの情報は知りたいような。……って、ダメだって! しっかりしろ俺ッ!


「大丈夫かコースケ?」

「あっ、あぁうん……すまん」

「体調でも悪いのか」

「い、いやすまん。さっきアリスに注意したばっかなのに、俺も思い出しちゃって」


 俺がそう言うとアリスは「ぺひぃっ!?」と奇妙な音を口から発した。

 コカトリスの鳴き声に似てたな。


「おっ、思い出したって……! そ、そういうことか……っ!?」

「いやいや! 記憶は戻ってないって! そもそも、そんなコトしたっていう実感すら無いんだから! ただ、夢の中でしちゃったんだなぁって実感しちまっただけでさ!」

「そ…………………………ソウナノカ」

「どうした?」

「いや……あの、……ナンデモナイデス」


 勢いよく迫ってきたかと思えば、いきなり大赤面と共に意気消沈するアリス。

 湯気っつーか、すごい変な汗かいてるぞ。大丈夫か。


「アリス~……?」


 なにやらへたり込んでぶつぶつ呟いている。


「だって……がおっきく…………で、…………にむりやり…………ゆびも……」

「うーん、聞き取れん」


 まぁいいか。しばらくしたら回復するだろう。

 そうして騒いでいたからか。森の奥からがさがさと巨体が現れる。

 コイツは……。


「グルォォォォッ!!」

「オーガ!? しかも、めちゃくちゃでかい!」


 ゆうに六メートルはくだらない鬼のバケモノが、俺たちの前に現れていた。

 絶対Bランクで出てくるモンスターじゃないぞ!? 下手したらAランクでも見ない類だ。


「アリス! ……おいアリス! 出番だぞ!」

「そんなおくちに……って…………でも、お前のなら…………そこ…………違うトコ…………引っ張っちゃ…………♡」

「アリス! アリスさああああん!! なんか股もぞもぞしてるとこ悪いんですけどね!?」

「あっ強い♡ そんな無理やり♡」

「帰ってこいやああああああ!?」

「はっ……私は何を!?」

「こっちが聞きたいよ……」


 正気に戻ったバニーは、振り下ろされる巨腕をトレーで受け止める。

 質量が違いすぎるが、流石は勇者の力。普通の人間なら一撃でつぶれている攻撃でも、根を下ろした巨木のように微動だにしない。


「よし、行くぞ! ……はぁぁぁぁぁッ」

「ゴァウッ!」


 巨腕を跳ね返し、彼女はその場で気合いを溜める。

 魔力が呼応し身体中にオーラとなって現れる。それと同時。バニー化前に見た、緑色の魔力もわずかにあふれ出ていた。


「あれは……、獲得した『魔の力』か?」

「おぉぉぉッ!」


 大きく撃ち合う二体。

 巨体のオーガ矮躯のアリスは、正面から撃ち合っている。


「バニーガールがもっているものが……武装装填(ウェポンズ)となる……」

「ん?」


 撃ち合いながらもアリスは、何やらぶつぶつ呟いている。


「つまり……『想像上のバニーガールが持っているもの』なら……」

「アリス! 大丈夫か!? 集中しろ!」


 あいつ、またさっきまでの呟きモードに戻っちゃったんじゃないだろうな!?

 しかし俺の心配をよそに、呟きながらもアリスは互角――――互角以上にオーガと撃ち合っていた。

 そして。


「ふッ!」


 アリスはピンヒールで地面を大きく蹴り、中空へと飛び上がる。

 魔力の昂りと共に、最後の一撃を放つのかと思ったら――――


「――――武装装填(ウェポンズ)解除!」

「えっ、武器を消した?」


 解除を唱え、彼女は無手になる。しかしまだ魔力は纏ったままだ。

 まさか実験したいことって、ベルみたいな徒手空拳なのか?


「ここからだ! はあああっ!」


 中空からオーガの頭部目掛けて落下するアリス。しかしそこへ、オーガの巨腕が迎撃にかかる。


「まずい!」


 先ほどは武装装填(ウェポンズ)のトレーを盾代わりにしたから受け止められたんだ。いくらバニー状態と言えど、あんな一撃をモロに受けたらたまったもんじゃない。

 だけど、俺はふと気づく。


「手にもう一度魔力が集まってる……? まさか、また武装装填(ウェポンズ)を!?」

「想像上ならバニーは何でも持っていていい(・・・・・・・)――――」


 瞳を閉じた彼女は、まるで言霊であるかのように口を開く。


「『バニーガールは……」

「グォォォォッ!」

「剣を持っている』ッッ!」

「これは……っ!?」


 光り輝き、再びアリスの手には武器が持たれている。

 それは――――


「アリスが元々持っていた剣!?」


 剣を持つバニーガールは、魔力と――――『魔の力』を纏ったまま、オーガへと落下する。


「グルァアアッ!」

「はぁぁぁぁぁッ!」


 そして一閃。

 アリスは迫る巨腕ごと、オーガの巨体を真っ二つにしていた。

 鋭い切れ味に、瞬間無音になったのかと思ったくらいだった。

 残心を取った彼女はすくっと立ち上がり、くびれた腰に手を当て言う。


「完成したな……。名付けて、バニー剣術ッ!」

「いや……そのネーミングはどうなんだろう」


 消滅していくオーガの思念も、「ワシそんな微妙な名前の技に負けたの……?」と言っているようだった。

 だよねえ。

 できればかっこいい技で、倒してもらいたいよねえ……。






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