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7.正体判明・2



 インキュバス。

 サキュバスの男性版のようなもので、女性を魅了する夢魔の一種らしい。


「というかきみ、サキュバスは知っているんだね」

「それはほら……。男なら一般教養と言いますか」


 ともかく。

 俺はこの姿に変わった瞬間から、インキュバス特有の魅了スキルが発動していたのだとか。

 パーティの三人に効かなかったのは、天界の魔力が流れていたからとのこと。


「なるほど……。つまりあの幼女は、俺をインキュバスに変えたかったってことか……」

「これがヒントになるかは分からないが、一つ前進はしたね」

「早めに気づけて良かったなぁ。仮に原因分からずに他の冒険者たちと出会って魔物除けに入ろうもんなら、二人とも気分悪くなってたぞ」

「私は魔物ですらないのになあ……」


 誤解を受ける前に判明していて良かった。

 ヘリオスちゃんとは対話が繋がったままなので、せっかくだからそのまま移動中も話すことに。

 パーティメンバーが一人増えたみたいで少し楽しい。

 助言や加勢は出来ないけど、昨日みたいな作戦会議を続けることは可能だ。


「ヒナには後で共有することにして、少しでも会議を進めておくか……」


 幸い、薬草の効果でモンスターはかなり早めに察知できる。

 ほとんど戦闘をせずに目的地までたどり着くことも可能なはずだ。


『では、あのダンジョンの主についてですが』

「主……」


 つまり、あの銀髪の幼女だ。

 明確な敵意を持ったアイツは、いったい何者なのか。


「魔法がヒトになったって言ってたけど……」

「とんでもない力を持っていたな」


 ヒナがダンジョン内で言っていたが、神のような力を持っているとか。


『はい。こちらも更に詳しく調べました。

 アレは魔法・ルーチェリエル。人間でも使い手が限られる、極大の光魔法です』

「光魔法……」

「それが、人の姿に……か」


 ヘリオスちゃんは頷く。


『コースケさんは、今の神様とお会いしているのですよね? 私と会う前に』

「え……? あぁ、そうだね。

 くたびれたオッサンでさ。忙しいって言いながら、俺に力を渡して去って行ったんだよ」

「きみ、そんなことがあったのか……。思ったよりすごい経験してるな……」


 考えてみりゃそうなのかもしれないけど、全然威厳が無かったからなぁあのオッサン。ほんの二、三分だったし、実感が湧かないんだよなあ。


『その神様は約六千年前、天界と魔界の大戦に参加されました。

 そしてそのときに放った大魔法が、極大光魔法・ルーチェリエルなのです』

「ろくせんねんまえ……」

「教本でもわずかにしか触れられてない部分だね……」


 現代日本の六千年前っていつだっけ? 縄文時代とかだっけ?

 古代メソポタミアがそれくらいとか、どっかで聞いた気がするけどともかく。途方もない年月だということは分かる。


「ちなみにヘリオスちゃんはそのとき……」

『存在しておりませんね! どころか、神・女神という概念が無く、そもそも神自体がヒトガタではありませんでした!』

「あ、えっと、はい……」


 スケールがでかすぎてよくわからん。

 ただ、天界的に考えても相当昔だということだろう。

 アリスは脇で、「索敵は任せろ。頭を悩ませるのは任せた」と肩を叩いた。

 責任逃れしやがったかと一瞬思ったが、俺にしか分からない部分もあるかもしれないから……、俺が頑張るしかなさそうである!


「じゃ、じゃあさヘリオスちゃん。そんな遥か昔に放たれた魔法が、どうして今も消滅していないんだ?」


 どうにか理解しようとしながら、俺はヘリオスちゃんに質問を投げる。


『おそらく神様の魔法が強すぎたのでしょうね。今の神――――ルイン様は、歴代の神でも最高の魔力をお持ちでしたから』

「あのオッサン、ルインって言うのか……」


 理解できるところだけを拾って口に出していく。

 ヘリオスちゃんがどれだけ分かりやすく説明していても、スケールが違い過ぎて脳が追いついてこないので、せめてもの処置だ。


『ルイン様の魔法は世界全土に響き渡り、この地に居たほとんどの悪魔を一掃したと言います』

「悪魔……。魔物ではないと……」

『まぁ勿論、悪魔の残党も居はしたらしいのですが。そこは今は関係が無いので省きまして』

「はぁ」

『それから魔王が襲来するまでの三千年余り、この世界には平和が訪れたということです』

「えー……と。つまり、一度は世界を平和に導いた魔法――――の残滓が、あの幼女ってこと?」

『そういうことになりますね』

「やばいじゃん!」


 え、そんなとんでもない存在なの?

 スケールが違い過ぎて理解できない存在と、俺たち戦ったってコト?


『無論、その魔法の威力そのものではありません。

 ルイン様が放った魔法が一億神パワーだとすると、だいたい百万神パワーくらいです』

「規模がわからん……」


 なんかさっきから、スケールが違う、規模がわからん、スケールが……と、ループしてる気がする。


『まぁ、ベルアインで例えるとするならば。

 全盛期の魔竜状態でも、五十万神パワーくらいですね』

「……マジか」


 間抜けなワードでも戦慄する。

 今のベルの魔竜状態は、全盛期――――人々を苦しめていたらしい時期の、十分の一くらいだと聞いている。

 それよりも遥かに強い相手……ってことは、俺たちの手に負えるモノじゃないんじゃないか?


「ヘリオスちゃん、続きを頼みます」

「アリス?」


 俺が青ざめた顔をしていると、周囲を警戒していたアリスが言葉を投げた。


「あなたが私たちを不用意に不安にさせるワケが無い。

 続きがあるのでしょう? あのダンジョンの主を倒すための、説明の続きが」

『勿論です! ありがとうございますアリスさん!』


 にっこりとヘリオスちゃんは笑い、説明を続けた。


『魔法・ルーチェリエルは、極大の光魔法。

 その光魔法を成立(・・)させるには、魔法単体のチカラでは不可能です』

「……なるほどな」

「え? どういうこと?」

『アリスさんはすごいですね! もう分かっちゃいました!』


 分かりやすいのは良い事ですとヘリオスちゃんは笑っていた。

 頼むから俺にも分かるように説明してもらっていいですか。


「まぁつまりだコースケ。早い話、レーヴァの街と同じことだ」

「レーヴァ……。お前と会った街のことか?」

「あぁ。あのときも私たちは、大規模な術式を成立(・・)させないために動いただろう?」


 アリスと街中を駆け回ったことを思い出す。

 初めてのバニーでアリスは照れに照れ、乳がはずんで尻肉がぷるぷるで……。って違う! 思い出すのはそこではなくて。

 街中の封印箇所を破壊して回ったんだっけ。鐘塔とか広場とか、いろいろ。


「あーなるほどな?

 つまりルーチェリエルも、色んな場所から魔力を吸いあげて、あそこに居るってことか」

『その通りです! ちなみにその影響を受けているから、異常モンスターが発生しているんですね!』

「けっこうな点が繋がったな……」

「だから、あと不明瞭な点といえば。

 どうして光魔法・ルーチェリエルが、きみをインキュバスに変えたのかというところだね」

「結局そこかぁ」


 でもだいぶ全容が分かってきた。


『敵の思惑がどうあれ、倒してしまえば問題ありません。

 理由など、その後にじっくり聞き出せばいいのです』

「ヘリオスちゃんってけっこう脳筋なのだな」

「あぁうん。仲間には優しいけど、敵には容赦ないよ」


 これも一つの分かりやすさか。

 考え方がシンプルな方が、やる方も楽だしな。


「今のでおおよその予想はついたのだがヘリオスちゃん。

 こうして向かっている奥地に、ルーチェリエルの封印と関わる『何か』があるということですね?」

『その通りですアリスさん。少し遠回りになってしまうのですが、このアイテムさえ入手してしまえば、後の行動がシンプルになりますので!』

「なるほど」


 ほどなく行くと、その指定の場所が見えてくる。


「おぉ……」


 そこはとても開けた、大きな湖だった。

 岩の上からは激しく滝が流れ落ち、その中央に、何やら祠らしきものがある。


「ここでヘリオスちゃんの言う『何か』を行えば、さっき言っていたアイテムが手に入るのか?」

『はいその通りです』

「そっか。ならさくっとやっちまおう」


 すでに辺りは夜の様相を呈している。

 速やかにことを終わらせて、さっさと森を出てしまおう。


『分かりました。ではコースケさん、アリスさん』

「ん?」


 ヘリオスちゃんは。

 若干顔を赤らめつつも、いつもの口調できっぱりと言い切った。


『服を全部脱いでください』

「ん?」

『早急に』

「「ん? んん??」」


 風がぶわっと、森を通り抜けた。

 嵐の前触れみたいだった。






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