6.正体判明・1
戦闘を避けるとは言ったが、どうしてもエンカウントはしてしまう。
戦力を温存するため、そして俺の魔力を昂らせるにはエッチな気分が必要なため、今はアリスだけが前に出て戦ってくれていた。
「右だアリス!」
「あぁ! ……フッ!」
巨大なトカゲを一閃する。返す剣で更に一刺し。
とーんと高く舞ったかと思うと、急速落下からの両断。
これにより俺たちを囲んでいた三体の巨大モンスターは、瞬く間に消滅した。
「指示いらなかったな」
「そんなことは無いさ。だいたいの位置は把握しているものの、視界には入っていないからね。『把握していることが正しい』と認識させてくれるだけで、だいぶありがたい」
「それなら良かったけどな」
「ベルはそういうの必要なさそうだものな」
「そうなんだよ。なんなら俺の事を忘れるときもあるからな。非難しなきゃいけなくなる」
「大変そうだね。フフフっ」
少し休憩しようと、消滅していくモンスターを見届けたあと、手ごろな岩に座った。
俺は軽い魔物除けだけを設置して、その後に続く。
「魔物除け……。持ってきてたんだね」
「あぁ。お前と一緒のときだけな。
ベルは魔物カウントだからさ。使えないんだ」
「なるほど」
めちゃくちゃ効くわけじゃないんだけどな。
でも万が一それが後の戦闘に影響したら、悔やんでも悔やみきれないし。
それにアイツ、戦うのが趣味だからな。休憩で下手にエンカウントを取り上げるよりは、常に戦闘モードでいてもらった方がいい。
「ベルも……。帰ったら目覚めて無いかなあ」
「やはり心配か?」
「そりゃそうだろ。いくら中身は無事だって言っても、ずっと意識無いのは怖えよ」
「まぁ……、そうだね」
「アリスは違うのか?」
「いや、そういうわけではない。
ただ職業柄、ずっと意識不明の同期や部下も見てきたからね。少しだけ慣れているというだけさ」
そういえばアリスは、元は軍の兵士だからな。中には意識が戻らなかった仲間も居るんだろうな……。
兵士どころか戦ったことも無い俺とは、精神構造の育ち方も全然違って当たり前か。
「まぁただ、」
「ん?」
「慣れていればいいというものでも無いけどね」
アリスは苦笑して遠い目をする。
「人が居なくなる。人が不幸になるということに慣れていけば、必ずどこかに『諦め』が入ってしまう。いざ本当に救わなければならないときに、死を多く見過ぎてしまうと、必死さも薄れてしまう――――かもしれない」
「アリス……」
「だから。きみが本当に、心の底から平和を願ってくれていて、私は嬉しいんだ」
「お……俺はそんな、大層な気持ち、持って無いぞ」
「同じさ。ここでいう平和は、世界の事じゃなく、仲間のこと。
きみはきっと、最後まで諦めない。仲間を救えなかったことが無いからこそ、諦めないと思う濃度が違う」
「……そうなのかな」
「そうだよ。だからベルは、きみが好きなんだと思う。
全身全霊でベルのことを、私たちのことを考えてくれる、きみのことが」
「…………、」
正面から褒められると、なんだかめちゃくちゃ恥ずかしいな。
俺はただ甘ちゃんなだけなんだが……。
「はぁそれにしても……。きみはきみでさっさと元の姿に戻ってくれないだろうか……」
「そ、そんなこと言われてもさ……」
「(せっかく覚悟してたっていうのに……)」
「ん? 覚悟がなんだって?」
「なんでもない! このスケベめ!」
「突然の罵倒!?」
やっぱ女性の思考回路は分からん(つーか元々コミュニケーションに難ありだったから、同性の気持ちも分かんないんだけど)。
「そろそろ行こうか。目的地まではあと半分。急げば今日中にはたどり着けるだろう」
「……だな。森さえ出れれば、ヘリオスちゃんが街の前まで移動させてくれるし。日付変わるまでには帰れるかも」
簡易食料だけを軽く食べ、俺たちは再び歩き出す。
そのときだった。
「……ッ!?」
「アリス!?」
突如として、アリスが立ち眩みを起こす。
なんだ!? 彼女は俺と違って、まだ何も食ってない。
今までずっと平気だったのに、何が起こってるんだ!?
「ヘリオスちゃん! 今通信いけるか!?」
大急ぎで宙に四角を描く。
タブレットの魔法を起動すると、運よく彼女に繋がった。
『いかがしましたかコースケさん!』
「アリスが立ち眩みだ! 教えられる範囲でいいから、なにか――――」
アドバイスをくれ、はまずいよな。明確に人間への手助けだ。
「なにか……この空間で異常が起こって無いか分かる?」
『そうですね……。大丈夫です。この空間どころか、この森自体、異常魔力には汚染されていません』
「そっか。まぁ元々反対方向だもんな」
『えぇ。うーん……。
あっ、でもこれ大丈夫ですコースケさん』
「なにが?」
『アリスさんのこの不調。これなら私がお答えできます。
この症状は、地上の問題ではなく天界の問題ですので』
ん? どういうこと?
『分かりやすく言うと、天界――――というより、コースケさんの問題です』
「俺の?」
『コースケさんの体の中身。変化が起きてます』
「は!? マジで!?」
俺自身は全然分からないんだけど。
……いやでも、これ、何だ?
「魔力の流れが……、なんか違ってる?」
微妙な感覚の話だけど。
いつもなら腹の奥が熱いんだけど、今はちょっとその上。心臓に近いところが熱くなってる……気がする。
でもそれによって、全身への魔力の巡り方が若干違う。
表拍と裏拍の違い……みたいな。
『それによって、アリスさんへ流れる魔力の種類が違ってしまっています』
「マジか!? ……って、うお、なんか、俺も気持ち悪く――――」
『コースケさん。魔物除けを消してください』
「お、おう……。
…………これでいいか? ……おっ」
ヘリオスちゃんに言われるままに魔物除けをオフにすると、俺もアリスも一気に顔色が良くなった。
「これってまさか……」
『はい。コースケさんもアリスさんも、モンスターになりかけています』
「「なんだってぇぇぇぇえ!?」」
あまりにもヤバすぎる情報だった。
「そ、それってもしかしなくても、俺のせい……?」
『まぁその……、そうですね。コースケさんが受けた概念変化の矢。それの効力により、コースケさんはモンスター判定になってきています』
「きているってことは……」
「まだ完全ではないんですね?」
『えぇ。アリスさんはその魔力を受けているから、コースケさんの巻き添えを食っているかたちですね』
「こういうときヘリオスちゃんは分かりやすさ優先で物事をいうため、割と容赦ない言葉を使うのだった」
『はい分かりやすい!』
ともかく。
「モンスター判定……。
つまりコースケのこのイケメン姿は、モンスターということですか?」
『はい。というよりも、私自身、今正体が分かりました。人間のようでいて人間では無い。麗しき姿……』
「……! なるほど。そういうことですか」
「なになに? 全然そういう知識無いからわかんねえ」
困惑する俺を他所に、二人はどうやら理解し終えたようだった。
「いいかコースケ。ヒトガタに近いモンスターは数多く居れど、他者を魅了する力を持っているとなれば、かなりしぼられてくる」
「他者を魅了? 俺が?」
『はい。なにせ世の女性は、イケメンだというだけで、ほいほいついて行くような簡単な生き物ではありませんので』
「まぁそうだよな……」
だって。
アリスみたいな好みしてるやつもいるしな。
……とは言わないでおくけど。
「つまり、今のきみの能力だったと思えば合点がいく。いいかコースケ」
『コースケさんが変化したモンスター。それは……』
『「インキュバスだ(です)」』
ドヤ顔で、二人はそう言い切った。
いやだからさ。
俺、そういう知識ぜんぜん無いんだって。




