4.作戦会議・1
ベルの寝顔を見るのもそこそこに、まずは現状整理である。
「つっても、分かってないことが多すぎるんだけどな」
「そうだね」
メインの部屋に戻り、宅につく。
この時間はヘリオスちゃんも繋がっているため、ベルを抜いた、俺、アリス、ヒナの四人で話し合いが出来る。
「紅茶でいいか? 冷たいのもあるが」
「いや十分だ。ありがとう」
アリスがそれぞれの飲み物を持って席に着いたと同時、ヒナははぁ~とため息をついてテーブルに突っ伏した。
「あの激闘から一日。よ~やく状況整理できるよ~……」
「おつかれヒナ。色々尽力してくれて助かったよ」
「ほんとだよアリしゅ~。マジキャパかったから。でも、回復してくれて良かったよん♪」
ヒナはこの街に帰ってから、ほぼフル稼働だった。
ホテルに敵が来ても大丈夫なように、寝ずの番もしてくれていたし。
「必要物品の買い出しはコースケがやってくれていて、結界や索敵の設置は二人で行ってくれたんだったな」
「あぁ。この拠点にはヒナが結界を。
街の周り、全三十八か所には魔力感知の薬草を設置した」
「実は攻撃用のトラップも設置したんだよん」
「そうなのか?」
「西門の方角だけね~。やっぱ来るとしたら、あのダンジョン方面からが確立高いし?」
そう。……そうか。まぁそうだよな。
でもなんだ? 何かが引っかかる。
『その過程で、コースケさんのイケメンな噂が広まってしまったわけですね。なるほど』
「――――え、あぁうん。そうなんだよ」
映像の向こうで頷くヘリオスちゃんの声で、俺は考えを注視する。
いかんいかん。今は作戦会議に集中しないと。
「あらためて確認なんだけどさヘリオスちゃん。本当にベルは無事なんだよな?」
『えぇ大丈夫です。生命維持はこちらでも見ておりますので。
ベルアインはこれまでと同じ魔力・戦闘力で世界に在り続けています。ただ、力の使い過ぎで眠っているというだけで』
「そうか……」
本来なら、俺が『ベルかっこいいい!!!』と思うことにより、枷が外れた状態で無いと変身することは出来ない。
それを無理やりこじ開け、力づくで変身したのだ。弱ってしまうのも頷ける。
『安心してください。少なくとも、三日以内には起きるでしょう』
「そうなのか?」
不安そうにしていた俺を気遣ってくれたのか、ヘリオスちゃんは満面の笑みと共に頷いた。
『今のベルアインに必要なのは、全エネルギーを起動させるための、スタートの魔力だけが不足している状態なのです。
なのでそこさえ回復出来れば、すぐにでも前の元気を取り戻しますとも!』
「そっか……。
よし、分かった。ありがとうヘリオスちゃん」
『いえいえ! 分かりやすい説明が出来て何よりでした!』
俺たちのやり取りを見て、アリスとヒナも胸を撫でおろす。
二人にも俺の心配がうつってたかもしれないな。悪いことをした。
「では整理だ。
勇者陣営は、とりあえず現状は安全ということでいいのかなヘリオスちゃん?」
『そうですねアリスさん。
敵が攻め込んできても分かるような魔力感知。加えて拠点の守り。ベルアインの復活待ち。今のところ問題はなさそうです』
「そうか……。なら次!」
『問題の、謎の敵についてですね』
四人でうーんと腕を組む。
『まず洞窟の中についてですが。
内部はダンジョンと化していて。疑似魔王城ではなく、魔王城そのものが再現されていた……と』
「みたいだな」
ダンジョンというものは、この世に突然発生するらしい。研究によるとそのダンジョンは全て、遥か昔に滅んだという、魔王城を模して再現されているのだとかなんとか。
「本来なら、あくまでもモチーフで形作られる。しかし、今回は魔王城そのものだった……か」
「実際に魔王城に行ったことのあるヒナが言うんだから、間違いなさそうだなぁ」
「ま~アタシの記憶も、マジモンかど~かは分かんないんだけどネ」
『いえ、信憑性はありますね。天界でも、通常のダンジョンとは違う魔力の高鳴りを計測しています』
そして『それも踏まえてですが』とヘリオスちゃんは続ける。
『あのダンジョンが何なのかは、ほとんど解明出来ました』
「は!? マジみ!? すっげ!」
「本当かヘリオスちゃん!」
俺たちが感嘆の声を上げる中、彼女は頷く。
『あのダンジョンは、巣です。
奥地に居たという謎の幼女。ソレが作り出した、自分を守るための拠点』
「自分を守るため……? どういうことだ?」
『はい。あの幼女はあの場所に身を隠していた。
だからこそ、侵入してきたコースケさんたちを、迎撃したのです』
「マジかよ……」
ということは、俺たちが手を出していなかったら、幼女は攻撃することは無かったってことか。
「でもさ~ヘリオスちん? あのダンジョンがあるから、ここらに異常魔力が漂って、変なコト起こってるワケじゃん? 取り除かないワケにはいかないじゃんね?」
『その通りですヴァルヒナクト。なのでどのみち、あの幼女は放ってはおけません』
「そうか。やっぱり放置するわけにもいかないか……」
たぶん今日俺が倒してきたモンスターたちも、本来ならこの辺りには生息していなかった強さのやつらだ。
それくらいこの土地の生態系が狂ってきてるってことで。
「イケメンの噂が飛び交ってるってことは、異常モンスターの噂も広まってるだろうし」
この街の住人だって安心できないだろう。
そのためにも、やはり異常の元を刈り取らないといけないな。
『今のところこちらには、この街の城壁を破壊できるようなモンスターが出現したという情報は入ってきておりません。
なのでコースケさんたちは、あのダンジョンに集中していただければと』
「いや、だけど、」
「コースケ、あまり他の冒険者を気遣いすぎるなよ」
「アリス……」
「今日はたまたまきみが助けられたから良かったものの、本来なら冒険者は自己責任だ。
他者がどれだけ強いモンスターにやられたとしても、きみ一人が気に病む必要は無いんだからね」
「……あぁ。分かってる」
「とはいえ、私だって平和を目指しているからね。一刻も早い事態の収集に向け、動くとしよう」
ぽんぽんと肩を叩かれて、俺も気持ちを切り替えることが出来た。
「よし……。じゃあ改めて。
俺たちの目標は、あのダンジョンの攻略だ」
口にして、意識を統一させる。
映像越しのヘリオスちゃん含む三人は、力強く頷いた。
「……で、そのターゲットの話なんだけど」
「そうだね」
「うんうん。ね~ヘリオスちん。アレってなんなん?」
じっと映像を見やる俺たち。
ヘリオスちゃんはぴっと指を立て、神妙な顔で答えた。
『アレは……魔法です』
「「「魔法?」」」
『それも、極めて高レベルな』
「「「???」」」
彼女の言葉に俺たち三人は首をかしげる。
どうやら神秘的なことに疎い俺だけではなく、アリスたちも分かっていないみたいだ。
「いや、ヘリオスちゃん。魔法で生成されたダンジョンなのは分かるんだけどさ……」
『あぁすみません。分かりやすく言いすぎて、かえって分かりにくかったですね』
「え?」
ヘリオスちゃんは映像越しに、銀の幼女の画像を出して。
改めてこう言い直した。
『彼女の名は、ルーチェリエル。
太古の時代に神が放った大魔法。その残滓が生き延びたもの――――』
「は……?」
「ちょっと待て……」
頭を抱える俺とアリスに対し、ヘリオスちゃんは『分かりやすく言うと』と続け。
言葉とは裏腹に、とても複雑な表情をして言い切った。
『つまり、魔竜・ベルアインや魔剣・ヴァルヒナクトと同じ。
ヒトではないモノがヒトのカタチを成した、第三の存在です』
俺たちはもう。
苦笑いするしか無かった。




