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3.噂のイケメン冒険者



 ものすごい。

 そくどがでる。


「う――――おぉぉぉぉぉ!!?」


 時折ベルに抱えられて、超速で敵陣を離脱することがあるけど。それくらいの速度で、魔力を込めた俺の足は走っていた。


『アタシの見立てが正しければ――――コーにゃんめっちゃ魔力出るよん♪』

「こういうことだったのか……!」


 走り出す前、背中に受けた言葉を思い出す。

 ヒナは魔力を感じとることもできるようだ。俺の中の魔力量が大幅に上昇ていることに、彼女は気づいていたのだろう。


「よ~~~~~~~~~~~~~~~っし、到着!」


 猛ダッシュから急ブレーキをかけ、ポイントとなる場所に薬草を振りかけていく。

 綺麗に赤く光り輝いたと思うと、静かに大地の中へと吸い込まれていった。


「部屋に仕掛けたときと同じような現象だ。これで良いのかな?」


 ……ふむ。


「だけどヒナ……。なんか変な感じもするんだよな」


 確かに便利だしありがたい。

 使うかどうかはさておき、敵を感知するトラップを仕掛けるのは理にかなっていると思う。

 だけどなんていうか、この戦い方はまるで――――


「って、いけね。次に行かないと」


 考えを打ち切って頭を振ったときだった。


「きゃあああああッ!」


 と、静かな平原には不釣り合いな、女性の絶叫が響き渡った。


「なんだっ!? ……ッ!」


 声の方を見ると、そこには怪我をしている女性冒険者が横たわっていた。

 おそらく魔法使いとか神官だろう。後方支援職が一人、巨大な魔物に今にも襲われそうになっている。


「ジャイアント……いや、エンシェントオーク……!?」


 この辺りには生息していないはずの、上位ランクのモンスターだ。C~Bランクの冒険者は、出会っただけで腰を抜かしてもおかしくはない。


「今助けるっ! そこの冒険者の子、(かが)め!」

「え……!?」

「はぁぁッ……!」


 腰に下げていた剣を抜き、ターゲット目掛けてダッシュする。

 イメージするのは、騎士状態のときのアリスの剣技だ。

 剣一本でずばずばと敵を薙ぎ払うあの剣技が、今の俺には丁度いい。


「――――フッ!」


 足だけに通っていた魔力を腕へと広げて、高速で剣を振るう。


「グォォォッ!?」

「まずは棍棒! 次に腕! 足!」


 丸太のようなオークの四肢が、まるでチーズに刃を通すかのように滑らかに切断されていく。


「ラスト……頭ッ!」


 五メートルの高さへ一息で飛び上がり、そのまま頭頂部から剣を振り下ろす。

 オークの顔面は、まるで最初から半分に開くギミックになっていたかのように、寸分違わず真っ二つとなり――――巨体と共に地に伏せた。


「……よしっ!」


 俺一人でも、上位モンスターを倒すことができた!

 人間相手にバニー化させて自滅を誘うでもなく、ベルが来るまで時間稼ぎをするでもない。

 もちろんみんなの戦闘力と比べれば全然足りないだろうけど。

 やば、嬉しくてちょっと泣きそうだ。エロすパワー万歳!


「あ、あの! ありがとうございます!」


 感動に打ち震えていると、襲われていた女性冒険者が立ち上がり、頭を下げてきた。


「おっとそうだった……。

 いやいや、無事で何よりだ」

「本当に何てお礼を言ったら良いか……、ッ……! あ、あぁ! なんて……イケメン……!」


 彼女が顔を上げた瞬間。困り眉が一気に乙女の顔へと変わっていく。

 更に草影から違う女性冒険者らも顔を出した。

 おそらく身を隠していた仲間なのだろう。一斉に同じように顔を赤らめて、俺の顔を凝視している。


「ふわ……、や、やばやば……!」

「かっこいい~……」

「しかもそれでいてかっこいいとか……」

「なんか謙遜気味に笑う顔も、ちょっとかわいいよね~」

「え、そ、そう……? はっ!」


 でれでれした態度が出そうになるも、間際でアリスの言葉が思い出される。


『今のきみは、たぶん無条件でモテる。だがきみには、ベルと()らかしたという事実があることを忘れるなよ』


 ……そうでしたね。

 まぁベルのことだから変にやきもち焼いたりはしないだろうけど。


『それにその身体も、いつまでこの姿を保てるのかが分からないのだからな』


 ……アリスからの苦言その二。

 そうなんだよな。

 この魔法が敵からの攻撃である以上、軽率な行動をとるわけにはいかない。

 太ったオッサンに戻るだけならまだしも、もしいきなり正気を失くし、魔物ムーブをかましたりしたら大変だ。


「あの……、お名前をお伺いしても?」

「なっ、名乗るほどの者ではないので……!」

「ではせめて、所属ギルドを!」

「ぜ、全部言えません秘密ですので! ではっ!」


 しゅたっと手を挙げ女性たちを後にする。

 この身体になってから、すでに四度も行っている挙動だ。一日にする回数じゃない。


「さっさと残りのポイントにも設置して、ヒナの元に帰ろう……!」


 俺は魔力を全力で込め、更に速度を上げ移動するのだった。








「――――で。きみは都合六度。同じようなシチュエーションで女性を救ってきたと?」

「……はい」

「コーにゃんさぁ……」


 夕日も沈んだ頃。

 宿へと引き返し、俺は今日起こったことをアリスとヒナへ報告する。


「いやだって! 仕方ないだろ、目の前で襲われてたらさぁ!?」

「お人よしだな~。マジワロ。

 つーか、そんなに女の子多かったん?」

「いや男性も混じってたよ。でも、だからこそ……」


 女性だけに優しいわけではないという、本物の完璧イケメンになっちまった……。


「まったくもう。目立つなって言われてんのに~」

「すまねえ」

「帰る頃にはめっちゃ噂聞こえてきてたし」


 この街の外。東西南北、様々な場所へとヒナの薬草を仕掛けてきた。

 さっさと終わらせようと思ったからこそダッシュした。それはもう、自己ベストを更新する勢いで。

 ……そしてその道中で、モンスターを倒していたのだが。


「助けられた側からすると……、ピンチに颯爽と駆け付けてくれたイケメン冒険者に見えるわけだ」

「何を冷静に言っているんだきみは」


 アリスはまったくとため息をつく。

 だけどそのあと「しかし」と、違う種類のため息をついて言葉を続けた。


「外見がどうあれ、きみは同じような行動をしていただろうからね」

「そうだね~。外見がイケメンになってなければ、ここまで話題に上がらなかったろうし」

「きみはどんな外見になっても、変わらないということか」

「そんなコーにゃん好きだよ♪」

「あれどんな流れこの会話!?」


 まさかの好感度上昇イベントだった。

 混乱しつつも和やかな雰囲気になっていると。

 アリスはあらためて、寝室のほうを見る。


「こんなところに、ベルも惚れたのかもな」

「そうかもね~……」

「……」


 ドアを開け、薄暗い部屋へと入る。

 そこには。

 静かに眠りについたままのベルがいた。

 これまでのやかましさとは一転、微かな寝息を立てている。


「ベル……」


 ヘリオスちゃんの話では、命に別状はないらしい。

 力を使い過ぎたため、セーフモードのような状態にあると言っていた。


「いつになったら起きるんだろうな……」


 命に別状はない。敵もまだ攻めてきていないから、回復まで寝てもらっていて構わない。

 でもやっぱり。


「声が聞けないのは、寂しいなぁ」


 長いまつ毛の上にかかった前髪を、さらりと指で撫でる。

 夜の喧騒が、いやに大きく聞こえた。





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