2.ヒナの知恵袋
ヒナと一緒にアイテムを整理する。
緊急用や常用と区分しながらおいていく中、ヒナは「おっ」ととある薬草を手に取る。
「コーにゃんこれも買ってきてくれたんだ?」
「ん? あぁ、ニーニア草だな」
「サンキュ☆」
二股に分かれた青色の葉っぱを手にして笑う。
たしか多少の回復効果があるとか無いとか。
「でもこれさ。そこらへんで売ってるものだし、今の俺らを回復させるには、あまりにも効力が足りないと思うぜ?」
俺の言葉にヒナは、指を振りながら笑う。
「へっへ~。実は、回復目的じゃねーんだよん」
「ど、どういうことだ?」
「こゆこと♪」
ヒナはニーニア草をばらばらにちぎったと思うと、部屋中にばら撒いた。
すると……。
「こ、これ……! 結界魔法か……!?」
「そ。実はニーニア草ってさ、神代の頃から存在してんの」
「そうだったのか」
「んで、アタシの魔剣の力って、むか~しの物体の本来のチカラ引き出せんのね」
「マジか。ってことは、元々ニーニア草は、結界のための薬草だったのか」
「ニンゲンにはそれが調合できないだけでね~。もち回復薬としても効果はあっから、ふつーに使うことも出来っけど」
「へぇ~」
しかし凄いな。
ニーニア草なんて、どこにでも売ってる市販薬草だ。それに値段も安く、下手したら子供の小遣いでも買えるくらい。
それをこんな上位の結界魔法に変えちまうんだから。コスパが良すぎるどころの話じゃない。
「えっへっへ~。すごいっしょ」
「おう、ありがとうなヒナ」
「ん~……。なんかやっぱ、その顔ねーわー」
「……ですか」
「ぜって~元の、脂ぎった姿に戻してやるかんね☆」
ガン萎えガン萎えと笑いながら、彼女は続けて荷物を整理していく。
そしてほどなくしてそれも終わり。
アリスとベルへの軽食を用意したあと、ヒナはすくっと立ち上がった。
「……うし! じゃあコーにゃん、街の外行こっか!」
「外?」
「そ。あいつがいつ攻め込んできてもいいよ~に、街の外にも色々仕込んどこ~と思ってさ」
「なるほど」
「罠には罠ってね~。
まぁ、見抜かれる可能性もあんだけど」
「やらないよりはマシだな。よし、なら出るか」
というわけで、二人して郊外へと出ることに。
なったのだが。
「ん~~~……?」
「……ヒナさん、これは?」
俺は現在顔面をぐるぐる巻きにされている。
ヒナ曰く、イケメンのままぶらぶらされて目立たれても困る、とのことだ。
日ごろベルに思ってることが、まさか自分に帰ってくるとは……。
「ん~……これでもまだ、背格好がイケメンかぁ」
「マジか……」
「コーにゃんからあふれ出るイケメン力は、ただの包帯だけじゃあ、隠し、き、れ、ぶふふっ……!」
「言いながら笑わないでくれませんかね……」
ごめんごめんと笑いながら、ヒナは背中をぽんぽんと叩く。
それと同時。
周囲からとてつもない『殺気』が飛来した。
「何アイツ? 今話題のイケメンと親し気に……」
「彼女? 正妻?」
「たしかに可愛いけどギャル系でしょ? 遊ばれてるだけだって」
「調子乗ってんじゃないわよガキが……」
イケメンと一緒にいるヒナへの嫉妬心か!? 女子怖いよ……。
初めて感じる殺気に、さしものヒナもびくっとなる(あまり見たこと無いリアクションだったのでちょっとかわいかった)。
「と……とりま、買い出し終わらせてさっさと行こっ」
「だ、だな。
えっと? 次は外に行くのか?」
「だね! ……このカンジだと、外の冒険者にも目ぇつけられそうだな~」
「す、すまんヒナ……。俺がイケメンなばっかりに……」
「ワロ」
気持ちを切り替えて街の外へ。
良く晴れた空の下、俺たちは様々な種類の薬草を広げる。
「これを一枚一枚、色んな察知道具に変えてっからね~」
「なるほど……。じゃあ俺は、指定の場所に設置してくればいいのか」
「そ。ヨロ♪」
「どれどれ……っておい、ヒナこれ」
渡された指定ヵ所を確認する。
そこには、今いる東門だけでなく、残りの西・南・北門方面の位置も書かれてあった。
「このあたりだけじゃないのかよ!」
「そだよ~」
「いやいや……。そりゃたしかに、一方向だけに設置しても意味ないってのは分かるけどさ。
こんな範囲、ベルじゃないと回れないぞ」
アリスが住んでいたレーヴァの街。その周辺でもめちゃくちゃ広かったのに。この街はそこの五倍は広い。
その全方位となると、移動だけでも一仕事だろう。
「いや、それもちょっと実験したくてさ~」
「え? どういうことだよ」
実験という単語に合わせて、ヒナはぴっと指を立てる。
「コーにゃんのその姿で、何が出来るのかを試してほしいんよ」
「この姿って……。あぁそうか」
あの幼女に姿を変えられてから、何がどれだけできるのかは試していない。
魔力を纏っての高速移動も、出来るかどうかも分からないからな……。
「でもコーにゃん、仮装着は使えるっしょ?
さっきも街で使ってきたって言ってたし、ベルりんの制御もできてるし」
「仮装着は、俺の中にある魔力を媒介にして発動させるもの……らしい」
「あ~、なるなる。出力ができなくても、元の魔素さえ身体にあれば勝手に出ていくってことね~。
女神由来ってことは聖剣と法則が一緒だし、使ってくる法則も同じってことね~。おけおけ」
「そ……、ソウデスね……?」
俺すらも理解してない魔力法則を、どうやらヒナは理解してくれたらしい。
コイツと言いアリスと言い、一を聞いて十を知るやつが多すぎてありがたい。
「で……、魔力なんだけど」
ぐっぐっと手を握ってみたり肩をぐるぐる回してみるも、元の身体みたいに魔力を使える気配が無い。
「う~ん……、やっぱ難しいのかな……」
これじゃあ指定の箇所を回ることも難しい。
魔力が使えないんじゃあ、ただのイケメン成人男性だ(オッサンじゃないだけ少しマシかもしれないけど)。
「コーにゃんコーにゃん」
「ん? ……ぶっ!?」
「ちらり♪」
ヒナの方を見ると、緩めの胸元を更に露出させ、カタチの良い双丘の谷間をこちらに向けていた。
「ちょっ……なにを――――うぉぉッ!?」
煩悩に脳が支配された瞬間だった。
俺の中に発生したリビドーが、みるみるうちに魔力に変わり全身を駆け巡る。
「たまんね~。クソワロける」
「こっ、これどういうことだヒナ!? ヒナさん!?」
いや笑い転げてないで。
「ひー、ひー……! げほげほ……。
いや、コーにゃんの身体ってさ。外見だけじゃなくて、中の作りも変わってんじゃねって思ってさ」
「はぁ?」
「身体が変われば、魔力の込め方も違ってくるワケ。ほんとは魔力の通し方を探って欲しかったんだけど~……、んな時間ねーし。コーにゃん的にもキャパいっしょ?
だったら、力づくで魔力を使わせねーとなって思って」
「俺のエロ力が、魔力を巡らせる条件なのか……?」
「エロはコーにゃんのアイデンティティだからね~♪ 存在証明と生存本能をかけ合わせれば、奥底の魔力も目を覚ますかもって思ったワケよ」
「わかったようなわからんような……」
何にせよ、全身に魔力は巡っている。
後はいつもの要領で、魔力を足にずらして……と。
「よし。なんとかいけそうだな……」
魔力を通わせることで、あらためて足の長さを実感する。
ちょいちょいイケメン体であることを忘れるなあ俺。
「おけおけ。なら、ひとっ走りよろん♪」
ヒナは既に三種類の薬草加工を終えていた。
それぞれ赤・青・黄に発光する薬草を俺に手渡し、いてら~と手を振る。
「じゃあ行ってくる」
「へっへっへ~。
あのね~、アタシの見立てが正しければ――――」
「……?」
ヒナの声を背中に受けて。
俺は。
走り出した。




