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30.麗しきその身は



「グルァァァァァ……ッッ、――――っ、」


 魔竜の咆哮と共に、途切れていた意識が飛び起きる。

 どうやら意識を失っていたのはほんの五分くらいだったみたいで。ベルの巨体が地面へと着陸するのと同じタイミングで意識を取り戻したみたいだった。


「はっ……! ベ、ベル……!? 大丈夫か!?」


 目を覚まして彼女に声をかけるも、巨体は浅い呼吸を繰り返すだけだった。

 そして黒色の光と共に、巨体はヒトガタへと戻っていく。

 腕と足、胴体に胸、首と顔と、長い髪。ウサミミとカフスとネクタイが、忘れるなと言わんばかりに後追いで顕現した。


「ベル……! おい、ベル……!」

「コ、コースケ! きみもあまり無茶するな!」


 一心不乱に、目を覚まさず横たわっているベルに声をかけ続ける俺を、よろめきながらアリスが止めた。

 今は一瞬だけアドレナリンが出て立ち上がれたが、後追いでふらつきが襲ってくる。


「おっと……、と。そ、そういえば俺は? どうなったんだ?」

「今はまだ、何も起こってはおらん」

「どーやらコーにゃんは、天界の魔力が入ってるからね~……。ダメージは先に入っちゃったけど、効果はちっとだけレジスト出来るのかも」

「ヒナ。そっちも無事だったか!」

「なん、とか……ね~……」


 ひらひらと、バニーも解除した状態で彼女は手を振った。

 よく見るとアリスもバニー状態ではなかった。

 ベルもこんなだし。みんな、満身創痍である。

 夕方に差し掛かろうという天気を背に、俺はダンジョンの方を見やった。


「追ってきては、いないか……」

「もしかしたらあの強さは、ダンジョンとセットなのかもね……」

「セット、か……。なるほど。空間限定で強いやつっているもんな」


 軍本部から街全体にかけて魔方陣を敷いていたオルゼムたちもそうだ。

 あの街から出てしまえば、大規模な術式は使えない。だからこそあの街の外にも出せるよう、巨大ゴーレム(ニセベルアイン)を起動させたかったんだろうけど。


「うぐ……。ぬ、みな無事か?」

「ベル! 気づいたか!?」

「顔色が酷いな。安静にしていろ」

「無理に立たなくて大丈夫だからねベルりん!」

「クァハ……。だい、じょうぶじゃ……」


 うつろな目をどうにか開き、俺の目を見て勝気に笑う。


「おぉぬしよ……。相変わらず丸っこいのう」


 よきかなと言って状態を起こし、俺の腹回りを撫でた。

 まったく。軽口叩けるんなら、大丈夫そうだな。


「うるさいよ。俺だってできることなら痩せた、い……? あ、あれ……?」

「む、なんじゃ? 腹の、にくが……」

「コーにゃん!?」


 ダンジョンで魔法矢を受けた時と、同じような症状が身体を駆け巡る。

 レジストしていた効力が、今、襲い掛かってきてるのか……!

 なんだこれ。なんだ、これ……!


「うぐ……うぁぁぁ……!」

「コースケ!」


 よろりとアリスに寄りかかる。

 体中がとにかく熱い。全身の細胞がひくひくとひりついている。

 このままだと……。

 俺が、俺の姿を保てなく、なる……。


「うぉ、ぉ、ぉ、ぉぉ、………………!」


 自身のうめき声が、不時着を果たした草原に響き渡る。

 概念変化。形状が変化する恐れのある、強力な魔法。

 身体の情報が書き換わる。そんな、どうしようもない感覚に支配されていく。


「……っ! ………………ッ!! ~~~~~~~~ッッッ!!」


 魔法光は、俺の意志に関係なく放たれ続ける。

 邪悪さとは裏腹に、とても神聖な光が、身体中を包んでいって――――



「――――ど、どうなったん、だ……?」



「「「…………っ!!」」」


 魔法の流動が納まって。

 俺は立ち上がり、三人に聞く。

 なんか、思ったよりも中身は大丈夫だ。吐き気とか内臓のダメージとか、そういったものは感じない。

 とすると、一番恐ろしいのは外見だ。

 目は見えているということは、どうやら頭はなくなってないっぽい。

 となると、四肢だけど……、いや、両手両足、あるっぽいな。


「ん……? なんか……」


 パンツがゆるい? というか、服が全体的にだぼついているような? それに、視界もなんか、普段より違う――――高い(・・)


「どうなってんだ……?」


 というかみんな、どうしてそんなポカンとしているんだ。

 普段動じないベルですら、口を大きく開けたまま立ちすくんでいる。


「あっ、そうだよ! 冒険者用の手鏡あるじゃん!」


 身だしなみ用では無く、背後への警戒用で使う小さな鏡。

 本来の用途ではないからちょっと見にくいけど、パーツを一つ一つ見て行けばどうなってるかが分かるはずだ。


「えっと……?」


 鏡で、自身の体を見やる。

 まず口。薄くて平たい。なんかめっちゃ、イケメンみたいな口だった。

 次に頬まわり。とても痩せている。なんかめっちゃ、イケメンみたいな顎だった。

 髪の毛。サラサラの銀髪で、なんかめっちゃ――――


「ちょ……っ! 目! 鼻! 耳! は!? 首筋に至るまで……!?」


 これ、これは……、まごうことなく……!

 視点も高い。ベルを真正面から見れるということは、おそらく百八十センチ近くはあるだろう。

 そして情報を統合するに……。



「俺、めっちゃイケメンになってない……!?」



 両手を広げて彼女らに聞いてみる。

 そうだよ! 身体つきも、細く見えるけどめちゃくちゃ筋肉質だし! 指先も、男らしさと綺麗さが融合してるし! 股下もこれ、何センチあるんだよってくらいに長い! ブーツのサイズもちょっと小さい!

 まるで恋愛漫画に出てくる爽やかイケメンみたいな男に、俺はなっていた。


 これ……、もしかしなくてもめっちゃモテるのでは?

 これでベルたちと一緒に歩いていても、違和感のないビジュアルになれたのでは!?


「「「ふ…………、」」」

「ふ……?」


 俺が喜びに打ち震えていると、背後から女性三人の呟きが聞こえてきた。

 そうか。お前らも喜んでくれるか! この、新生コースケ・フクワリの姿を!



「「「ふざけんなあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」」」



 ………………ええー!?

 彼女らは思い思いに、どんどんと地面を叩き、大木に八つ当たりキックをかまし、炎を吐いたりしていた。


「太ったコースケを返せ! 油の乗った腹肉を返せッッ!」

「そうじゃ! あの肉の塊を! 厚ぼったい瞼を返さんかッ!」

「こんなん何も面白くないし! あのぶっとくて毛が生えてる腕を返せぇぇッッ!」

「え、ええ……」


 怒り心頭。俺困惑だ。

 俺が(イケメンのまま)おろおろと混乱していると。これまでの疲労はどこへやら。三人はずいっと近寄ってきて、力強く宣言した。


「ワシが!」

「私が!」

「アタシが!」



「「「絶対にその姿から元に戻してやるからのうッッ!!」」」



「い、いやあ……、俺、このままでも……」

「打倒、あのクソガキじゃああああああ!!」

「「応ッッッ!!」」


 こうして夕暮れ時。

 俺は絶世のイケメンの姿を手に入れたのだが。

 どうやらそれは、元に戻されそうです。


 これ、今からでもこのタイトルに変えません?





         バニー勇者の魔討譚 第二章:END

                   第三章に続く









 ご無沙汰しております、おふなじろーです!

 お読みいただきましてありがとうございました。

 バニー勇者シリーズは、およそ半年ぶりの更新となってしまいました。お待たせしてしまい申し訳ございません。



 当初バニー勇者シリーズ(以下『ばにゆう』)は、第一章の時点で終わる予定だったのですが。思いのほかキャラクターを気に入ってしまったので、こいつらともっと遊びたいと思ってしまい、シリーズ化とさせていただきました。が。

 いかせん『じゃあどうやって遊ぶ?』という先のことを全く考えていなかったので、行き当たりばったりというか、とりあえずやりたいことを詰め込んでみようという方向に相成りました。



 さて新キャラ。魔剣・ヴァルヒナクトなんですが。

 私の作品を全部読んでくれているという、とてもありがたくもあり、そして奇特な読者様ならお分かりになるかと思いますが、ベルアインもヴァルヒナクトも、小説家になろう内にて公開しております『ようじょそうちゃく!』に出てきたキャラクターと名前が同じでございます。ただし外見も人格も、ある意味設定すらも違うので、違う世界の魔竜、魔剣の存在だと思っていただければ幸いです。というか、ただのセルフオマージュみたいなものです。

(本当はめっちゃ細かい設定や世界観のつながりのアレコレは考えているのですがすげえ長くなるし誰得なので割愛)



 そんなわけで、『ようじょ(略)!』では健気眼鏡少女だった彼女ですが、今作ではイケイケ系ギャルとなって登場しました。

 彼女を喋らせるに当たって、私の中のギャル語もアップデートしつつ書いていきましたが、本当に合っているのかは不明です。

 下着屋事変は楽しかったです。



 そんなこんなでお届けしました、『ばにゆう』第二章でした。

 第三章も鋭意制作中です。掲載時期は、ツイッターにてお知らせいたします。


 ここまで読んでいただきありがとうございました!

 読者様あっての作家だなと、常々思っております。

 特に、第一章終了時に個人ブログで紹介いただいたときは、小躍りして喜びました。嬉しくて未だに記事元を読みに行くくらい嬉しかったです。


 それではまたどこかの作品で!



 2023年1月18日  おふなじろー





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