26.戦闘激化!
荘厳な扉を開くと。
そこは部屋では無く、再び通路が続いていた。
しかしこれまでの洞窟とは打って変わって、まるで城内のような通路である。
「ここは……?」
高級なお屋敷を髣髴とさせる通路。
地面には赤い絨毯が敷かれていて、窓からは、あり得ないはずの外界の光が差し込む。
三人並ぶと窮屈になるくらいのこの道は、まるで豪邸の朝の一幕だ。
この場所がダンジョン内であることを忘れてしまうくらい、穏やかな雰囲気だった。
「この扉から……、一気に世界観が違うな」
「ここの接続部、面白いのう。岩と絨毯ですっぱりと切れておるわい」
「鳥のさえずりが聞こえてきそうだな……」
「あの窓からの光も含め、背景の一部ということなんだろうね。光の差し込み方が一定すぎる」
「そもそも本来なら洞窟内だから、外から光が差し込むはずないしなあ」
俺たちが思い思いの感想を口にする中、ヒナは「やっぱりだね~」とこぼす。
「魔王城かくて~♪」
「マジで」
こんな……、こんな明るい感じなの魔王城?
「まぁアタシも、勇者ちゃんに連れられたトキの知識しかないから、絶対とは言えないけどねー」
言ってヒナは、臨戦態勢に入ったという証のように、その手に疑似魔剣を生成して構えた。
銀の刀身に、日差しが鈍く反射する。
「でも確か、こんな感じだったかな~」
「ということは……」
「そ。面白くなってきたってコト♪」
楽しそうにつぶやくわりに、キャスケット帽子の下の目つきを更に鋭くするヒナ。
それを皮切りに、ベルもアリスも一気に警戒心を強めた。
「お、アリス……」
「む……。バニーが反応したか」
一瞬だけ彼女の身体が淡く光り輝く。
ベルとお揃いの格好。黒いネクタイ、カフスのついた、バニーガールの姿である。
えぐい切れ込みのビスチェに、大きく開いた背中がまぶしい。
あとたぶん、なんか……、
「アリス……。少し尻に肉ついたか?」
「叩き切るぞきみ」
瞬間、銀のトレーが首元をかすめた。
俺がもう少し太っていて首に肉がついていたら、当たり判定でしたね……。
「す、すまんつい……。ほら、レーヴァの街では、ずっと後姿ばかり見てたから……」
「だからと言って口に出して良いわけではないだろう! デリカシーを覚えろきみ!」
こちらを向いて糾弾するアリスに「すまん」と謝る。
……というかアリス。なんか、胸もちょっと大きくなってませんか。
おっぱいマイスターの俺が思うに、もしかしたらサイズがワンカップ上がっているのではないかと思われる。下着屋とか行った方が良いんじゃないか? 言わないけど。
「おっとアリしゅにコーにゃん。
遊んでる場合じゃないみたいだよー」
「そうじゃのう。ようやっとお出ましじゃ」
「っ!」
ヒナとベルの声に、俺たちは互いに前を振り向く。
そこには……、先ほど入口で奇襲をかけてきた、幼女大の液体生物が三体立ちはだかっていた。
先ほどは咄嗟のことだったのでよく観察出来なかったけれど。よく見るとヒナよりも小柄で小さい。
ヒナが百五十五センチって言っていたか。彼女と比較するに、百三十~百四十センチくらいだろう。
青白い胴体に、ぽこぽこと身体の内外で蠢く魔法体。
ある一定の形の生物のようだが、軟体の可能性もある。突然の形状変化には注意しておかないとな。
「ご丁寧に三体か……。しかし」
「コーにゃんは誰かが守っておいた方がいいよね」
「お手数おかけします……」
「クァハハ。愛しいわい」
言ってベルは、すっと俺の近くに寄る。
「アリス、ヒナ。任せるぞ」
彼女の言葉が掛け声だった。
スタートダッシュを返事代わりに、二人はそれぞれ軟体生物へと走る。
「右一体、任せたよアリしゅ!」
「任された!」
赤い絨毯の上を、赤いハイヒールでウサギが跳ねる。
「――――ふっ!」
アリスが銀のトレーを素早く振るうと同時、軟体生物は横一線に体が分断された。
目にもとまらぬ斬撃は、明らかにこの間の戦闘よりもパワーアップしていた。
「やるねアリしゅ! それじゃあ……こっちも!」
ヒナは手に持った魔剣以外にも、更に数本の剣を中空に顕現させる。
彼女が右手を突き出しゴーサインを出すと、中空の銀刃は弓矢のように飛んで行き、対象へと次々に突き刺さって行く。
「もらったっ!」
とどめとばかりにヒナが飛ぶ。
落下と共に一体を両断。返す刃で二体目を切断。
突如として現れた三体の液体生物は、彼女ら二人の手によって、瞬く間に切り伏せられた。
「おぉ……」
「フム。やりおるわい」
俺の肩を片手で抱きながら、ベルも感嘆の声を出す。
しかしその喜びもつかの間。通路の奥から第二、第三の生物が顔を出していた。
「また、幼女……?」
「どういうことじゃ? まさかこちらに、目の保養をさせておるわけではあるまいな」
「ベル、ちょっと自重しろ」
見境なさすぎるだろお前。
するとヒナが、剣を構えたままに口を開く。
「あー……。勇者からの記憶を思い出してみるとねー。魔王はどうやら、魔王城内に幼女の兵士をバチクソ飼ってたみたいじゃんね」
「なにそのピンポイントな兵隊」
「全部幼女の姿をした魔族だったみたい。たまんねーよね☆」
「たまんねーなァ!」
二重の意味でな!
ヤケクソ気味に俺は叫ぶ。
もしもその話が本当なら、ここから先出てくる敵が、全部幼女ってことになる。
しかも液状とか魔法体みたいな幼女だ。それらがどんどん切り伏せられる光景を、俺は見続けていくわけだ。
大丈夫かな? このダンジョンクリアした後に、俺の性癖歪んだりしてない?
「今はそーいうこと考えてる余裕ないっしょー」
「とりあえずきみはもうちょっと緊張感を持て」
「すみません! ……ってこれ、俺が悪いのか?」
戦闘は再開される。
今出てきた三体だけではなく、もっと大量に出るということが分かり、ベルも空気をひりつかせて周囲を警戒してくれた。
液状生物ってことは、姿かたちを変えて奇襲することも出来るだろうからな……。
「よい。周囲はワシに任せよ。
ぬしはアリスに意識を集中しておけ」
「え? なんでアリス?」
「あやつがこの中で、一番不安定じゃからじゃ」
「不安定……」
確かに。言われてみればそうかもしれない。
これは別に、アリスが弱いとかそういうことではなくて。
「アリス、まだ数回しかバニーになったことはないからなぁ」
知らない人が聞いたら誤解されそうなセリフなのはさておき。
アリス自体はもともと強い。
バニー状態になっていなくても、出会った頃よりも強くなっている。これは疑いようもない事実だ。
けれど俺とベルから成るバニー化、『仮装着』は。本人の意図するしないに関わらず、その身体能力をとことん上昇させる。
つまりアリスは、通常時の強さとバニー時の強さを、行ったり来たりしているのだ。
そうなれば動き方、情報の入り方、脳の使い方、武器の扱いに至るまで、ほとんどが別物になると考えたほうがいい。
思った以上に自分の体が動き過ぎるが故に、これまではしなかったミスを犯してしまう可能性もある。
例えば、一歩のダッシュ幅が大きくなりすぎて、敵に近づきすぎる……とか。
何にせよ、自分の体のコントロールをかなりつけてやらないと、うまく動けない。……と、思ってたんだけど……。
「はっ!」
「…………、」
「ふっ!」
「うーん……」
「つぁあッ!!」
「…………あれえ?」
なんか。
全然絶好調だった。
安心して見ていられるほどの身体さばきに、思わず目を奪われてしまう。
二つの立派な胸は、黒いビスチェにぎゅっと詰め込まれていることで、そこには深い谷間が出来ていて。彼女がステップを踏むたびに上下左右に小刻みに揺れ動く。
白い足は健康的に整っている。筋肉と脂肪のバランスが素晴らしく、引き締まった美しいラインはいつまでも見ていられるほどである。
肉がついたと言った尻だが、それは勿論いい意味でだ。
筋肉に底上げされた柔らかな脂肪が、太腿が躍動するたびに、そこに連動して跳ねていた。
「「ごくり……」」
ベルと二人して生唾を飲み込んだ。
互いに目を見合わせて……、再び視線をアリスへやる。
「うむ……。うむ、良いカラダじゃのう……」
「おぉ……。お前も分かるか……」
「無論じゃ。うぉ、見たか今の谷間の波打ちを」
「指を入れたくなる」
「ワシは足を挟んでもらいたい」
男子中学生の会話だった。
我がことながら、あまりにも知能指数が低すぎる。
「まぁアリスも堪能したことじゃし、そろそろ応援に行くかのう」
「え、俺は?」
「そこにヒナが戻ってきておるじゃろ?」
「やほやほ」
「いつの間に……」
アリスの乳・尻・太腿に夢中で、ヒナのほうを全然注力してなかった。
こちらはどうやら余裕の勝利のようである。
「いや、ヒナに魅力がないワケじゃないんだぞ。実際そのエロカワな格好は、目のやり場に困るわけで」
「何のフォローだし☆」
ウケるわーとヒナは笑う。
「お、一旦終わりそーだね」
「みたいだな」
ベルの手助け……というか獲物の横取りで、最後の一体が崩れ去った。
切り伏せられ、殴打された大量の幼女体たちは、中空に霧散していく。
「さてさて~。
どーやら、本格的に魔王城みたいだねー」
「マジか」
「まぁ本物ってわけじゃなくて、限りなく近いものに再現・構築してるってカンジだろうけど」
ヒナの説明はよく分からなかったが、彼女の視線や雰囲気を見るに、どうやらそれは嘘では無いようだ。
おそらく勇者と共に魔王城に乗り込んだ時の知識と照らし合わせ、結論を出している。
「つまり……」
「ヤバいってことだねー」
「ヤバいかー……」
「ヤババだねー」
シンプルだが明確な答えである。
ただ今の会話で、少しは空気もほぐれつつある。
「まぁヤバイことには変わらないんだけどさ。
ただ、会話が無くなるのは、それはそれで連係ミスにもつながるから」
「そうだね。こういう時こそ、意識的に声掛けをしていくべきだ」
士気も新たに、俺たちは再び歩みを進める。
「そういえば……」
ふと先ほどの光景を思い返してみる。
『ぬしはアリスに意識を集中しておけ』
『そろそろ応援に行くかのう』
……ベルが他人の心配をするのって、かなり珍しいよな?
何だかんだで仲間意識が芽生えてるのかもしれない。それは良い事だし喜ばしいことだ。
俺は違和感を抱えつつも、三人と共に行くのだった。
通路はまだ、深く、長い。




