22.下着屋事変・3
会話は色めき立つ。踊り出す。
姦しいという言葉があるが、今の私たちはまさしくその通りで。
「この、フルカップとハーフカップとは、どう違う?」
「フルに比べて、ハーフの方が布面積が少ないんだよ~。今のベルりんみたいに、綺麗な谷間を作りたい人向けって感じかな~」
「なるほどのう……」
「というか、きみが今手にしているソレ、良いデザインだな。私のサイズ無いかな……」
「おっけ、アタシも探すよ~。サイズは?」
「実はこの旅の途中で、上がってしまってね。この間測ったときには、67のFだった」
「へ~。アリしゅって横にベルりんが居るから麻痺っちゃうケド、十分巨乳だよね~」
「……まぁ、誉め言葉として受け取っておこうかな」
というか、彼女の体形は規格外すぎる。
数値以上に、目で見るとあまりの色香に性別関係なしに惹かれてしまう。
胸より上だけで見てみても……。肌の色、肩の高さ、首の長さとバランス、髪の毛の生え際に至るまで。すべてがかなり際どいバランスで調整されていて、至高の芸術品のようにまとまっている。
よからぬ思考が頭をよぎるのは、無理からぬ話だ。彼女に迫られたとき、私があまり抵抗できないのも、それが原因でもある。
「F~F~♪ どっこかな~♪」
「まぁ、きみはきみで、とてもまとまりのある身体つきだけれどね」
……ふむ、見つからないな。切らしているのかな? 残念だ。
「きみのほうも探そう。サイズはいくつなんだ?」
「ありちょ☆ えっとね~……。アタシのサイズは、アンダー61のDだね」
「そうか。それだとかなり選びやすそうだね」
「だよ~。ただ、選択肢が多すぎるのもちょっとネー。目移りしちゃうからアタシ」
「なるほど確かに」
物珍しそうに店内を眺めているベルを横目で見つつ、私はヒナのものも探してみる。
せっかく仲間になったのだ。お互いの好みを知っておくのも、必要だろう。
「ヒナ、こういうのは……」
「あは~☆ コレいいんじゃネ~?」
「ぶっ……! き、きみ……!」
「見て見て二人とも~。コレヤバくね?」
それは、もう紐だった。
大事な部分こそ隠せるが、逆に言えば、大事な部分以外は丸出しになると言っても良い。
「不思議じゃ。布面積が少ないものの方が、値段が高い」
「冒険者の装備でもあったりするじゃん? そ~いうの。加護か何か付与されてんジャン?」
「そんなわけあるか」
所謂、過激下着である。
そんなものに何の加護が付与されているというのか。魅了か何かか。
「よう分からんのう。……む、ではこちらはどうなんじゃ?」
ベルはベルで、違う物を発見したようだ。
……段々こいつも、普通に女子トークの輪の中に入ってこれるようになっているな。
そう思いつつも私は彼女の声に振り返る。するとそこで彼女が手にしていた物は……。
「おぉ~ベルりんのセンス最☆高!」
「きみな……」
「なんじゃ、これはダメなのか? 肌は覆われるようじゃぞ?」
彼女が手にしていたものは……、先ほどヒナが手にしていたものと、真逆。
健全という意味では無く、むしろ不健全なほうに真逆のものだった。
「丸出しだね」
「丸出しだな」
ヒナが持っていたものは、大事なところだけが隠れるようなものだったが。ベルが持っているものは、ほとんどの肌を隠しはするものの――――むしろ大事な部分を一切隠さないというランジェリーだった。
「何故じゃ? なんなら、ワシの格好よりも布面積は多いぞ?」
「それとこれとは話が別だ! 置いて来い!」
というか、どうしてさっきから過激下着ばかりを私によこしてくるのか。
ヒナの下着・肌着を選ぶという趣旨だったのだが。
「え? アタシのは別にいいよ~。もう買うの決まってるし」
「な、いつの間に……」
「アタシ魔剣だからさ~。紫とか黒いのにしとこうかなって」
ヒナは言いながら、お洒落な下着を見せてきた。
小さな星がワンポイントで飾りつけられていて、値段も手ごろで使い勝手もよさそうだ。
「……ちゃっかりしてるな、きみ」
「抜け目ないっしょ~。魔剣だからか、道具を選ぶセンスは抜群みたいだよ☆」
魔剣だからというのがいまいち私の感覚では理解できないが、それはスルーしておこう。
「ん? このオレンジのは……」
「そぉ~。アリしゅがさっき、似合うって言ってくれたじゃん? だから買お~と思って」
「そうなのか」
「友達が選んでくれたモノだからね~☆」
「……」
友達、か。
パーティメンバーとか、仲間ではない、また新しいジャンル。
前の街でレイラに感じていた感情を、彼女は私に想ってくれているのか。
「そうだな。きみによく似合うと思うよ」
目を瞑り、私は静かに言う。
とても心が満たされていく。じわりと心臓の奥底が、温かくなっていくのを感じた。
人でなくとも。信念が違えども。こうして友になることは出来るのだな。
「こちらこそありがとう、ヒナ」
「ん? そう~? そんなにコレ気に入った系?」
「え……?」
感慨が過ぎ去って、目を開けると。
ヒナは私の身体に、超スケスケのセクシーランジェリーをあてがっていた。
「なふぉっ……!」
「すごいのう。
着ておるのに着ておらん」
鏡で自身の姿を見ると、ベルが持つ下着越しに、ほぼそのまま私の衣服が透過していた。
これではもう、何も隠せていない。
「い、良いからさっさと戻してきなさいッッ!」
「は~い♪」
私はまるで、イタズラっ子を持った母親のような叱り方をして、瞬間的に店内で一番目立ってしまったのだった。
というかランジェリーショップ編。
長くない?




