21.下着屋事変・2
「――――と、いうわけで。ここがランジェリーショップというところだが」
「ふむ」
人生何が起こるか分からないと、改めて思う。
まさかニンゲンではない者たちと、下着を選ぶことになるとは思わなかった。
「やはり目立つな」
「そうみたいじゃのう」
まぁ慣れたもんじゃと、周囲から奇異の視線を寄せられるベルは、あっけらかんとそう口にした。
広い店内には多くの一般客の他に、冒険者と思しき者も居る。冒険者たちの中には奇抜な格好をしている者も居はする。……が、流石にバニーガールは目立ちすぎる。
中には何かのプロモーションかと思っている人も居るくらいだ。というか、そう思っていてくれた方がまだ気楽ではある。
「道中もそうだったが、きみ、嫌じゃ無いのか?」
「別に何とも。珍しがられるのには慣れておるでの」
言って短く「クァハ」と笑うベル。
まぁ、本人が気にしないのなら別に良いか。
「というか、わしはぬしらの方が――――」
「見て見てアリしゅ~。この色めっちゃ綺麗くね?」
ベルが何かを言おうとしたと同時。その言葉を遮って、ヒナのあっけらかんとした声が聞こえてくる。
どうやら彼女は、慣れない下着屋というものでテンションが上がっているらしい。私は今度はそちらを向いて返事をした。
「ふむ、そうだな。鮮やかなオレンジだ」
「アンダークロスになってるのいいよね~」
「きみに似合いそうだね」
「そ? あざまし☆」
けっこう詳しそうな魔剣だった。
そして、全然詳しく無さそう(というか知らなそう)な魔竜。
「ふむ、これはワシのと似とるのう?」
ベルもそう言って後ろから覗き込む。
「そっちはビスチェタイプだね。ホックも五列になっているから、ズレなさそうだ」
彼女が手に取っていたのは白色のビスチェだった。
胸元だけではなく、腹部まで隠すタイプの下着である。胴体でしっかりと留める代わりに、肩のストラップをつけなくてもいいタイプである。
「ほっく」
「背中側についている留め具のことだ。きみのビスチェは……、なるほど。そういう類のはついてないね」
「ベルりんが着てるバニー衣装のビスチェって、足だけ入れてそのまま体にフィットさせるだけのタイプだよね~。肩ひもも無いから、本来ならそのままずり落とせそう」
「概念で『脱げない』から、激しく動いてもずり落ちないということなのだろうな……」
かくいう私も、着ているから分かる。
アレは本当に不安定だ。脱げないと分かっていても、胸元のあの無防備感はなかなか慣れない。……慣れてたまるかという気持ちもあるけれど。
「なるほどのう。……ここの部分は何じゃ?」
「そこはボーンだね~。ある程度下着ごとにカタチが決まってて、それに合わせたボディラインに補正されるんだよ~」
「なるほどのう。ワシがニンゲンの形に納まっておる……みたいなことじゃな?」
「そんな感じ~☆」
「いやそんな感じではないだろう」
適当なことを言うなヒナ。実際の理論は知らないけれど。
「む? こちらのものは逆に、だいぶ布の面積が少ないが」
「そっちはセクシーランジェリーだね~」
「マイクロビキニとはまたエグいな」
ただ悲しいかな。股下の切れ込み角度だけは、バニー衣装と同じくらいである。
改めて考えると、セクシーランジェリーと同じくらいの切れ込みなのは非常によろしくないな。
「あれあれ~? アリしゅってば結構くわしい~?」
にやにやし、からかうように聞いてくるヒナに、しかし私は気にせずにさらりと返した。
「軍に居た頃に、そういうのに詳しい友人がいただけさ。私自身は着たことも無いよ」
まぁ。誕生日プレゼントとして送られて来たことはあるけれど。
残念ながらあれが日の目を見ることは、ついぞ無かったな。
「へえ? 残念なんだ?」
「せっかく送ってもらったものだからね」
好む好まないは別として。『そういうこと』を目的として作られたものなのであれば、ちゃんとその場面で使ってやりたいという気持ちはある。半分冗談とは言え、贈り物ではあるのだし。
「なるほどね~。カタブツのアリしゅがお洒落に詳しかったりするのは、その友人のお陰ってわけだ」
「そうかもしれない。私一人でもある程度の興味はあっただろうけれど、そこまで詳しくはならなかっただろうね」
何分、調べ方や善し悪しが分からない。
例えば自分が、このレースがついているブラを買おうと思ったとき。
脇口にレースが当たりそうだからかゆくなりそうとか、大きいサイズのわりにホックが二段だから外れやすいかもとか、そういう部分までは詳しい人間と話さなければ知りえない部分なのである。
「逆にどうしてヒナは詳しいんだ?」
「アタシは前の持ち主が、そういうのに詳しかったからかな~」
経験じゃ無くて、あくまで知識だけね~とヒナは言う。
「今からけっこー前の時代だったぽいから、ファッションもだいぶ様変わりした……というか、ここまで種類豊富じゃなかったけどね~」
「フム、確かに種類が多いのう。
木造りのこの小屋に、まさかここまでの種類と量が置いてあるとは思わなんだ」
このランジェリーショップは、外から見るとそこまで大きくはない。が、下着オンリーで売っている場所となると、むしろ十分な大きさと広さである。二階もあるし。
「良い――――空間じゃの」
見回し、どこか感慨にふけるような声でベルは言う。
それを見て私は、ふと、コースケが彼女を想う気持ちが、少し分かった気がした。




