20.下着屋事変・1
魔剣・ヴァルヒナクトの事件が解決し、程なくして。
未だに脅威はぬぐい切れないものの、我々はひと時の休息を楽しんでいた。
今日もそれぞれが自由に過ごす時間である。
私、アリス・アルシアンは、朝のルーティンである運動とシャワーを済ませ、朝食を取っていた。
今日のベルはコースケではなく、私と一緒に居ることに。
というか、あの一件以来、彼女は私と共にいる。
「どうしてだ?
「あやつと一緒に居ると発情してしまうじゃろ?」
「ごちそうさまだな」
「なんじゃ、まだ残っておるが」
「そういう意味ではない」
なんというか。
私も私で、『そういう知識や言い回し』を、だいぶ知ってきた気がする。
最初にベルと出会ったときの、『一緒に寝る』発言も、今では立派に意味が分かる(何も立派ではないけれど)。
「このムッツリ騎士め」
「うるさいエロエロ魔竜」
いつものように軽口を言い合い、今日も二人で街に出る。
バニーガールと出歩くのももう慣れた。そして、意外なことにこの周辺の人たちも、ある程度は慣れたみたいだ。
最初はあまりにもな格好に面喰っていたが、いや今でも面喰いはするものの、当のベル本人があまりにも堂々としすぎているものだから、もう『そういう人』として受け入れているみたいだ。
「アリスのおかげでもあるかものう」
「私? どうしてだ?」
「コースケは常に、『ご迷惑をおかけします』という態度じゃろ?
じゃがアリスは堂々としてくれておる。そこの違いじゃろうな」
「確かにね。コースケはそういうところがあるな」
「悪気があるわけではないんじゃがの。それにその申し訳なさは、バニーガールであるワシを連れているという気持ちの他にも、俺なんかが目立ってすみませんとか、自分自身への卑屈さからきておる」
「コースケのことになると語るな、きみは」
「クァハハハ。好きじゃからの」
「ふふ。ごちそうさま」
「また食べ終わりおったわい♪」
そんな話をしていると。曲がり角でふとヒナに遭遇した。
ここは西と東の、エリアの境目だ。そういうこともあるだろう。
「ありゃ、アリしゅじゃん。ベルりんも」
「おぉ小娘。なんじゃ、ぬしもぬしで目立つのう」
「あざお☆ まぁベルりんには負けっけどねー」
それはそうだ。何たってバニーガール姿なのだし。
軽い出会い頭の挨拶。
しかしベルは意外なことに、この話題を引っ張った。
「そこなんじゃが」
「ん?」
「なにー?」
意外なリズムの混入に、私とヒナは彼女の顔を見やる。
ベルは「いやな」と、純粋な疑問をこちらへと投げてきた。
「毎度この格好について指摘を受けるが、わしからすれば、何で目立っておるのかがほとほと疑問なんじゃ」
「きみ……」
「え、本気で言ってんのベルりん?」
ヒナと顔を見合わせて呆れる。
ここまで認識のずれがあるとは。魔竜というのは恐れ入る。
人に見られても動じないとは思っていたが、そもそも認識としてずれていたのか。
私はため息をつきながら彼女に言う。
「はぁ……。ヒトどころか生物ではないヒナですら、そこのところは理解しているというのにね」
「だね~。アタシはある意味、好きで、選んでギャルの格好してるけどさ。周りからはやや浮いてるって自覚はあるわけで」
「フム……。なんとも難しいのう」
すました表情のまま、ベルはどこか嬉しそうに顎に手を当てる。
先日の苦戦や弱体化もそうだが、彼女は自身の感覚にとって、不利益なものを好む傾向にあるみたいだ。
それはもしかしたら、これまでの在り方において、万能すぎたが故かもしれない。
自信にとって、『出来ない』ことや『分からない』感覚というのが。
新鮮でたまらないのだろう。
――――と、ここ何日か一緒に過ごしていて思った。
「ふうん……。ベルりんってけっこうドMなんだね~? アリしゅは見るからに、だけど」
「誰が見るからにMだ。私はそんな感性を持ち合わせておらんぞ」
「…………」
「…………」
おかしい。どうして二人とも黙ってしまうのだ。
先ほどまで賑やかに会話していたというのに。
私がため息をつくと、ベルは話題を服装のことに戻した。
一度その会話は終わったと思ったのだが、彼女の中ではどうやら、まだ疑問は晴れていなかったらしい。
「いや特に気にすることでもないとは思ったのじゃがのう。良い機会じゃと思って、普段から抱えておった疑問を解消したかったんじゃ」
「なるほど?」
「へ~? 疑問って~?」
ベルは私たちの言葉に「うむ」と頷き、すっと白い指先でとある場所を指した。
「あそこに飾られておるヒトガタの作り物も、薄い布しか纏うておらんじゃろ? それなのになぜワシだけが目立つのかと思うての」
「アレは……」
彼女が指さしたのは、女性ものの服屋。そこに飾られている、マネキンだった。
なるほど、この一瞬で理解した。
そしてせっかくのオフで、この場には女性しか居ない。
「…………」
「……へぇ」
今度は先ほどとメンツが変わり、ヒナと二人して目を合わせて頷く。
いい機会だ。コースケでは解消できない疑問を、教えてやるのもいいかもしれない。
「ベルりん。あれはね~」
「あぁ。アレは、下着というものだ」
私たちの今日の目的地は。
あの服屋に決まった。




