19.ヒナとファッション談義
ゆっくりのんびりと街を歩いていると、瞬く間に日は傾いていく。
激戦を繰り広げているときの二、三時間とでは、あまりにも密度が違い過ぎてびびる。そんな感想を抱いた。
「あれ、ヒナじゃないか」
「およ、コーにゃんじゃん。きぐ~」
いえーいと小さくハイタッチをする。出会ったときからそうだが、いつも彼女は元気印だ。ヘリオスちゃんとはまた違った元気を持っている。
「元気すぎて、服、脱げないようにな」
「あぁコレ? よゆ~っしょ。ホックあるし」
今朝のヒナはわりとおとなしめの服装だったのだが、着替えたのか、背中が大きく開いた白色のシャツを着ていた。
「シャツって言っていいのかは分からんが……」
「トップスって言うんだよおじちゃん♪」
「受け入れよう」
おじちゃん呼びも仕方ない。
現代に居た頃も思ったが、若者(特に女性)ファッションは、普段男が着るものとあまりにも形が違いすぎて理解できない。名称もどんどん増えていくしな……。
背中も出ているが足も出ている。
色々なところを放り出していて、おじちゃんは心配になるよ。
「ベルりんにバニーの格好させてるヒトに言われてもね」
「それもそう」
ちょっとだけ若者のような返答をして、一息つく。
「とりま、さっきぶりだね~。ほーこく? っていうのは終わったの?」
「あぁ、ばっちり」
「おつだぜ~」
ゆるめな空気。ぴこぴこ動くやや長めの耳を見ると癒される。
でもこの小さい身体には、めちゃくちゃな破壊力を秘めているんだよな。嘘みたいだ。
「ところでベルたちは?」
「なんか早食い対決が開催されてたから、参加してたよ~。ベルりんがどうしてもやってみたいって」
「アリスも目立ちたくはないだろうにな……。ご愁傷さまだ」
バニーは目立つぞー。まぁ、すでに身に染みてるとは思うけど。
「アタシはけっこーアリしゅには信頼してもらってっからね~。自由にさせてもらってるぜい☆」
「その『アリしゅ』ってのは、あだ名か?」
「そそ。かわいいっしょ?」
「まぁ、甘噛みしたのかなと思うくらいには」
我ながら意味不明な返しをしながら、ヒナと二人で街を歩く。
なんか、ニンゲンじゃないと分かって歩いているのに、その実感がない。ベルとはまた違った気持ちである。
「そういえば疑問だったんだけど。
どうしてヒナは……、ギャルみたいな性格になったんだ?」
ベルは『古い』生物だから(?)、「のじゃ」とか、神々っぽい言葉遣いになるのは分かるのだが。
魔剣とギャルがどうしてもつながらない。
というか、異世界でも『ギャル』という概念があることが驚いた。
「でも考えてみれば、アリスだってネイルしてたりするか……」
「ギャル・イコール・ネイルって考えが、もうオッサンくさいことない?」
「おぉん……」
魔剣の攻撃力はめちゃくちゃ高かった。
俺が精神的斬撃ダメージを受けていると、ヒナは笑いながら「えっとね~」と顎に指を当てて言う。
「アタシってば魔剣だからさ~。……軽いじゃん?」
「そうだな」
「だから軽い性格になったんじゃん?」
「え、そういう理屈!?」
物理的な軽さが正確に直結してるってこと!?
んなことあるの!? 駄目だ! 前例がベルしか居ないからわからん!
「でもその理論で行くと、体長めちゃくちゃでかいベルは、めちゃくちゃ重いってことになるんだが……」
「さあ~? 魔竜は魔竜。魔剣は魔剣だし。しらね☆」
「軽いなあ……」
フットワークもそうだが、心持ちがあまりにも軽すぎる。
「だってまだ成ってから日も浅いしさ~」
「そう言えばそうか」
「ある意味~、生まれ変わってからは、まだ二日目だよ?」
「なるほど」
「そ~☆ だから、めっちゃベンキョーしてんの」
「あぁ、だからか」
一度目会ったときはめちゃくちゃ古臭いギャル語だったが。
二度目、三度目と、どんどん新しい(?)言葉にバージョンアップしていっていた。
しかしこれも、勉強のたまものだとしたら納得だ。
「アタシっぽい喋りする娘らに聞き耳立てて、頭ン中で反芻してんの。良さみっしょ?」
「お、おぉ。よさみよさみ……」
「でもショージキもうキャパいけどねー。覚えることえぐいって」
なるほど。
だからなのか、今日は言葉遣い以外にも、細かな部分でギャルを感じることがあった。
まつ毛も綺麗に整えられているし、耳にしていたピアスも服装により合ったものに変えられている。そして特徴的なのが……。
「昨日は無かった、メッシュだな」
「お、気づいた? あざお☆」
ヒナといえば色素が薄めのセミロングの茶髪が特徴的だが。その前髪部分に、左右対称なグレーメッシュが一筋ずつ入っている。
この銀とグレーの中間カラーは、どことなく魔剣状態のヒナ――――ヴァルヒナクトの刀身の色に似ているなと思った。
「あ、それも気づいたかんじ?
これのカラー選びにめっちゃ時間かかってさ~」
「そうなのか」
「みんなと別れてから、ずっと選んでたよね」
「気合い入ってるなー」
俺が一人で行動していて三時間くらい。
ヘリオスちゃんへの報告の時間から自由に動いていたと計算すると、四時間弱くらいはファッション選びに費やしていたことになる。
「へへ。でもいいっしょ?」
「そうだな。ヒナにめちゃくちゃ似合ってる」
「コーにゃんも入れてみなよメッシュ……ぷははっ」
「言ってる途中で笑うなよ……」
流石に似合わねえよ俺には。
「まぁメッシュは置いておいてもさ。
前から思ってたけど、コーにゃんのファッションセンス、さり気イイよね?」
「あぁこれか。これはアリスの見立てなんだ。ベルと二人だったときは、たぶんダサい寄りだったと思うぞ」
「アリしゅセンスか~。なるほ。これセトアじゃないよね? でもめっちゃ合ってるわー」
「セトア? あぁ……セットアップね」
上下、もしくは周囲の小物なども含めて、一式のコーディネートになっていることだな。
ギャルというか、若者と話すのは、一々言葉の意味を理解していかないといけないのが大変だ……。
「確かアリスが、あまりにもキメすぎるとアレンジが効かなくなるからやめておこう……的なことを言ってたかな?」
「あーわかりみ。アリしゅめっちゃイイ女じゃんね~」
「えっと……? まぁイイ女だとは思うけど、今の会話で分かるのか?」
「いや分かるっしょ。だってそのコーデ、コーにゃんの好みも入れれるように、あえてヨユー部分を持たせてんのよ」
「ふぅん?」
「例えばコーにゃんが、黒色好きだとすんじゃん? けど、セトアで着せた服に、どーしても黒が合わなかったとしたらさ。そりゃコーにゃん自体は似合ってる服装を着れてるワケだけど……、黒色を入れらんねーからテンションはサゲじゃんね?」
「まぁそうなるかもなぁ」
実際には俺にこだわりの色なんてないわけだが。
でも例えば、俺にショッキングピンクが似合いすぎるとして……、でもそれを一日中着ていてテンション上げろって言われても……。うん、無理だな……。
「だからアリしゅは、コーにゃんがいつ好きな色を取り入れてもいいように、ある程度余裕が残る服選びをしてくれてんの。
実際買いながらさ、好きな色とか聞かれなかった?」
「おぉ、聞かれた聞かれた。どっちの色が好きかとか、ベルの意見とかな」
「ベルりんにも聞いてたか~……。流石だなアリしゅは」
うんうんと頷きくヒナ。
目元は変わらず穏やかだが、眉の吊り上がりでテンションがアゲになっているのが分かる。
「まぁそんな風に。コーにゃんに似合う部分と、コーにゃんの好みの部分のイイトコ取りをしたのが、今着てる服ってワケ」
「すげえな……」
「だよね~。流石アリしゅ」
「いやお前もな……」
俺が着てる服を数着見ただけで、そんな思惑があったことを見抜けるとか。
それも、ニンゲンになって僅かのはずなのに。いやはや、学習能力には恐れ入る。
「あはは。こーいうジャンルが好きみたいだからね~アタシ。
コーにゃんと一緒だよ☆」
「俺と? 俺が何?」
疑問に思い首をひねると、ヒナは笑ってこう言った。
「だってベルりんのことは、何だって知ってるじゃん? 興味あるってコトは、そういうコト♪」
なるほどね。
からかわれないワケが無いと、思ってはいたんだよなぁ。
とりあえずその夜は、アリスにはちょっといい夕食を食べてもらった。
終始困惑した顔をしていたが、おじさんからのちょっとした感謝の気持ちです。




