15.ヒナほどき(ま?)
かなりギリギリではあったものの、どうにかヒナを救出することに成功した俺とベルだったが。帰還しようとしたタイミングで、二つほど問題にぶち当たった。
まず一つ目。
「ここの異変魔力の件、解決してなくね?」
「……あ」
「そういえばそうじゃのう」
一番冒険者稼業に詳しくないヒナが、いの一番にその事実に気づいたのだった。
「この場所に来て、ヒナの件でばたばたしてたからそっちに気がかりだったけど……。そういえばその名目には全く触れて無かったなぁ」
「うむ。さしものワシも、うっかりしておったわい」
ベルは言って、再び鼻をすんと鳴らす。
「ヒナからは……ほとんど魔力の異変は感じんのう」
「お、イイ匂い~?」
「うむ。食らいたくなる匂いじゃ」
「やったぜ~☆」
……意味伝わってるのかな。
ベルが言う性的な意味合いを含む言葉を、額面通りに受け取れない場合、後で痛い目見るからな。アリスの時みたいに。
「わかってるっつの、交配っしょ? ニンゲン好きだもんね~」
「うぉっ、いや、その……」
「あれ? でもベルりん。アタシ女性体だよ? つか、コドモ出来るか分かんね~ケド。そんでもイイの?」
「大丈夫じゃヒナ。ヒトはのう、子を成す以外でも、」
「うぉぉい! ベルちょっと黙れ! 変なコト教えんな!」
危なすぎる発言だった。
「あー……でも。そうだよなぁ」
ヒナは外見的には十八~二十歳くらいの外見だし、言葉も喋れてるから感覚がマヒするけど、まだニンゲンとして生きて間もないのだ。
生きていくための『知識』は、ある程度色々なことを知っているんだろうけど。必要ない事に関しては、まだまだ知らないのだ。特にその……快楽部分とか。
そんな無垢なヤツに対して、ベルアインの持つ知識は、あまりにも毒過ぎる。
情操教育はある程度まともに行わなければならない。コレ、鉄則ですね
「と……、とりあえず、異常魔力のことをどうにか調査しよう! ヒナも、それでいいよな!」
「おけまる~」
言って彼女は指でオッケーサインを作る。
「あとさ~コーにゃん」
「ん? なんだ?」
ヒナはまったく変わらないノリで、俺に質問を投げた。
「あとアタシのバニー服? なんか消えかけてるんだけどー……、これってニンゲン的に大丈夫なカンジだっけ?」
言って可愛く小首をかしげるヒナ。
そう……。これが二つ目の問題なのでした。
「…………いや、大丈夫じゃないカンジデス」
「ま?」
「ま」
わぁすごい。短いセンテンスでも、言語って通じるね。
俺は大慌てで、何か策を考えるのだった。
ベルは笑ってた。
「危なかった……」
現在俺は、上半身は肌着だけの状態になり、草原だった荒野を歩いていた。
ベルはいつものバニーガール姿。
そして全裸になりかけていたヒナは、俺が脱いで渡した上着を着ている。
「つーか、上から服を着れて良かった」
もしもベルと同じように、半裸・全裸状態が概念として固定されていたら、上から何も装備出来なかったからな……
「さっきのバニーガールとかって服? 何で解けっちゃったん?」
「うーん……、アリスの時と同じパターンだろうなあ。完全契約ではないから、時間が経てば元に戻る」
アリスはバニー化しても、元々着ている軽鎧に戻る。
ヒナは元が全裸状態だったから、バニー化が解けたらすっぽんぽんになってしまうのだ。
「そうじゃろうのぅ」
ベルは言って、ぺろりとヒナの服をまくり上げ、腹部の紋章を確認する。
俺は慌てて目を逸らして「馬鹿野郎」とつぶやくと、ベルはなんじゃと片眉を上げた。
「今更へそごときで興奮するか? ぬしよ」
「いやいや! 今のヒナは俺の上着一枚なんだぞ!」
彼シャツを羽織っていると考えてもらっていい。
その下は全裸なのだ。シャツをへそまでまくり上げるということは、それより下の部分は、全て丸見えになるというワケで。全裸状態のヒナは、パンツなんて履いてないわけで。
「あはは☆ 別に見られてもイイけどね~」
「じゃと」
「もっと恥じらいを持ってくれ……。アリスくらいのバランスで良いから」
……ともかく。
現在のヒナは、俺たちと契約して勇者パワーを得てはいるものの、その力は一旦眠りについている。
おそらくアリスと同じように、闘志や魔力が昂ったとき、バニー化を果たすのだと思われる。
「なるほどね~。アレめっかわだから、アリよりのアリだよ☆」
「そうなのか……」
「でももうちょいエロ方面より、カワイイ系に持っていきたいかな~……」
そう言われてもな……。
バニーはバニーだしと考えていると、ベルが何かを思いついたように口を開いた。
「いや、もしかしたら出来るやもしれんぞ」
「え?」
ベルは言いながら、ヒナと戦ったときにも出した立て看板を取り出した。
「これは勇者の力の一端である、魔力による灌流固定化造術――――武装装填と呼ばれる能力じゃが。
おそらく服にも、これと同じような作用を施せるはずじゃ」
「お、マ?」
「マジで!?」
「……なんでコーにゃんがびっくりするわけ?」
「いや俺も知らなくて……」
というかベルよ。
「そんなこと出来るんなら、これまでもやればよかったじゃないか」
街に入るときとか、下手に目立たなくて良かったのに。
毎度説明したり言い訳を考えたりするのも、楽では無いのである。
俺が言うと……、しかしベルはやや目を細めてきっぱりと言い切った。
「いやじゃ」
「え、何でだよ」
「ん~? クァハ、なんでじゃろうの」
「え、……なんか拗ねてる?」
「さぁの」
ベルは言って、再びいつものニヒルな笑いを顔に浮かべた。
そのやり取りを見ていたヒナは、何故か「エモみ♪」とにやけ面になっていた。何なんだいったい……。
「まぁとにかくじゃ。今度バニーになりそうなとき、やってみるとよい」
「そだね~」
軽く返事をするヒナ。
けれどその動作と共に剣を召喚し――――何もないはずの中空に向かって、勢いよく振りぬいた。
「ギャオォォォッッ!」
「うむ、仕留めたのう」
「姿消すとかウケル。誤魔化されねーし☆」
「え…………、えぇ……?」
五秒前まで朗らかに話していたのだが、突然戦闘モードに切り替わっていた。
というか、気配すら感じなかったぞ……。
「今のが異常魔力のモンスター?」
「みたいじゃの。つまり、ぬしの異常とここの異常は、関係なかったようじゃ」
「り~」
「えぇ……? えぇぇぇぇっ……!?」
今ので終わり? 天界からの依頼が?
「軽く振った一撃じゃが、とんでもない力じゃったのう」
「えへへ~! 思った以上にコーにゃんとの契約力、スゲーね♪」
「…………、」
なんだろうな。
本編のボスよりサブクエストの攻略の方が、何十倍も難しかったような、この感じ。
バニー化すらしていないということは、つまり闘気を昂らせるまでもないということで。
ここのクエスト、確かA+だったような……。
色々な想いを孕みつつも俺たちは帰路に就く。
こうしてこの日。
新しく、魔剣・ヴァルヒナクトが仲間になったのだった。
後日のアリスは。
「ま、魔剣……! 魔剣……!?
あの魔潤精霊大戦時代における、最高にして至高の一振りである、魔剣・ヴァルヒナクトだと!? きみが!?」
「まぁ、こういうリアクションが普通だよな……」
「剣の輝き……! きらめき……! フォルム……! はぁ、はぁ……!」
「このヒトこえーんだけどワロ」
新しく、名剣フェチという属性が露わになった、アリスであった。
しかし……。それじゃあヘリオスちゃんの懸念していた、『この街への良くないこと』って、いったい何だったんだ?




