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14.魔剣のふるさと



 特に感慨にふけることも無かった。

 崩壊していく自身の刃先(からだ)を見やり、アタシは今わの際でそう思う。


 目の前には強い生物。

 弱い存在のアタシは負け、砕かれる。たったそれだけの話。


 ――――あぁ、コーにゃんか。アレ。


 ふと、この二日間で一番喋った男の顔が、目に映る。

 別に好きとかそういう感情は無かったし、そもそもそういう感情が芽生える可能性があるという知識を得たのが五日前だから、そんな都合のいい事なんて考えなかったけれど。

 けれど、一緒に居て楽しかったのはホントウだ。


 剣としてアタシは、色んなものを斬ってきた。色んな使われ方をしてきた。

 その生に後悔はないけれど、砕かれそうになる間際に、あんな言葉が出るなんて自分でもびっくりだった。


『次に生まれるときは、また魔剣が良いかな~』


『そうしたら。アタシを従えるのは――――』


 あはは。

 なんて幻想。

 五日前まで心なんて無かった存在が、そんなことを思う時点で嘘過ぎる。自分にただただ酔っていただけか。それともこれまで見て(しって)きた中で造った、疑似人格か。


「まぁ別に、」


 何でもいい。

 魔剣・ヴァルヒナクトは。こうして存在が消えるのだ。

 魔王を封印し、最後は魔王の力が暴走し、勇者の力を得た魔竜に、打ち倒される。

 ヒトに仇なす存在としては、なんとも綺麗な最後ではないか――――


「――――最後には、」

「させんぞッ!」


 …………え。


 視界を集中させると。そこには全力でアタシの身体を包む二人が居た。

 ベルアインはまだ分かる。けれど、コーにゃんも、アタシの身体に触れていた。

 今のアタシに触れるということは。それはつまり、素手で魔剣の刃を握りしめることと同義だ。

 傷を負い出力が下がっているだけで、少しでも力が戻れば、いつ先ほどの破壊力が出てもおかしくはない。そんな状況だ。

 なのに。


「ベル! 絶対離すなよ……!」

「勿論じゃ! 魔力を送り続ける!」

「ふたり、と、も……」


 消滅しかかった自我に、再び意識(ことば)が戻る。

 少しずつ大気に流れていっていたアタシの身体が、再び輪郭を帯びていく。


「――――あぁ」


 腹部の紋章から。

 血が通う。温かさが戻る。

 五日前に感じた不思議で不可思議な現象に、再び包まれているのが分かる。


 先ほどまで視界に移っていたベルアインは、激闘に陶酔した表情を見せていた。しかしながら今は、まるで――――ニンゲンのように、顔をしかめて、必死でアタシを連れ戻そうとしてくれていて。

 それを見てアタシは、良いんだ(・・・・)、なんて思って。

 だから。

 それじゃあアタシも、生きてみようかなって。思ってしまって。


「ベル、り、ん……! コー……、」

「意識が戻りおった! コースケ!」

「おう!」


 コーにゃんは一度アタシから手を離し、ずたずたになった掌をかざして、身体から魔力を解き放つ。

 澄み渡る青空に呼応するかのように、綺麗な魔法の波動はアタシを包み込んで。身体中の熱を更に高めていく。


「おぉぉぉ……ッ! 去れ……、魔王の思念……!」

「コーにゃん……、る――――Lrrrrrr………………ッッッッ!!」


 もう何が起こっているのかも分からない、自分の体。

 けれどその中で。

 魔剣部分と、邪悪な何かの思念が、せめぎ合っているのが分かった。

 内臓と呼ばれる器官が全てアツくなっていくような。けれど芯は温度を失くしていくような、そんな感覚。


 瞬間。

 魔力が呼応した。


 アタシの中から闇色のエネルギーが出て行ったかと思うと、途端にそれは中空で形を成す。そして――――にこりと笑ったかと思うと、ソレは霧散していった。


「は――――は、ぁ、ぁ、はぁ、は、ぁ……」


 不均一な呼吸に支配される己が身体。

 乱れているのは内側か、髪の毛か。汗ばんだ額はまるで廃熱機関だ。打たれた時にも、ここまでの熱は感じたことが無かったかもしれない。先ほどまでの変わらぬ風が、今はとても冷たく感じる。


「大丈夫か、ヒナ……!」

「あは、あはは……。だいじょぶ、だいじょ、ぶ……」


 駆け寄ってくるコーにゃんに、アタシはなんとか返事をした。

 対照的に。ゆっくりとした足取りで歩いてくるベルアイン。

 どうにかお礼を言わないとと思って、横たわる体を起こそうとする。


 そのとき。

 ふいにお尻に、不思議な感触を覚えた。


「ん? ナニコレ?」


 起き上がるためにはまず上半身を起こさなければならない。だからそこに連動して、お尻の部分が地面とこすれるのは、人体上まともなことだと理解している。けれど、そこに異物があった。


「しっぽ……? それも、丸い?」


 なるほど。変な感触は、これを腰で潰してたからか。

 そしてよく見ると。足には尖ったハイヒール。腕には黒色のカフス。

 胸元は大きく開かれており、頭にも何かがついている感触がある。


「……………………もしかしなくても、ベルりんとおそろ?」

「うむ」


 しっかりと肯定するベルりんと、高速で目を逸らすコーにゃん。

 状況的に、どうやらこれはコーにゃんのせいらしい。


「いや、すまん! エッチな格好にしてすまん! でも、それ以外に方法が無くて……!」

「アリスのときも同じようなことを言っておったがのう」

「でもコレ合法だから! 大丈夫なヤツだから!」

「言えば言う程じゃのう」


 何だかよく分からないけれど。

 アタシは、死の淵から生還したらしい。

 元々『生』という概念とは無縁ではあったんだけど、一度実感したものをもう一度失うのは、やっぱり怖いことだと気が付いた。

 なるほど、ニンゲン。

 生物になるのは、想像以上に面白いコトらしい。


「あはは☆ けっこ~かわいいじゃん?」


 アタシは笑って、命を賭して救ってくれた恩人に対し、アタシらしく笑顔を向ける。


「バチクソぶち上げ! これから――――よろっ!」


 こちらを見返す二人の視線は。

 まるで太陽みたいな温かさだった。

 魔剣だからそーいうの見るの、ホントは苦手なはずなんだけどな♪







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