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0(2).出会い・A



「ちょっと待て」


 時系列は戻ってきて、ルモールの泉。

 そよそよと爽やかな風が吹き抜ける中、俺とベルはこれまでの道中を女騎士さん――――アリス・アルシアンさんに説明している最中だった。

 ただ、普通に口頭で話しても分かりづらいだろうと思ったので、ちょっと『神』の手助けをいただいていた。


「こ、これ……! どうなっているのだ!?」

「うーん……、逆効果だったか……?」


 今彼女の目の前を支配しているのは、分かりやすく言えば『VR』である。

 もちろん本物のVR装置ではなく、上級魔法だ。

 提供は、俺たちの上司的な立ち位置に当たる、女神サマからです。本当にありがとうございます。


「『VR魔法』って俺は言ってるけど、伝わらないか……」

「なんだ!? ぶ、ぶいあーる!?

 おわっ! いきなり目の前が暗くなったぞ! 何かの攻撃かッ!?」

「ばたばたしとるのう」


 生まれたての鳥のようじゃと、ベルは小さく舌なめずりをした。

 さすがにあの状態のアリスさんには、手を出さないでやってくれ。目の前が真っ暗であろう状態で身体中をまさぐられるとか、それはもう凌辱行為一歩手前だ(なお近しいことは既に行われた後である)。


「と……、とりあえず、先に進めて良いのかな……?」


 俺が虚空に向かって質問を飛ばすと、『はい』と可愛らしくもハキハキした返答が返って来た。


『サクサク――――わかりやすくいきましょう! 次のシーンに飛ばしたいと思います!』


 俺たちの上司的な女神サマ。

 ヘリオスちゃんの声が、ルモールの泉にこだまする。


「ヘリオスちゃん。今アリスには、何のシーン見せたんだ?」

『はい。まずは目の前の生物が、どれほどの力を持っているのかを知っていた方が分かりやすいかと思いまして。先日お二人が悪徳領主をぶっ飛ばしたシーンを見せました』

「いきなりそれかぁ……」

『カッコイイかと思いまして』

「カッコよかったか……?」


 俺はと言えば、あたふたしていただけだったような気もするが……。

 まぁ、ベルはカッコよかったから、今はそれでいいのか、な?


『では次のシーンに行きましょう。

 次は、お二方の出会いのシーンです』

「絶対順番を間違えている気がするのだが……」


 VR魔法で目を塞がれたままのアリスに俺も賛同する。

 どうして時系列順にやってあげないんだ……。これではいつまで経っても、バニーガールの尻に敷かれている太ったオッサンというイメージが払拭されないじゃないか……。


「そこは正直、何を見ても払拭されないと思うが」

「はい辛辣ですね!」


 でもそうだよね! ベルに振り回されっぱなしだし、出会いったときからずっとこのスタンスだもんね!


『では開始しましょう。あ、せっかくなのでお二方も一緒に思い返しては?』

「うむおもしろそうじゃ。わしにもつけよ」

「俺は……いいかな」

『了解しました。それではコレを』


 ヘリオスちゃんは言うと、ベルにもVR魔法をかけた。

 俺の目の前で、美女二人が目隠し状態でやや身体をそわそわさせている。


「…………、……」


 イケナイことが頭をよぎったので、ぶんぶんと(かぶり)を振って、息を整える。

 しかし俺側の追体験を、ベルもするのか。なんか知られて恥ずかしいような、そうでもないような。まぁ視界だけの追体験だから、心情まで知られるわけじゃないから良いのかな?


「ちなみに女神よ。どこまで見せる気じゃ?」

『そうですね。では、私が現れるあたりまででどうでしょう』


 ヘリオスちゃんの答えに、ベルは一瞬だけ黙り込んだあと、「うむ」と頷いた。


「そこまでなら、問題ないわい」

『分かりました。それではいきますね』


 そんなやりとりの後、間もなくVR魔法は再開されるようだった。

 始まる直前に、俺はベルを小突いて「なぁ」と質問する。


そこ(・・)までなら良いって……。そこ以上になると、何か問題があるのか?」

「なんじゃ。そんな質問か」


 ベルは口角をニヒルに上げ、頭だけをこちらへと向け、言った。


「それより先じゃと、やや恥ずかしいから、のう?」

「そうだっけ……?」


 そもそもお前に恥ずかしいと言う概念があるのか?

 そう疑問に思うと同時、VR魔法は開始されたようだった。

 時は再び遡る。

 これは。

 俺とベルが、初めて出会ったときのこと。

 ここと同じような、緑に囲まれたところから始まった――――







 どこから説明したらいいのか分からないけれど。

 事実だけを述べるならば、状況は最悪だった。


「どういう、状況だよッ……!?」


 唐突なことではあるけれど、目の前には、熊みたいな大型の獣が息を荒げている。ソレは、現代日本では絶対に見たことの無いフォルムだった。

 獰猛な瞳はこちら側を確実に認識しており、荒げた息は、こちら側への敵意を示しているものだった。


 掻い摘みつつ経緯を思い返す。

 四十歳の誕生日を迎えた俺だったが、平日も平日ど真ん中だったので、仕事で疲れた足でそのまま帰宅して就寝。そしたらどういうわけかボロアパートが地震で崩壊したらしく、俺は死んでしまったとかで、あれよあれよという間に、流れ作業みたいにして、異世界に放り出された。


 ……いや、マジな話なんですわ。

 何それ不ッ思議~。

 なんて、思っていたのもつかの間。やたら腰の低い神と名乗るオッサンが現れて、いや俺もオッサンなんだけどちょっと世界観が違っていて、「どうか世界を救ってくれ」なんていうものだから、そんなの無理ですゴメンナサイと頭を下げたら、「まぁまぁ良いから良いから。コレでどうにか。ね」と、無理やり謎の力を説明も無しに与えられ――――、今に至る。


「…………」


 やつれていて、「それじゃあ私は仕事がありますので……」とどこか違うところに消えて行って。

 何を言われたかはもう全然覚えてないんだけど、そんなこと俺に言われてもというような理不尽を、矢継ぎ早に、これでもかと告げて去っていた。

 ともかく。

 要約すると。


「グルァァッ!!」

「四十歳になったら事故で死んで異世界に放り出されて、そしたら再び死にそうになってるんですが!? 完結ッ!」


 いや死んだろ、コレ。

 走馬灯のように思い出していた記憶の渦も、もう頭からは吹っ飛んでいる。

 崩落に巻き込まれて死んだらしい時には意識が無かったけれど、意識あるときに死を覚悟すると、こんなにも頭って真っ白になるんだな。


 ――――とか。

 アドレナリンの影響なのか。何なのか。

 そのときだけは、とてつもなく脳内が、無駄に活発に動いてて。

 目の前の状況が、とてもスローモーに、やたら鮮明に見えていた。



「――――うるさいのう」

「え……」



 そんな、声だか音だか分からないものと同時に。

 一陣の風が、目の前を駆け抜けた。


 そうして、

 ソコに残ったのは、輪切りだ。

 俺の頭はそう強く認識した。

 目の前に迫る謎の獣の身体は、綺麗に三等分。俺へと到達する前に、輪切り状に斬って落とされていた。

 切り口はとても乱雑だ。

 何が起こったのか認識できなかったが、斬ったのかもしれないし、引きちぎったのかもしれない。


「は?」


 そのときに、視界に僅かに入っていたのは、黒い影だったと思う。

 早すぎて自信はない。

 死の間際にアドレナリンがどばどば出ていたみたいだが、それでも目で追えることは無かった。


「なん……な、ん……」


 息をどうにか吸いながら、口をぱくぱくさせる。

 脳が揺れて目の前がちかちかする。それくらいに、インパクトのある女の裸(・・・)だった。


「……!」


 いやそのな。迫る影がどうとか、輪切りとか、どーだっていいんですよ!

 死にそうだったんだけど、とにかくどうやら生きてるくさい。だから脳が勝手に切り替わった!

 それよりも、今目の前で死んだよく分からん生物より、生きてる全裸の女に反応しちゃう! 生命活動ってそういうものでしょ!


「おぁ……、は……、」


 あらためて女を見やる。

 よく見ると全裸ではなく、極わずかにだが局部は隠れていた。

 と言ってもそれは衣服ではなく、前張りみたいなナニかで。なんというか……、神社とかに張ってあるお札の、やや西洋(?)版みたいなものだった。

 両手首と両足首には、それぞれ一本ずつ、途中で切れた鎖のようなものがつけられている。


「ン?」


 振り返るその女は、かなり背が高かった。

 こちらが尻もちをついているから見上げるかたちとなっているが、おそらく立ち上がったとしても、俺より身長は高い。まぁ元々俺は背が低いほうなんだけど。

 百七十後半か八十はあるか。女性としては高い部類のように思う。

 ただそれも、でかいというイメージではなく、ストレートな黒髪も相まってか縦に細長いという印象である。

 そんな細長く綺麗な身体に、巨大な乳と尻が実っている。そしてその中間部分の腰は、逆にえぐいくらいに抉れていて、さながらスーパーモデルのようだった。


 悲しいかな、こんな年齢まで童貞の俺は、女性の裸を生で見たことがない。それでも声を大にして言えるくらいに、どんな女性よりも美しい身体をしていると、そう思った。


「……ごくり」


 生唾を飲み込んだのは、エロいからではなく、あまりにも美しすぎたからだ。その衝撃がひとしきり過ぎ去った後に、遅れてエロスがやってくる。


「うぉっ……、す、すげぇ……」


 乳や尻だけではない。

 すらりと伸びた足も、しなやかな腕も。そして何より、獣のような獰猛さと、絵画のような美しさを併せ持った、気高い美貌。

 それらが内包されたスーパー美女が、俺の前に堂々と立っている。


「…………」


 そして美女は。

 大きめな口をぱかりと開き。

 言葉を発するる。


「……は」

「……は?」

「腹が減った……」


 次の瞬間スーパー美女は。

 地獄の蓋が空いたような音を、腹の底からかき鳴らしたのだった。








 変わらず森。

 ここがどこかもよく分かっていない状況の中、俺は何故の前張り美女と共に、先ほどの動物(?)の肉を焼いて食べていた。


「お前、火とか吹けるのか……」

「んぐんぐ……。うむ。空も飛べるぞ」

「何でもありかよ」

「いや、氷は吐けんわい。耐性はあるがのぅ」

「そうなのか。よく分からんけど……」


 なんにせよ。

 嫌な汗もかいたので、落ち着くためにもこうして火に当たれるのはありがたい。

 それに超強いこの女性は、どうやら俺には攻撃してこないみたいだし。

 一緒に居れば、とりあえず身の安全は保障されるのか……な?


「と、というか……、目の毒だから、そんな大股開かないでくれ……」

「毒かぁ……。毒も吐けんと思うがのう」

「そうじゃねぇよ! 言葉のあやだよ! え、えーとだな……。お前みたいな美女の全裸を見てると、気持ちが乱れるというか、間違いを犯しそうというか……。とにかく、何か服を着てくれよ!」

「ようわからんが、この身体がそんなに醜いか」

「醜いんじゃなくて綺麗なの! つーかエロいの! 逆だよ逆」


 仮にこいつが俺に対して味方をしてくれていると仮定して。性欲に負けてそれを襲ったとなったら関係が台無しである。


「ますますよう分からんのう。……が、まぁ、ニンゲンとはそういうものかもしれんな」

「は?」

「しかしワシは服を着る習慣が無いもんでのう。煩わしいのはごめんじゃ」

「習慣が無いって……」


 え、何? この世界の住人って、服を着る概念を持ってないの? いやでも、『服』っていう単語(もの)は知ってるっぽいから、それは無いか……。そういえば転移するときも、通りすがりのオッサンみたいな姿をした例の神様が、俺の服をこっちの世界でも通じるようなものに代えてくれてたし。衣服を纏った俺に対しても、変な視線を向けてはいないみたいだしな……。

 しかしそれじゃあまるで……、こっち側(おれ)は衣服を着ているのが当たり前で、そっち側(おんなのひと)は衣服を着ていないのが当たり前……みたいな感じじゃないか?

 というか、重要なのはそこではなくて。


「いやその……、とりあえず全裸みたいな状態じゃなくなれば良いんだ。その……、それじゃあ俺の上着を――――」


 考えはまとまらない。が、とりあえず肌の露出を防ぐことが優先なので、俺は自分の上着を脱いで渡そうとした。

 そのとき。



「そこのお方~~~~~ッッッ! 早くその者に、服を着させなさい~~~~~~ッッッ!」



 素っ頓狂な、突然なりだした目覚まし時計のような声が、背後から聞こえてきた。

 びくりとして振り返るも、姿は見えない。どうやら相当遠くから声を投げているようだ。


「い、いや……、だから今着せようとしてるんだが……」

「クァハハハ。なんじゃ、もう追い付きおったか」

「は?」

「まぁ簡単に言うとのう。追われとったんじゃよな、ワシ」

「は、はぁ……」


 アレか? わいせつ物陳列罪的な何かか?

 森の中とは言え、全裸に近い格好で走り回って(?)いたとあっちゃあ、そりゃあな……。


「クハ。ぬしが思うようなコトよりも、万倍はコトが大きいわい」

「え!? もっとエロいこと!?」

「エロいことから離れろ」


 俺たちがそんなやりとりをしているうちに、声の主は近づいてくる。

 そして――――






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