8.ヒナといく街並み
アリスたちと合流する、二時間ほど前。
午前八時。普段よりちょっとだけ遅めに起床を果たした俺は、坂道を降りて朝食をとることにした。
どうやらこの街は、朝から夜まで何かの営みが行われているらしく、朝も早いのにすでに食事処はオープンしていた。
「騒がしすぎるのは苦手だけど、こういうときは助かるなぁ。さてと……」
今日はどこの店で食べようかと悩んでいたところ、背後から元気な声が聞こえてきた。
「やっほ~コーにゃん。昨日ぶり~」
「えっ……、あ、」
「やほやほ」
軽快なリズムで小さくダブルピースを作っていたのは、昨日会った少女、ヒナだった。
肩出しの上着にショートパンツというラフ(?)なスタイルなので、肌面積は昨日よりも多めになっていた。
まぶしい脚線美からなんとか目を切り、彼女の顔を見て質問を投げる。
「コーにゃんとは」
「コーくんがいい? コーぴ? いやピとか、はっずいわ」
あははと笑う、朝から元気なギャル。
……なんか、言葉遣いが。
「昨日とちょっと、違う……?」
「そ、そ~? 昨日からこんなもんだったし。疑われるとかガン萎えなんだけど~」
「あぁいや。別に疑ってるわけじゃないんだけどさ」
どことなく言葉遣いがアップデートされているような気がした。
まぁ俺もこの世界でのギャル語を知らないし、そもそも現代においても詳しくなかったから、微妙な差異なんだけどな。
それに服装はずっと、(おそらく)最新のままだ。
カタチが違うとはいえ、ギャルファッション。この世界を背景にしていても、違和感が無かったし。今度ヘリオスちゃんに、どういう成り立ちなのか聞いてみよう(聞いても分からんかもしれないが)。
「それでヒナ。今日はどうしたんだ?」
「んにゃ別に。ご飯食べよっかな~と思ったら金尽きててヤバたんで。
この近くに冒険者ギルドあるらしいから、覗いてこ~と思って」
「そうなのか……」
「働かざる者~ってヤツ? コーにゃんは?」
「コーにゃん……」
「あはは☆ いちいち反応すんなし」
気になるわ。そもそもあだ名付けられたこともほとんど無いんだぞ。友達居なかったから。
反応してしまうのは、どちらかと言えばその部分である。
まあ置いておいて。
「クエスト受けるにしても、腹は膨れとかないと満足に動けないだろ。せっかくだから一緒に食ってくか?」
「マジ!? おごってくれんの!?」
「俺はそこまで金に困ってないからな。気が引けるようなら、その報酬で返してくれればいいし」
「返す返す~。即返するって~。マジかよ~悪魔かよ~」
「悪魔って」
そこは「神かよ~」とかじゃ無いのか? 別にいいけど。
あと、昨日も思ったが距離が近い。
形のいい胸の谷間がゆるやかに見えている。
「そ、それじゃ、適当な店入るか」
「だね~。昨日はコーにゃんが選んだから、今日はアタシが選ぼっかな☆」
「おー。楽しみなぁ」
軽快に歩く彼女の後をついて行きながらも、一応街並みを見て回る。
……なるほど。この街、単純にめちゃくちゃ『でかいだけ』だ。
観光名所があるとか、珍しい文化が発展しているとか、特にない。しいて言うなら、このでかさが特色というか。
ただただ広くて、人口が多くて、住み良いだけの街。
商業施設が発達し、それが国中に広がっている。特色をあえて挙げるならそれか。
つくりとしてはとても単純で、それが昼夜問わず機能している。現代日本の都心に近い感じかな。
つまり。
「良い街だな……」
「だよね~。めっちゃすこなんだが!」
「はは、そうだな」
老若男女問わず、平和に道を歩いている。
だからこそ。
本当にこの場所に、何かの脅威が迫っているのだとしたら。
確実に守り切らないとと、そう思った。
「うまっ! 肉と麺の組み合わせ良~~っ!」
「おぉ、脂身がほどよく絡み合って、面と一緒に口の中に……」
ヒナが選んだのは意外や意外。俺でもなかなか選ばない、油たっぷりの肉料理店だった。
その中でも一番脂身の多い面料理を注文した彼女は、その細い身体のどこに入って行くのかと思うくらい、見事な食べっぷりを見せていた。
「くひぇ~~!! 食った食った~! 食い散らかしたわ~!」
「俺も……、これで完食……と」
ごちそうさまと手を合わせると、ヒナがこちらじっとを見ていたのに気がついた。
「ん? どうしたヒナ?」
「いや、めっちゃ丁寧に食べんな~って思って」
「そうか? 普通に食い始めて、食い終わっただけだけど」
「そ? でも、美味しそうに食べる人めっちゃしゅき☆」
「お、おう。そうか……」
真正面から好意を伝えられると、告白じゃなくてもドキッとするな。
「ってかコーにゃんさ~」
「ん?」
「まわりからの珍し気な視線、受け慣れてね?」
「あぁ……」
汗で少し乱れてしまったアイシャドウを塗り直しながら、彼女は言う。
店内には結構な客が居て。
まぁこういう『ザ・漢の飯!』って店なので、全員が男性であった。
そこへ脂ぎったオッサン――――を引き連れた、若いギャルが入ってきたのである(そして豪快に飯を完食しきったのである)。そりゃあ、奇異の視線も浴びる。
「まぁその……、とある誰かさんのせいでさ」
「?」
何せどこへ行くにも、バニーガールを引き連れているのだ。
その相手がギャルに変わっただけ、視線はまだマシになったとも言える。――――という内訳までは、流石に言わないけど。
「色々あるんだよ、オッサンにもな」
「ふ~ん。ワロけんね~」
けらけらと明るく笑う、油を完食したギャル。
心なしか昨日よりも、更に若いノリになっているような、そんな気がした。
「そういえばヒナ。食器の扱い、めちゃくちゃうまくなったな?」
「へぇッ!? あ、あ~! ショッキね~!! マジもうドチャクソ練習した~……みたいな?」
「ふうん……?」
それにしては一日でこれか。すごいな。
食べる量は俺よりも多かったのに、早さは彼女の方が上だった。それが少し気にかかったのだが、まぁそんな気にすることでも無いか。
「んじゃ、そろそろ会計するか」
「おけ~。ゴチです! お金入ったら返すから!」
「おう。まぁすぐじゃなくても良いから」
「りょ!」
元気のいい返事と共に立ち上がり、そういえばと思い提案をした。
「あ、そうだヒナ。この後冒険者ギルド行くんだろ?」
「そだよ? 何~?」
「俺もついて行っていいか? どういう種類の依頼があるのか、ちょっと見ておきたくて」
「え、コーにゃんも一緒イく!? 外●しキめちゃう!?」
「その言葉遣いは間違っていますよヒナちゃん!!!!!!!」
店内が静まり返る。というか、静まり返らざるを得なかった。
ちょっと強面でブレそうにないオッサン店長も、驚きのあまりおたまをごとりと取り落としたくらいだ。
「あ~、この言葉は間違ってンのね~。おけまる」
「こっちは全然おけまるじゃねえよ……」
そんな感じで気持ちを落ち着かせて。俺たちは店を後にしたのだった。
しかしあれだな。
ヒナはベルとは、また違った意味で危険人物だなあ。
「――――ということがあってなぁ」
時系列は再び、アリスとベルのコンビに再会したところに戻る。
二人に事情を説明し、あの後冒険者ギルドを覗いてみたら、異常魔力が検知されたクエストを発見したのだった。
「なるほど……」
「そしてどうやらヒナはさ。この街に来た初日に、Aランククエストをクリアしてたみたいなんだよな」
「だよ~☆ すげーっしょアタシ」
「人は見かけによらないな……」
ギルドの受付の人に聞いてびっくりした。
そもそもこの周辺には、良くてBランクくらいまでの案件しか立たないらしいのだが、稀にAランクが起こるらしい。
そこへ飛び込みで請け負ったのが、冒険者にすらも登録していなかったヒナだったのだという。
このあたりの規定では、意思さえあれば特に受けられるランクに制限が無いらしく。着の身着のままで依頼に赴き――――行き帰り含めて僅か六時間で依頼を達成したのだとか。
「移動めっちゃダルかった~。でも、倒せばいいだけだったからラクショ~だったよね~」
いえいとピースサインを作るギャル。
それを聞いたアリスは、少し俺と二人で話したいと、腕を引いた。
「え、ちょっと。アリス?」
「ベルと誰かを二人にするのは少し怖いが……、仕方ないだろう」
彼女は路地裏へと入り、簡易魔法で周囲への音の出入りを断絶した。
「これで彼女には声は聞こえないな」
「どうしたんだよアリス。確かに俺もヒナの実力には驚いたけど、別に変な奴では……」
「彼女のことを、出来るだけ詳細に話してくれ、コースケ」
「えっ……」
アリスは真剣なまなざしで、俺へと視線を送る。
「私の予想が正しければ、彼女は――――」




