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5.謎いギャル



 時間は遡って夕暮れ時。

 アリスたちと別れた後、俺は西区エリアへと足を伸ばし、見晴らしのいい場所に建つ宿の部屋を取った。

 鍵を開け、荷物を一旦下ろし、そしてもう一度鍵を閉めて外に出る。

 とりあえず明日の朝まではそれぞれ自由に過ごそうという話だったので、今日の夜飯~朝飯は、一人で食うことになりそうだ。


「こっちの世界に来てから、マジで一人の活動だな……。なんか新鮮……」


 いい具合に減ってきた腹具合と共に、俺は坂道を降りる。

 坂を下ればすぐそこは活気にあふれた商店街だ。

 露店もあれば酒場やバーもある。飯処には困らないだろう。


「前の世界と違って、金だけはあるからな……。そこに気を遣わなくていいのはめっちゃ楽だ」


 驚くことに三十億円あまり。

 小さな村くらいなら一括で買えてしまう資金を、俺は所持している。

 勿論これは俺への報酬というわけではなく、天界から与えられている勇者活動の費用なのだが。

 ベルが万が一村とかを焼き払ってしまった場合(考えたくないが)、その補填などで支払うためのものだ。そう考えると、三十億でも足りなく思えてくるから不思議だ。


「けどまぁ、少しくらいなら使っても大丈夫だしな」


 正直補填が頭をよぎるので、金額に対して財布のひもがゆるむことは無い。

 というかそもそも今現在。物理的には三十億は所持していないので、ゆるむこと自体が無いのだけれど。

 俺の所持金はせいぜい二万だ。

 それでも、飯を食って帰るだけなら持ちすぎだなとも思う。


「人もにぎわってるなぁ……。店も混みあってるみたいだから、早いところ探さないと」


 街並みとしては、この間まで居たレーヴァの街と大して変わらない。けれど、この街はとにかく大きく、それ以上に人口が多い。

 だからなのか、露店で食べてる人もけっこういる。


「レーヴァの街では祭りがあってたけど……。どうやらこの街は、これで平常運転みたいだな」


 田舎の大賑わいが都心の普通……みたいな。

 何にせよ。人口だけで見ても、相当でかい街なんだということが分かる。


「……そんなでかい街にヤバイことが起ころうとしてるって、控えめに言って、えー、――――結構ヤバイのでは」


 語彙力を喪失するの巻。

 人は不明瞭すぎることが頭をよぎると、難しいことどころか言葉すらも考えられなくなるのだと、今知った。

 これまでは、敵の陣地に乗り込んで行って、ターゲットを討伐する・オア・無力化するという戦闘方法だったのだが。

 今回は漠然と、『この街に脅威が迫っている』という案件だ。

 先の見通しが出来ないというか、日程の予定が立てづらいというか。ヤバイというか。


「でもヘリオスちゃんが感知出来たってことは、おそらく魔力源のようなものは発生されているはずか……」


 となると、いずれソレは顕現する。

 この街から遠くなのか、それとも内部になのかは分からないが。


「………………だめだ」


 難しいことを考えるのは専門外だ。

 明日アリスと話し合えば、十分くらいでこの疑問には決着がつくだろう。

 空腹が本格的に思考の妨げになり始めたし、そろそろちゃんと飯処を決めないと……。


「おっとっと~」


 そんな風によそ事を考えていると、人ごみの中で一人の女性とぶつかってしまった。


「あぁ、こちらこそ。申し訳ない」

「えへへ☆ それじゃ、ごめんねおにいさん~。……おっと」

「……」


 ユルい調子で頭をかき、彼女は再び歩き出していった。

 派手な格好をしていて――――俺よりも少し小さめな身長だ。祭りのように賑わっているこの中では、見える視界も狭いのだろう。足取りが定まっていない。


「……というか、なんかめっちゃふらふらしてないか?」


 ついぞ心配になって目で追ってしまう。

 千鳥足……というわけでもなさそうなのだが。どうにも足元がおぼつかない。

 あまり真っすぐも歩けてなさそうだが……、酔っぱらっている風では無いのか。


「……お、まともになった。と思ったら、またふらつき始めたな」


 道行く人々にギリギリ当たらないくらいのふらふら具合で、彼女は道を歩いていく。

 派手というか、ラフというか。その装いはなんかこう……、『ギャル』って感じの服装だった。


「ん……? 足元、か?」


 よく見ると、彼女の履いているかかとの高いブーツが、両方ともぐらついている。

 アレが原因で、真っすぐ歩けていないんじゃないのか? でも、理由に気づかないなんてあり得るのか?


「おっと……っと……!」

「あぁもう、見てられん……!」


 基本的に俺は、よく分からない他人には近寄らない性格ではあるものの。あからさまに困っている人を放っておけるほど度胸があるわけでもない。


「キミ、大丈夫か? ほら、手か肩に掴まれ」

「お? さっきのお兄さんジャン~。んじゃ、甘えるね~……よっと」


 後ろから声をかけると、彼女は軽い調子で返事をし、俺の肩に手を置いた。

 ――――なんだこの()の身体? 軽すぎないか?

 それとも女の子ってこれが普通なのか? ベルとかアリスが鍛えられているだけなのだろうか?


「ん? おにいさん邪なこと考えてる~?」

「い、いやいや! そんなことは決して!」

「ホント~? 別に大丈夫なんだけどね~」

「いやカンベンしてください……」


 間違ってもいやらしいことをしようとは思っていない。というか、仮にも作戦行動中に、そんなことできる度胸も余裕も無いのです。


「腰元に手が伸びないってことは、スリではなさそうだな。安心したよ」

「スリってなに? 強い~?」

「スリっていうのは……、って、知らないのか?」

「あはは。よくわかんね~……的な?」

「…………?」


 会話が噛み合っているのかいないのか。

 独特な明るいリズムで話す彼女は、どこか現代日本のときにたまに見ていた、いつでもある一定のテンションの高さを保つギャルのように見えた。

 目深にかぶった黒のキャスケット帽子に、つばから覗く大きく垂れたぱっちりした目。

 背中あたりまで伸びた茶髪は、毛先にゆるいウェーブがかかっていて。ちょっと横幅のある耳の先には、綺麗めのピアスがつけられていた。


「あれ? よくみると、」

「ん? よくみると~?」

「い、いや……、なんでも……」


 遠目からだと分からなかったが。

 ――――よくみると、けっこう過激な服装だった。

 大きな理由としては、彼女が羽織っているパーカーのようなローブである。これが近くで見ると、白のシースルーであることが分かる。

 その下に着ている黒のレースアップビスチェは、胸まわりだけを包んでいる。つまり健康的な腹部がばっちりと見える服装だったのだ。

 下半身もホットパンツだし。夜だというのにまぶしい太腿は、半分以上露出されていた。


「でもバニーよりかは……」

「バニー?」

「……ナンデモナイです」


 今日は失言が多い。一人になって会話のリズムが違うからだろうか。

 これでは事案を起こしていないのに連行されそうである。


「とりあえずどこかに座ろうか。……お」


 ふと視線を先にやると、おあつらえ向きに露店のテーブル席が一つ空いたところだった。

 そこまでどうにか進み、俺と彼女は互いに腰を下ろす。

 一息ついた後、運ばれてきた水を飲みながら会話を交わした。


「大丈夫だったか?」

「アハハ。めっちゃ助かったよね~。ありがとおに~さん☆」

「お兄さんって年でも無いけどな。どっちかと言えばオッサンだ」


 四十歳で、それなりの年齢に見える外見だ。

 ほうれい線だってあるし、でこのしわもやや増えてきた。

 青年というよりは中年世代だろう。


「ふ~ん? よくわかんないね、アハハ~」

「よくわかんないって……、そうか? まぁ別にイイけど」


 なんとも不思議な感性を持つギャルだ。

 普通この年代の子は、三十歳過ぎたくらいの青年でも、オッサン扱いしてきそうなものなのに(偏見でものを言っています)。


「いや~。ワケあって旅してる系なんだけどさ~。

 色々分からんコト多くて参ってんだよネ。ウケるよネ~」

「ウケるのか……」

「そそ。チョーヤバなの」

「…………」


 なんだろう。なんか……。

 いや、俺もそこまでギャルの言葉については詳しくないから、何とも言えないんだけど……。

 ………………なんか、使ってくる言葉が、古くない(・・・・)

 旅『してる系』って使い方も、若干間違ってる気もするし。


「……」

「ん~? 何風味~?」

「……いや」


 ノリはギャルだし、勿論若いんだけど。語群というか、チョイスしてる単語というか。そこにとてつもない違和感が付随する。

 たぶんだけど。オッサン(おれ)が理解できてる時点で、ギャル語としては古いんじゃないか? ほら、世代が違うと『どっからその言葉作られた!?』みたいな言葉、めっちゃ多いし。

 まぁ、こっちの世界のギャル文化がどうなっているのかが分からない以上、確定ではないんだけどさ。


「おに~さん? ダイジョブ? ヤバみ?」

「いや、大丈夫大丈夫。ノットヤバみ」


 一旦ノリを落ち着かせて、気になっていることを聞くことにした。


「えっと……。足、大丈夫なのか? だいぶふらついてたけど」

「あ~うん。平気平気~。

 ちょっと慣れなくてネ」

「そうなのか?」


 (くつ)自体に故障は見られなかった。つまり純粋に、かかとの高い靴は履きなれないということだろう。


「そう言えば、俺も経験あるなあ」

「へぇ?」


 勿論彼女やベルみたいに、かかとの高い靴やヒールというわけでは無く。一般的な登山靴を思い浮かべてくれればいい。俺にとってはこれも、履きなれない靴だったのだ。

 勇者活動をする際の旅の格好。それは、この世界に居るいわゆる『冒険者』と呼ばれる職業の人らと同じようなもので。

 その人らは、軍人の頃のアリスのように鎧だったり、登山者みたいな冒険しやすい格好をしてたりするのだが……、いかんせん一般の世界から来た俺だ。そんな格好などしたことが無い。

 基本的にはスニーカーとか、履きやすい靴を多用していた。

 そのため、今履いている冒険者用のブーツですらも、時折違和感を覚えることがあるのだ。


「わかるなあ」


 彼女の言葉にうんうんと、軽く頷くと――――なんだか思った以上に、テンションを上げてこちらに詰め寄ってきた。


「ホント!? 分かってくれる!?」

「うぉっ……!? ち、近い近い……!」


 対面の席から身を乗り出し、目を輝かせながらずいっと顔をこちらへと寄せてくるギャルさん。キャスケット帽子から垂れた茶色の前髪と、耳元のピアスが元気に揺れた。

 何が琴線に触れたのかは分からないが、若い子のまぶしい笑顔は、オッサンの目には毒である。


「良かった良かった♪ 分かってもらえた~♪」

「お、おう……。なんか知らんがよかったな?」

「分かってもらいたかったんだよね~アタシ」

「そんなに……?」


 言って、ウェーブの茶髪を手櫛で整える彼女。

 ううむ、謎多きギャルである。


「…………」


 予想ではあるが。

 この世界にもギャルが居たとして――――、きっとこういう不可思議な思考回路をしている子は、流石に稀だろうと思われる。

 ノリや言葉は百歩譲ってギャルだとしても、思考回路が確実に普通ではない。そんな気がする。


「あはは☆ おに~さん楽しいよね~」

「まぁ……、不快に思われるよりはマシかな?」


 何にせよ楽しんでくれているなら良かった。

 この笑顔だけで、手を差し伸べた甲斐があるというものだ。


「そういえば、自己紹介まだだったな。

 俺はコースケ。仲間たちと旅をしてるんだ」

「はーいよろしく~☆」

「おう。よろしくな」

「うん!」

「……」

「ん? なに~?」

「いや……、その」


 普通俺が名乗ったら、そっちも名乗るよな……?

 いや名前を言いたくないヤツも居るってのは理解してるよ? 前も旅先で会った兵士が、訳アリで名前は名乗れないって言ってたこともあったし。

 誰しもそういうことを抱えていたりもするだろう。けど……、この子はなんというか……、そういうコトをそもそも知らないような空気だ。


「えっと……、そっちの名前は何て言うんだ?」

「え? あ、そっか!」


 俺の質問に、彼女はまるで今思い出したと言わんばかりに驚いて、慌てて名乗った。


「アタシはヒナ! えっと、旅してて……。えーっと……、旅をしててね~……。とりあえずよろしくね!」

「……………………おう、よろしく」

「えへへ~。つい名乗るの忘れちゃうよね~」


 言って彼女は手を前に差し出した。それを俺も軽く握る。

 柔らかな握り返しと共に、照れつつ頭をかくヒナと名乗るギャル。

 たぶん……、かなり変わってるけど、悪いヤツではないっぽいな?

 やや困惑が勝ったが、お互いの自己紹介は終わった。丁度タイミングよく食事が運ばれてきたので、俺たちはそれを楽しむことにする。


「はむ……。むぐむぐ。おぉ、この街ではけっこう味付け濃くしてくれるのか。あがたい」

「アチチ……。

 へ~? なんか味違うんだ?」

「おぉ。けっこう味付けには、地域差出るんだよ。

 ここよりもっと北の地域だと、また違った味付けになるらしいぞ」

「へー! 味付けオモシロ~! ウケんね~♪」


 やはりどこか違和感のあるギャル語を繰りながらも、ヒナは美味しそうに肉と野菜を頬張って行く。

 フォークとナイフの使い方がめちゃくちゃだったが、そこはご愛敬だろう。そう思っていると、目の前から感嘆の声が上がる。


「コースケすご! 綺麗に斬るジャン!」

「え、いやこれくらい普通だろ」


 まぁそっちの残骸(めちゃくちゃ)に比べれば綺麗だろうけど。


「すっげ♡ おっ♡ やっべ♡」

「どうして語尾に『♡』をつける!?」

「いやアガっちゃって」

「そのテンションのアゲ方は間違っている気がする……」


 言いながらも俺は、すいすいと(一般的なレベルで)肉を切り分けていく。しかしヒナはそれを、まるで職人が目の前で芸術品を作り上げるのを見たかのように、テンション爆アゲで眺めてきた。


「すっげ! わざわざ(・・・・)道具使って、めっちゃ綺麗に斬るジャン! マジヤバだね!」

「え、わざわざって――――」

「マジスゲーし! コースケ天才! 粉溢れそう☆」

「こ、粉……?」


 よく分からんがそれもギャル語か? いやでも、ヒナは最新のギャル語は知らないっぽいし……あぁもうこんがらがってきた。

 その後も普通の食事をしていただけなのにも関わらず、一々大きく、そして明るいリアクションを見せるヒナだった。

 そして。



「え~、コースケってば超おもしろいジャン♪ とりま、アタシの部屋で話してく~?」



 いやあの。

 何? モテ期でも到来してんのか、俺は?







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