3.勇者一行
「――――というわけで、ワープしてきたわけですが」
「あぁ。便利だな」
ここは南の方にある大陸。その西側にある地域だ。
問題が起こると指令を受けたハバールの街。その近くの草原へと、俺たちは滞在していた街から、まるでバラエティ番組の編集のように、一気にワープした。
「相変わらず、楽になりおったわい」
「これまでの徒歩移動の苦労が、悔やまれるな~」
今日も長い髪をなびかせるベルに、俺も答える。
これまでの自分たちには無かった選択肢だ。そんなアイディアを与えてくれたアリスに対し、ベルは感謝の意を示しつつセクハラをした。
「相変わらず良い尻じゃのうアリスは」
「それは同意するけど、今尻は見えてないだろ? 軽鎧姿なんだから」
「いやワシほどになると見える。魔竜パワーで透視出来る」
「マジか」
「少しだけムチっとしてきておる」
「マジか」
「聞こえているからね、きみたち」
セクハラをしたのは俺もでしたね。
さておき。
アリス・アルシアン。
二週間ほど前、レーヴァの街で起こった事件を解決したとき。我ら勇者パーティに加入した女騎士だ。
今日もブロンドの髪ときりっとした目つきが勇ましい。
ヘリオスちゃんとの共謀により、勇者パーティの生活環境をかなり楽にしてくれた、うちのブレーンである。
「共謀とは人聞きの悪い」
「他に何て言っていいか分からなくてなぁ」
アリスは剣の腕前も相当なものながら、何よりも頼りになるのは機転の利かせ方だ。
どうやってヘリオスちゃんと共謀したのかは第一章参照だが、彼女らのお陰で、俺たちはまず空間転移による移動手段を手に入れた。
「これまでは、とにかく徒歩で移動してたからなあ」
「それはそれで面白かったがのう」
「お前の移動スピードについて行くので大変だったよ……」
「魔力ブーストにも限界があるからの~。ポンコツじゃ」
「分かってるなら加減してくれよ……」
異世界転移するさい、俺の身体にも一応微弱な魔力は流れている。ベルと契約しているお陰だ。
ある程度ならベルの速度についていくのも可能だ。……が、
「持続力が……ネ」
「情けないフニャ●●じゃのう」
「それを言い出したらもう戦争だろうよ!」
……ともかく。
これまでの行っていた、一ヵ月弱の勇者活動は。実のところ移動が大半を占めていたのである。
「それが今では休憩も取れるようになって……。ありがたいことだ」
「早く根城も手に入れたいのう!」
「いや……、お前がむちゃくちゃしそうだから、そっちの件はお預けになったんだろ!?」
先ほどの、『アリスとヘリオスちゃん』の共謀の件で。
本来ならば、移動手段の簡易化の他に、特定の拠点も持てる――――はずだった。のだが。
『ところでベルアイン。質問です』
『なんじゃ?』
『あなた一所にずっといたとして……、そこでつまらなくなったとするじゃないですか』
『うむ』
『もの壊さずに過ごせます?』
『無理じゃろうな』
と、まぁそんなわけで。
アリスの交渉もむなしく、そちらは保留となってしまったのだ。
「さすがのヘリオスちゃんも、あぁも正面から宣言されたら、許可は出せないよなぁ」
「クァハハハ! そうじゃったわい」
「まったく……」
さて。
先ほどから俺の隣で豪快に笑う彼女。
鋭い目つきを妖艶に歪ませ、長く黒い髪をばさりとなびかせるハイレグのエグいバニーは。何を隠そう、この世を一度は混沌に堕としいれたとされる魔竜なのである。
まぁ。今は人型で、露出度の高いバニーガールの格好をしている、俺の相棒の勇者なんだけど。
「暴れられんのはつまらんからのう」
「お前はもうちょっと勇者みたいに振る舞えよ」
先述した『俺の相棒の勇者』という単語を、今すぐに撤回したくなる発言だった。
あまりにも戦闘狂すぎるし、そもそもニンゲンとは価値観が違うので、度々そのギャップに参ってしまう。
誰だよ美女にギャップがあれば可愛いとか言い始めたヤツ。ただただ危険な生物の誕生だよ。
「クァハ。それもまた一興よな」
ぽんぽんと、俺の頭を軽く撫でるベル。
俺の身長が百六十一センチ。ベルの身長が百七十八センチ。
彼女の巨大なおっぱいの位置に、俺の頭と目線がある。
確かにその幸せ要素は良いのだが……、こうして頻繁に頭をぽんぽんと撫でられるという『恐怖』も、また付きまとうのである。
……いや、ベルは巨岩とかも平気で握りつぶせるヤツだからね? 力加減をちょっと間違えただけで、俺の頭は形を変える。もしくははじけ飛ぶから。
それがしやすい位置にあるというのは、かなり危険な身長差であるということを、ここに記しておきます。
「何をしているんだ二人とも? 先に進むぞ」
「おー。すまんなアリス。今行くよ」
先を行くアリスに、俺たちは続いた。
しっかりした足取りと声で道案内をするのは、先ほども少し紹介した新メンバー、アリス・アルシアンだ。
涼やかな目つきの青い瞳。仲間になるさい少しだけ短く整えたブロンドの髪が、風に揺れて僅かに光る。
前はギリギリ首元まで伸びていたが、今は耳下あたりで切り揃えられ、よりしっかり者の印象を強めていた。
「ムッツリじゃがの」
「おいベル、聞こえるぞ」
「聞こえているが」
そりゃそうだ。この距離だし。
はぁとため息をつきつつ、彼女は「こちらだ」と案内を続けた。
アリスは元々レーヴァの街で軍の騎士として勤めていたが、真の強さと正しさを求めて、そこを辞めて俺たちについてきた。
正式に言えば彼女には『勇者』としての権限も恩恵も無いのだが……、俺を通したうえで、女神であるヘリオスちゃんともコンタクトを取れている。
……というか、本来ならば俺がやった方がいい交渉も含めて、彼女が担ってくれているんですねこれが。
「ただ、どうしても深い事情までは知れていないがね」
「そうじゃのう」
「というよりも。人間である私が、知ってはいけないというルールになっているんだろうね。
コースケもベルも、ときどき言葉を発せなくなるタイミングがあるし」
「すげえなお前」
「さすがじゃわい」
俺が異世界転移してきたという事実は、彼女には伝えられないようになっている。
ヘリオスちゃん曰く、どうしてもそこだけは、地上の人間には教えられないところらしい。俺も言おうとすると、口にロックがかかったように、ぱくぱくと言葉を発せなくなる。
それくらい厳重なことなのだろう、この世界以外にも世界があるという事実は。
「長年真面目に生きてきたゆえ、ルールを理解するのは得意だからね」
立派な胸を張るアリス。
俺やベルでは分からなかった部分なども、この世界に生きる人間ならではの着眼点で、答えを導き出してくれる。
頼もしい、うちのブレーンだ。
「さて、少しだけ歩くみたいだな。まずは西側の馬車道に出てしまおう」
「おう」
「そういえばコースケ。どうだその服の着心地は?」
「あぁうん。かなりいいよ」
ついでに、今の俺の衣服の話。
エスニック調というのだろうか。
この間アリスから見繕ってもらった、太った男性でも似合うような服装である。
前の世界のアラビアとかの、商人のような服装だ。麻で出来ていて通気性も良い。
「今まで着てた服よりも、サマになってる気がする」
「なに、どんなかっこうをしていても堂々としていればいいんじゃ」
「お前は堂々とし過ぎだけどな……」
バニーガールのかっこうで往来を歩き、どんな視線を送られても気にしないし。
「だけど確かに。アリスもベルも、基本的には堂々としてるよな」
「ん? 服の話か?」
「いや、服もなんだけど。立ち姿の話」
なんかこう、しゃきっとしている印象だ。
アリスの身長は百六十八センチ。俺が約百六十センチ。
本来なら十センチも離れていないはずなんだけど、それ以上に身長差があるように思える。
「あと、スマートにも感じるんだよな。それって、堂々とした姿勢だからなのかなって、ふと思ってね」
「そうか」
「姿勢もそうじゃが、アリスはそれを維持するための筋肉もついとるからのう。
ぬしが同じことをしたとて、一分も持たんじゃろ」
「なるほど。流石は騎士だな。鍛えられてる」
「褒められるのは嬉しいな。ありがとう」
彼女はベルと違い、露出は少ない(むしろこれが普通なのだが)。
動きやすそうなライトアーマーに、やや薄手のマントを羽織っている。しかしその下には、均整の取れた肢体が眠っているということを、俺は思いだした。
「確かに、背中も綺麗だったし――――あ」
「キミ……。何を思い出している……!」
「い、いや……! スマン……!」
ドスを利かせる元軍人のアリスさん。
やめて、人は殺気で死ぬ。……今のは俺の失言も悪かったけど。
「ま、まぁ……。身体を褒められるのは……、その……、嬉しくて、変な気分になるからやめておいてくれ……」
口元をすぼめつつ、ややしおらしく彼女は言った。
ベルはそれを見てじゅるりと舌なめずりをしている。
アリスさん。ベルの性的な部分を、あんまり刺激しないでね。コイツ美女には見境ないから。
「クァハハハ。あまり闘気を上げすぎると、『肌が見えて』しまうしのう」
「ぐ……! 誰のせいだと……」
「まぁまぁ」
どうして俺が彼女の背中(とか、それ以外の肌)の状況を知っているのかというと。
――――先日の事件のさい。
彼女もベルのように、バニーガール衣装に身を包み、戦ったのである。
詳しいことはさておき今の彼女は。『魔力や戦闘による気迫』などが昂ると、ベルが仕込んだ紋章と俺の『装備付与魔法』が合わさって発動し、バニーガール姿となるのである。
これだけ記すと新手の痴女みたいだが、しかして、そのバニーガール姿こそが、勇者の姿なのだ。
俺の能力『仮装着』は、対象に勇者の力を与える魔法である。
だからこそ、この世を混沌に堕としいれた魔竜は、勇者たりえるし。
バニーガールに変身したアリスは、微弱ながらも、勇者の力の一端を使用することが出来るのだ。
「まぁこれについては、後で確認したいことがあるんだけどな」
「確かにそうだな」
「――――フム。今やるか?」
「いや、今はいいよ」
二人の言葉に俺は首を横に振る。
モンスターも見当たらないし、見てる限りだと問題はなさそうだし。
とにかく。
これから先、敵はどんどん強くなっていくかもしれない。
そんな状況に置いて、勇者としての戦力が増えるのは、正直とてもありがたい。
……まぁありがたいとはいえ、そんな体質にしてしまったのは、正直すまんかったとも思うけど。
心の中で謝りつつも、俺は話題を姿勢の方へと戻した。
「そ……それでアリス。どうやったらイイ姿勢に見せることが出来るんだ?」
「む……、そ、そうだな」
微妙な空気を漂わせていたアリスだが、歩みを再開しつつ、説明をしてくれた。
「男女の体つきで多少違うかもしれないが……、まずは背中だな」
「へぇ」
アリスは首から肩口あたりを軽く動かし、こちらに振り返る。
「頭から足の先までが、糸で吊り下げられたようなイメージを持つと良い。
それで肩幅くらいに足を開いて、真っすぐに立つ」
「ほうほう」
説明しながら姿勢を正す彼女と、同じようなポーズをとってみる。
なんだか全身に錘がついたみたいだ。
重装備を纏ったかのように、関節が辛い。
「こ、こうか?」
「ちょっと不格好だが、理屈としてはそうだね。
次に肩口。腰、の上に胸が乗っかり、そこに平行となるように、肩を乗せるイメージで――――」
「えーっと……」
その後も合わせてやってみるも、どうにもうまくいかない。
立つだけなら簡単だったが、そこから先は、意識づけの問題でもあるみたいだ。
「違うぞコースケ。……あぁもう、ココだココ」
「こう……って、おわっ、アリス!」
「脇腹にもっと力を入れるんだ。腹にも少し力を逃がして、背中を……、背中……、にく……」
「アリス……、あの……、近いんです、け……ど」
居ても立っても居られなくなったアリスは、俺の身体を直に触り、補正をしてくれる。けれど、とても距離が近い。耳元に息は当たるは、背中や胸は弄られるわ、髪から良い匂いがするわで、正直興奮する。
「正直興奮するかえ?」
「はい」
ベルに言い当てられてしまい、そして「そうじゃろうのう」と謎の納得をされてしまったがさておき。
「ひひゃ……、おにく……、触って、しまった……」
「アリスさーん……?」
「ぷよぷよ……。きもちいい……。やわらかい……」
「うん。アリスはアリスで、世界に入ってしまいましたね……」
先日発覚したことなのですが。
どうやらアリスは、太った体形フェチ――――つまり、俺の身体みたいなのが好みみたいなのです。
「うーん……」
天変地異が起こって。もし仮に何かの間違いで、俺がモテることがあったとしても、それは中身に惚れられるものだと思っていた。
いや性格も、別に惚れられるような男らしいタイプでは無いんだけど。
でも、『外見はどうでもよくて、中身が好きなの!』という惚れられ方はまだあり得るが、『性格はどうでもいい。だらしなく太った身体が好き』というモテかたは、なかなか想像できないもので。
「まさかの後者だったからな……」
「そしてアリスめ。実はかなりのムッツリじゃからのう」
彼女はまだ俺の肉の触感を想っているのか、自分の世界から帰ってこないみたいだった。
「こんなところでバニーになられても困るしな……。正気に戻して、先を急ぐか……」
下手をしたら警備団体が駆け付けて来そうだし。
俺は面倒ながらもアリスに声をかけて、先を急ぐのだった。




