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2.珍しくヘリオスちゃんは・2



 しおしおとしょんぼりするヘリオスちゃんだったが、どうにか体制を綺麗に保つ。

 女神としての体面があるのだろう。真面目な彼女らしく、しっかりしなければという思いがあるのかもしれない。


「しかし。分かりにくいっていうのは?」

「えーっとですね……」


 しおれる彼女に質問をするも、どうにも歯切れが悪い。

 というよりも、どう説明したものかと、頭をフル回転させているようである。

 ちなみにこの空間に、ベルとアリスはいない。というか、俺以外は原則入れない設定になっているらしい。

 一応厳密に言えば、『勇者』認定されているのが俺だけなので、その絡みなのだそうだ。こんなとき頭の回転が早いアリスが居れば、良い切り出し方が出来そうなものなのだが。

 まぁ悩んでいても仕方がないので、俺も会話のフックとして、思いついたことを口にしてみる。


「さっき俺も思い出したんだけどさ。前に五国の情勢が複雑に絡み合ってた事件あったじゃない? つまり今回は、アレよりも複雑なのか?」


 俺の質問に対して、ヘリオスちゃんは「いえ」と首を横に振る。

 言葉のハキハキさは戻ってきているが、やはり表情は、まだ引きずっているようだった。


「状況としては分かりやすいのです。

 とある地域――――というか街に、脅威が迫っています。ですので、ソレの解決をお願いしたいということなのです、が……」

「ですが?」

「驚異の内容が……、あまりにも不明瞭すぎまして」

「なるほど」


 そりゃあ歯切れも悪くなるわけだ。

 何だかよく分からないが、ヤバイことが起こるから行ってきてと。そういう作戦命令を出さなければならないのは、彼女の性格上しんどいものがあるだろう。


「この間の件も、何が起こるか分からないという点では同じだったけど。でも魔力の発生源が分かっていたから、行動はしやすかったね」

「そうですね」


 ついこの間解決した、レーヴァの街及び、それに連なる都市で悪いことを企んでいたという、軍内部の事件。

 それも、何が起こるかは予想できていなかったものの……、悪い魔力の発生源が『軍内部から』だということは分かっていた。だからヘリオスちゃんも、俺たちが何をすればいいのかだけは、伝えることが出来たのだ。

 神や女神は、ニンゲンの事象に大きく関わることは出来ない。

 それは俺たち、『勇者(暫定)』に対しても同じのようで。

 地上で起こっていることは、地上で生きる者が解決しなければならない。

 そういう決まりになっているようだ。


「だからこそ、作戦に移る前には、やって欲しい事ややらなければならないことを明確にしたいのです! したいのです、が……」


 一度は拳を握り顔を上げた彼女だったが、しかしそれも一瞬のことで、再び元気をなくしてしまった。

 うーん、本当に珍しい。

 ここまで元気が無い姿を見るのは初めてだ。


「まぁまぁ、大丈夫だよヘリオスちゃん」


 俺はしおれる彼女の背中をぽんと叩き、言葉を落とす。


「俺たちには先日、アリスっていう優秀なブレーンが加入しただろ? だから、不明瞭なことが起こってもどうにかなるさ」

「うぅ、コースケさん……」


 再び顔を上げ、彼女は困り眉のままこちらを見返した。

 普段は元気で大きな瞳だが、今はうっすらと涙が溜まっている。

 俺は「平気平気」と言って、彼女を更に元気づけることにした。


「むしろヘリオスちゃんは、これまで十分『分かりやすく』してくれてたからさ。

 今回は休憩ってことで。むしろどっしりと、ココから俺たちを見守っててよ」

「……」

「その方が役割的にも――――『分かりやすい』だろ?」

「コースケさん……」


 ヘリオスちゃんは困った顔から一転、口元をにへらとゆるめて笑顔を作った。


「あ、ありがとうございます……」

「お、おう」


 聡明さと元気良さを思わせる笑顔が多かった分、こういった緩い笑顔というのは、不意打ち気味でどきりとしてしまう。やや赤らめた頬が健康的で瑞々しい。


「でも……、いいんですか? 私、女神なんですが……」

「チームで動いてるんだから、時には休む人が居てもいいんじゃないか? その分俺やアリスが頑張ればいいだけだしさ」


 先ほどかめっちゃ人任せだけど。

 まぁでもアリスだって、普段お世話になっているヘリオスちゃんに頼られることに対して、悪い気はしないだろう。……ベルは知らんけど。

 そんな俺の言葉に、彼女はぴくりと耳を動かして呟いた。


「チーム……ですか」

「え、なんかまずかった?」

「い、いえ……」


 口元に手を当て、拳を軽くぎゅっと握る彼女。瞳孔も少し開いており、喜びそうになる口をきゅっとすぼめている。


「チーム……。えへへ……。チームかぁ……」


 いかん。あまりにも年相応のリアクションすぎる。このままでは照れて喜ぶ女子高生を、更にニヤニヤ眺めるおじさんになってしまう。ただでさえ、『バニーガール衣装を他人に着せることが出来るおじさん』なのに。これ以上の属性は付与されたくない。

 イケナイおじさん(おれ)がたぶらかしたみたいにも映る。ここに第三者が居なくて良かったと思う次第です、はい。


「えへへ……。チーム……。チームとして、ですね! はい! 分かりやすい役割、頂戴いたしました!」


 ヘリオスちゃんは持ち前の明るさを取り戻し、ぺかっとした曇りのない笑顔を見せた。

 まぁなんにせよ戻って良かった。やっぱり彼女は、太陽のような笑顔が良く似合う。


「あまりにも嬉しすぎて、尻尾が生えそうです!」

「その表現は、ニンゲンには理解できないかなー」


 拝啓。

 まだまだ女神には不明瞭なことが多いみたいです。敬具。


「それではコースケさん。申し訳ないのですが、勇者一行を率い、不明瞭な戦地へと赴いてください。

 こちらでも情報収集はしておきますので、また連絡が取れそうになったときにお伝えします」

「了解だ。まぁ大丈夫だよ。さっきも言ったけど、こっちにはアリスも居るんだし――――わぷっ!」


 彼女の名前を出した途端、ヘリオスちゃんの白い人差し指が、俺の口を優しく抑えた。


「な、なに……?」

「もう、コースケさん。……せっかく私と居るんですから」


 彼女は一度息を吸って、やや顔を赤らめて。

 再び言った。


「今くらいは、他の人の名前は出さないでください……!」


 元気の中に、少しのしおらしさと――――拗ねたようなニュアンスが入ったその言葉は。

 あまりにもいじらしくて、可愛すぎた。








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