18.出会い・A(2)
よく分からん森の中。
突如として現れた黒髪ロングで、局部を前張りで隠したスーパー美女に遭遇した俺、副割 功助は、直前に襲い掛かってきて、輪切りになった動物(魔物?)の肉を、その美女と焼いて食っていた。
で、しばらくの後。
「その者に服を着させなさい~~~~~ッッッ!」
そんな素っ頓狂な声が聞こえてくる。
姿は見えないが、どうやらその者とは、目の前の美女のことらしい。
「服、着るか?」
「ん? 何でもよいぞ」
と言ってもな……。
とりあえず俺の上着を肩にかける。けれど、まるで刃物で切断されたように、上着は真っ二つになってしまった。
「え、何で!? 怖ッ!?」
「うむ、やはり無理じゃったか」
「服着たことないって……、え、なに? そういう体質なの!? お前大丈夫か!?」
「クァハハハ! まぁ、難しいのうこればかりは」
「いや笑ってないでさ」
笑うたびに、何の支えも無い乳がばるんばるん上下に揺れる。
札みたいな前張りは、どうやら剥がれないみたいだが、それでも俺には刺激が強すぎた。
「どうすっかな……」
「しかし、ぬしも律儀じゃのう。
声の主が誰かもわからんのに、言うことを聞こうとするとは」
「まぁそうなんだけどさ。けど、俺だって目のやり場に困るし」
ほぼ全裸と変わらない状態である。
正直この距離で接しているのも、心臓に悪いぞ。
そうこうしているうちに、足音はどんどん近づいてきている。きっとさっきの声の主だろう。
「追い付いた! 何をやっているのですかベルアイン! 幽閉期間が一時的に終わったとはいえ、貴女にはまだ自由は与えられていないのですよ!」
「クァハハハ、すまんすまん。
ちょっくら身体を動かしたくなっただけじゃ。勘弁せい」
ごきごきと手足を鳴らす彼女に対し、叱るような声を出しているのは、中学生~高校生くらいの女の子だった。
生い茂る自然の中。
何も分からない四十歳のオッサンと。
前張り風味のほぼ全裸の美女と。
神聖っぽい服装をした元気な女子が、集合していた。何だこの絵面。
「あの……とにかく、説明をしていただけませんかね」
出来れば。ここではない、違うところで。
中学生ちゃん(仮)は、「そうですね……」と顎に指を当て、太陽のような笑顔で、ぺかーっと笑いながら言った。
「そうしましょう! そのほうが、わかりやすいです!」
さてさて。
異世界生活(?)、最初の一歩目がスタートですよ。
で、まぁダイジェスト気味に説明すると、だ。
中学生ちゃん(自己紹介でヘリオスと名乗った。以降ヘリオスちゃんと呼ぶことにした)の説明によると、俺はどうやらこの世界の神により召喚された、『世界を救うための切り札』らしい。
「え、無理」
「そんな女子高生のようなことを言わず! あなたならできますとも!」
「無理無理。え待って待って」
人間窮地に追いつめられると、使ったことないリズムの言葉が出てくるもんだな。
何故か女子高生(というか若い限界オタク)みたいな口調になりながらも、説明を何とか自分の脳内に落とし込む。
「……えー、要約しますと」
俺の役目はこの世界で、『勇者を管理する』ことらしい。
俺自身が矢面に立って戦うことはしなくても良いが、管理をし、時には指令を出さなければならないため、一緒に戦場へと赴かなければならないと。
「そんでその『勇者候補』が……」
「うむ。ワシというわけじゃな」
そんな風に、前張り美女は腕を組んだまま頷いた。
うぉ……、腕を組むと乳肉がすげえ寄るじゃん……。
あまり見すぎると、やんごとなき理由により、直立できなくなってしまうので、ほどほどにしておかねばならない。
「分かりやすく言えば、このベルアインを、『勇者』にしてやって欲しいのです」
「それが出来るのが、俺の、神様から与えられた力かぁ……」
まったくあのオッサン。矢継ぎ早に話したくせに、変な能力渡しやがる。
ヘリオスちゃんいなかったら、未だに理解できて無かったぞ……。
「一応聞くけどさ、ヘリオスちゃん。
コレって、断れないやつだよね?」
諦めつつ俺が聞くと、ヘリオスちゃんは「いえ」と首を横に振った。
「断ることも出来ますよ」
「え、そうなの!?」
「はい。その場合は能力を返還いただきまして、コースケさんはこの世界で、一般人として暮らすこととなります。あ、記憶は消させていただきますが」
あっけらかんと言い放つ彼女に、俺は驚きを隠せなかった。
記憶をいじられるのは怖いけども、しかし……。
「いやぁ……。てっきり、これは至上命題だと思ってた。断ることは絶対不可能。もしくは、断ってもいいけど、その代わり死んでしまうよ? 的なものかと」
「神や女神に、条件の揃わない存在に対しての強制命令権はありませんから」
「よく分からないけど、そうなのかぁ……」
難しいことは分からんが、どうやら強制ではないっぽかった。
つまり、わざわざ危険な目に遭わなくても良いということだ。
「えっと……、じゃあ俺は辞退するんで。また違う人と頑張ってくれ」
ベルアインと呼ばれたスーパー美女に別れの挨拶をしようとすると、ヘリオスちゃんが後ろから「それでは」と口を開いた。
「再びベルアインは、幽閉に戻ってもらいますね!」
「え……、ゆ、幽閉?」
「えぇ。勇者の役目を担う者を召喚するには、また二百年ほど時間がかかりますので。その間、彼女は再び罰を受けてもらいます」
「罰!?」
驚きの単語の連続で、ベルアインのほうを向くと、巨大な乳に顔をうずめるかたちとなってしまった。……身長差的に、丁度顔の位置が胸に当たるんだよなぁ。ぼいんと弾き出された俺は、彼女を見て謝る。
「す、すまん……!?」
「ん? 何がじゃ?」
「乳……、やわらけ、い、いや……。と、とにかく、罰って何だよ!?」
俺が狼狽していると、ヘリオスちゃんは意外そうな顔をしてベルアイン……さんに尋ねた。
「話していなかったのですか?」
「そんな時間は無かったし、そもそも、話さんでもよいことじゃ」
「ふむ。そうですか」
ヘリオスちゃんとベルアインさんは、互いに何かを納得したようだった。……が、肝心の俺が、全く納得できていない。
「待て! 待ってくれヘリオスちゃん! あの……、簡単にで良いから、ベルアインさん側の事情を説明してくれないか!?」
俺の言葉にヘリオスちゃんは、明るい表情のまま、本当に純粋な疑問としての言葉を投げる。
「それに何の意味があるのです?」
「え……、だって、それはさ……」
「コースケさんは、危険なことはしたくないのでは?」
「…………、」
彼女の言葉は、嫌味ではなく、本当に俺を気遣ってのものだった。
――――だからこそ、その気持ちが、純粋に俺の心に刺さる。
俺が気圧されて黙っていると、ベルアインさんは、「のう女神よぉ」と口を開く。
「ワシから簡単に説明する。
言ってはならんことがあれば止めろ」
「ふむ。そうですね。その方が分かりやすいでしょう」
彼女は頷いて、「どうぞ」とベルアインさんに手で合図した。
ベルアインさんはどこか遠い目をして、綺麗な唇をもって、話しだした。
「簡単に言えばワシは、――――ニンゲンの、敵だった存在じゃ」
「お、おう。そうなのか」
「じゃがワシは、それをいたく反省しておる。そのため幽閉され、罰を受けておったのじゃ」
「なるほど……」
「時を同じくしてその千年間。その間に、地上では良くないことが起こり続けおった」
「千年って……」
「ニンゲンの時間でいえば大層な時間じゃが、ワシらにとっては…………あ、いや、それでも長いか」
「長いんじゃん。え、そんなに罰を受けて、お前大丈夫だったのか!?」
俺の言葉にベルアインさんは、「優しいのう」と頭を撫でた。
おぉう……、破壊力高いからやめなさい……。ただでさえ生乳に近い乳袋が目の前にあるというのに。バブみでオギャりたくなるでござる。
気を取りなおして「それで?」と聞くと、彼女は続きを語り出す。
「しかしのう~。神々は地上のことに関与は出来んし、すでに『勇者』と呼ばれる魔を絶つ者は、誕生しなくなってしまったんじゃよな~」
「スケールがでかすぎてよく分からんが、そうなんだな?」
「うむ。そこで、神々は提案した。同じような強大な力を持つワシを、一旦解き放つ。そして、世界を平和にすることが出来れば、ワシの罪を帳消しにしようと。おぬしに力を与えたという神。たぶん提案者はそいつじゃな」
「えぇ……。打算的だな……」
けど確かに。
条件さえ合えば、双方ウィンウィンの関係かもしれない。
「そうじゃろ? じゃからワシは、疑似的に『勇者』として、地上で活動したい。
――――今度こそ、ニンゲン共の味方をしたい。……ま、そういうことじゃ」
「は、はぁ……」
つまり。
昔人間の敵だったヤツが、何らかの事柄を経て改心して?
罪滅ぼしとして、人間のために『勇者』になりたいと。
「そんなの――――」
「…………」
「そんなの、協力するに決まってるだろ!?」
「――――、」
俺の言葉に、ベルアインさんは目を見開いていた。
いやいや、そういうのは先に伝えてくれよ。
「言えよそういうことはさぁ! だったら俺だって、頑張ったろうじゃんって気になるよそりゃあ!」
俺の言葉に、これまで饒舌に言葉を繰っていたベルアインさんが、一瞬黙り込む。
口の間からわずかに息が零れて、そして、再び俺に向かう。
「ぬし……。よいのか?」
「よいよ! だったら頑張るよ俺みたいなのでも!」
はぁとため息を吐き、ヘリオスちゃんの方を向く。
「さっきの、無しで頼む。俺は、どうにかコイツに、罪滅ぼしをさせてやりたい。だから俺を、『勇者管理』の任に就かせてくれ」
「分かりました!
しかしコースケさん。二度目の確認ですが、良いのですか?」
「まぁ怖いって言ったら嘘になるけどさ……」
さっきみたいな猛獣に襲われるんだろ? 嫌だよそんなの。出来れば一生安全なところで暮らしたいよ。
「でも……、失敗を取り返したいって気持ちは、やり直したいって気持ちは、分かるから」
中学生の頃。
俺は人間関係で失敗した。
ベルアインさんに何があったのかは知らないが、それと比べれば、確実に矮小なことだろうと思う。
ちょっとのひずみで関係は崩れ、徐々に亀裂は大きくなり、気づけば俺はクラスで孤立していた。
高校は地元から遠いところを選んだが、それでもそのときの傷は深く、コミュニケーションをうまくとれず、受験も、就職活動も、まともにできなかった。
何とかギリギリフリーターとしてやっていって、ようやく人並みに話せるようになったのは、この年齢近くになってからだ。
あのとき失敗しなければ。
あのとき失敗したことを、やり直せたら。
あのとき失敗したことをやり直して、誤解を解くことが出来たなら。
何度も何度も考えた。けれど、そんなこと、出来るわけがなくて。
「――――その、分かるからさ。気持ち。
だから、お前の罪滅ぼしが出来るまで、付き合うよ」
「ぬし……」
鋭い目じりが、少しだけ柔らかくなったような気がした。
何だか。
何というか。
一瞬だけ、先ほどまでの、獣じみた雰囲気では無くて。
まるで――――少女のような。
人間のような、顔つきだなと。
おぼろげに思った。
「……って、だから! め、目の毒なんだって!」
言いながら俺は顔を背ける。
そもそもこの年になるまで、まともに女性と目も合わせるのが難しかった人間なのだ。危険な存在だろうが目つきが鋭かろうが……、どぎまぎしてしまうことに変わりはない。
「へ、ヘリオスちゃん! そういえば服がどうとか言ってなかったっけ!?」
俺は慌てて話題を思い出す。
まぁぶっちゃけヘリオスちゃんに対してもやや緊張するんだけどな! 美少女だし!
ただ、受け答えが丁寧なのでギリギリ会話は成り立っている。
そんな彼女は「はい!」と元気よく返事をして、ぴっと指を立てて言った。
「あの森の中で、私はすでに、二人は勇者活動をするものだと思っていたのです! なので、その『証』たる服を着せて欲しいと叫んだのですよ」
「あ、証……?」
「そうです!」
言うと彼女は、「ちょっと失礼」と俺の背中をつつっとなぞった。
くすぐったい感触が背筋を伝播する。
「ちょぉッ……ちょっと、何してんの!?」
「お、ここですね! とりゃっ!」
「あ痛ぁッ!?」
背骨のコリッとなっている部分を強めに刺激される。
謎の痛覚と同時に……なにやら、これまでに感じたことの無い『熱』が、身体を駆け巡っているのが分かった。
「それが魔力です!」
「え、今ので!? そんな雑な健康法みたいなので宿っていいの!?」
「元々神様が宿らせてくれていたものに、火を灯しただけですので! ご心配なさらずとも、ぜんぜん大丈夫です!」
「ホントかな……」
俺の疑問をぼんやりと受け止めて、ヘリオスちゃんは「さて」と仕切りなおした。
「その魔力でベルアインに――――勇者の力を与えてあげてください」
「勇者の、力を?」
「その力を与えることが出来れば、それに付属するように、貴方が思い描く『服』を、彼女に着せることが出来るはずです!」
「そういう、ことか……」
なるほど。何となくつながった。
勇者としての装備を与えてやることで、勇者の力を宿してやるんだな。
「よ、よし……」
改めて、ベルアインさんのほうを見る。
出来るだけ素肌部分を見ないようにすると、次第に顔を見上げてしまうというジレンマが発生する。
うぅ、照れくさい。面と向かって目と目で見つめ合うなど、下手をすると生まれて初めての経験だ。
俺が(勝手に)どぎまぎしていると、彼女の綺麗な口がうすらと開く。
「ぬしよ」
「は、はい!? なんだ!?」
俺の返事に、ベルアインさんは。
やや真剣な……、神聖とも思える瞳を、向けていた。
あぁ、ホントウだ。
よく見ると、人間の目っぽくない。
瞳の中の瞳孔のカタチをぼやりと眺める。
なんというか……。とても、きれいだ。
「最後の確認じゃ、ニンゲン。
本当に、ワシと共に旅をするのか?」
先ほどまで豪快に笑っていた表情はどこへやら。
彼女は真っすぐに、俺に言葉を飛ばしてくる。
だから俺も、精一杯。
ようやく取れるようになってコミュニケーションを駆使して、彼女に応えた。
「あぁ。俺はお前と一緒に行く。
よろしくな……、ベルアインさん」
「クァハ」
無意識に差し出していた俺の手を優しく握ると、彼女は跪き、手の甲に唇を重ねた。
柔らかな感触が甲から伝わってくる。
「うっひょぉぉい!? お、お前!? 何してんだ!?」
「ん? 契約を誓ったニンゲンは、こうするのではないのか?」
「違いますよベルアイン」
「む、違ったか。どうにもニンゲンの感覚は分からんのー……」
め、めっちゃドキドキした……。
乱雑に見えて、所作が美しすぎた。違うトキメキを覚えちまうところだったぜ……。
「では、服を」
「ん? あ、あぁ、そうだった!」
服……。服、か……。
うーん、そもそも魔法を使うことが初めてなんだけど……。
「……やってみて良い?」
「良いぞ」
俺の問いにあっさりと応え、彼女は長い手足を大の字に広げ、俺の魔法を正面から受け入れる体勢をとった。
「ワシはぬしになら、何でもされて良い」
そう言って、とてもニヒルに笑う彼女。
……それはそれでビッチみたいで興奮する――――んだけど、今はそれどころじゃなくて。
「じゃ、じゃあ、ちょっとやってみるぞ」
本能に従って手を中空へとかざすと、身体の奥からこみ上げてくる何かがあった。
熱のような、血流のような、何だか、これまでに味わったことのない感覚器官だ。
俺はそのまま熱を掌へと伝えていく……ようにしてみる。
「お、おぅ……、何か……出そう」
「出そうか」
「アツいのっていうか……濃いのが出そうなカンジ」
「濃いのがか」
何か今とても問題発言っぽかったが、とりあえず置いておこう。
脳内にぼんやりと、『衣装を作れるよ』という旨の信号が送られてくる。
なるほど。どうやら本当に、衣装を作る魔法を使用できるらしい。
「じゃあ、とりあえず……普通の……服を――――」
熱は彼女に伝播する。
黒い髪はふわりと沸き上がり、柔らかく逆立った。
イメージするために一度閉じていた目を、やや薄く開いて、彼女をもう一度見てみる。そのとき。
逆立った二束の髪は、ウサギの耳のように見えて。
両腕についた枷のようなものが、カフスに見えた。
「あ――――」
「お?」
彼女の身体が、俺の手が、光る。
神聖なる光は勢いを増し、しばらくの後収まった。
そして、目の前には。
「ほう……? なんじゃ、この服は?」
「ばっ…………、」
バニーガールの衣装を着た、スーパー美女が誕生していた。
天へと黒く伸びた、二本のウサミミ。
健康的な首元には、黒い蝶ネクタイのついた付け襟。
大きく肩と背中を出した黒いボディスーツは、身体にぴたりと張り付いているようで、腹部のうっすらとした筋肉、へその形に至るまでを、煽情的なまでにくっきりと描き出している。
ハイレグの角度はえぐい。とてもえぐい。
ぴっちりしていることと、薄いストッキングをまとっていることにより、腹部や尻のラインまでもが浮き彫りとなっていた。
白い腕の先には黒いカフス。黒ストの先には赤いピンヒール。
かわいらしくついた白い尻尾が、動きと共にわずかに揺れる。
「ほう? バニーガールというものか。けっこうけっこう」
「え……、喜んでる?」
「良い服じゃ。それに、『竜』を捕まえておいて、それをか弱いウサギに見立てるか」
「えぇ……? いや、そういうワケじゃあ――――」
…………。
……。
こうして。
俺はこの世界で、コースケ・フクワリとして。
魔竜・ベルアインは、勇者・ベルアインとして。
生きることとなった。
この後俺は、とにかく振り回される。翻弄される。
疲弊の連続で、心労は持続して、責任がずっと継続する。そんな毎日だ。
ただまぁ、何だかんだで、ベルと一緒にいると楽しい。
彼女の、罪滅ぼしをしたいという気持ちを、いつかの自分に重ね合わせて。共に異世界の大地を駆け巡る。
人は戦禍に、バニーガールの姿を見たという。
そして俺も、
跳梁跋扈するバニーガールの姿を、
ずっと、見守り続けている。
バニー勇者の魔討譚
第一章 END!




