11.コースケの能力(上手くハマった場合)
「くっ……、こ、殺せ……」
拝啓、俺の頼もしき仲間二人。
二人が必死に戦っている間、何故か俺は地下で出会った女将軍に、こんなセリフを言わせています。
「だからやめろって言ったのに!?」
「くわ……、か、はぁ……ッ!」
バチバチと、落雷に打たれたかのように身体を痙攣させ、その場にばたりと倒れるバニーガール女将軍。
四十代には見えないくらいに綺麗な顔と肌。鍛えられたムチムチ・ムキムキの足。筋肉で盛り上がった肩や首回り。そして、胸筋の上に見事に実った乳谷間。
バニーガール衣装に身を包んだまま、くてっ……と横たわる。その姿はどことなくエロスを感じさせる。
ううむ……。どうしてこうなった。
時間は、アリスを送り出し、俺が単独行動に移った頃まで遡る。
アリスと分かれた後。俺は現在、軍本部内へと侵入している。
というのも。
簡単に言うと、アリスには嘘をついた。
まぁ気持ちの部分は本音なんだが、戦闘における部分。『何も出来ない・していない』という部分が、実は嘘だ。
「あ、あと。見守ってるからな! っていうのも嘘か……。こうしてガッツリ、目を離してるしな……」
というか、現在軍の施設内だ。
戦闘が見えない場所である。ごめんねアリス。
「はてさて……。鬼が出るか蛇が出るか」
怖さを紛らわすために言葉をつぶやきつつ(本当はどこに敵がいるか分からないから良くないんだけど)、剣戟の音と怒号を背に、軍本部内へと侵入していく。
正直隠密行動に適したボディじゃないんだけどな。忍者とか、こう、スピードタイプな細身だったら良かったんだろうが、こちとらぷっくりわがままボディである。速度は出るけどどたどたとしか走れない。
「こう……、シュタタタタッ! みたいなことが出来れば格好つくんだが……」
ベルと繋がっているお陰で、身のこなし自体は相当高いレベルで出来るのだが、いかんせん格好良さは皆無だ。まぁ、動けないよりかはマシだけど。
「人の気配はたぶん無いな……」
さて。
何ゆえに俺が、アリスに嘘までつき、軍本部内へと潜入しているのかと言えば……。
一つは。魔方陣そのものの破壊。
「アリスの見解では、市街に設置していたものを壊したことで、半分くらいは効力を失わせているんだっけ……」
しかしそれでは正直怖い。
ちらりと見た限りでは、ベルはどうやら決め手に欠けるみたいだった。
アリスの援護が入ったとはいえ、まだまだ『象』は出現を止めない。この攻めあぐねが、この先どういう結果につながるかが分からない。
「だから……、その前に魔方陣自体を破壊する!」
最初この場に駆け付けたとき。アリスの反応からして、オルゼムの姿は無かったみたいだ。ということはつまり、ヤツは別の場所にいるということで。
「う~ん……」
無い知恵を振り絞って考えてみる。
とりあえず、二通りのパターンを思いついた。
パターン一。オルゼムはすでに魔方陣を起動し終えていて、あとはオートで魔方陣が召喚を繰り返すようになっている。ゆえに、陣の中央に居なくてもよくて、どこかに身を隠している。
パターン二。……というか、こちらの線が本命だ。
オルゼムは常に陣の中央で呪文を唱え続けていて、この召喚陣を維持し続けている。
「たぶん……後者かな?」
俺は全然魔法陣には詳しくないが、こっちの世界で、世界の脅威と相対して分かったことが、魔法ってのはそこまで万能ではないということ。
簡略化されている、もしくはとても簡単なことだから省略していることでも、一応ルールに則った何かで動いている。
これまで倒してきた敵たちも、それはもうすげえ魔法を使って……ベルに倒されていたけれど。奴らは常に、すげえ力を使い続けていた。すげえ力を使い続けるために、更なるすげえ力を求めたりもしていたのだ。
『――――あの方の功績は認める。しかし、単純な魔力だけで考えると、中央のエリート宮廷魔術師、くらいだと思う』
そんな。アリスの言葉が思い出される。
「オルゼムの魔力は凄いには凄いが……、それでも、手放しでここまでのことを行えるほどではない」
つまり、式を練りに練り上げて。
それを常に、自分で維持しているかたちだろう。
「まぁ、だから。これが俺の仕事だ」
アリスを連れて来ずに、俺一人だけでここに来たのはそういう理由だった。
アイツはたぶん、表で洗脳されている兵士を、どうあっても殺さないと思う。それにたぶん殺さずに済むように戦うだろう。
同僚だとはいえ、意思をもたない奴らだ。意思をもたない分、殺さない程度に容赦なく攻撃できると思う。
けれどもし……、魔方陣を発動しているのがオルゼムで。
そして更なる仮定として、そこに『協力者』が居た場合。これが最悪の状況だ。
パターン二・その二
オルゼムは常に陣の中央で呪文を唱え続けていて、この召喚陣を維持し続けている。
そこに、協力者たちも存在する。
「……」
仮にそいつらが、オルゼムに洗脳されていたのではなく、元々の協力者なのだとしたら。
最悪。意思を持って悪意ある相手を――――
「アリス自身の手で、殺させるはめになるかもしれない」
彼女は責任感が強い。
だから、俺に危害が加わるのを、きっと見過ごさないだろう。
でもそれをさせてしまうと……、アイツの一生の傷になる。
「だから嘘ついてまで、単独行動してるんだけどさ」
長い地下階段を降りる。
位置的に考えると……、俺たちが通された会議室の、ほぼ真下くらいの場所だろうか。
人が通っている痕跡はある。のに、あまりにも薄暗い。
「嫌でも分かる不穏な臭い……」
ここがおそらく、力の出所だ。来る途中に確認した施設内地図から逆算しても、間違いないだろう。
何かの意味があるのか、荘厳で重々しい扉は、左右均等に開け放たれている。こちらとしてはありがたい。
「いるなぁ……」
おそるおそる、扉越に隠れて覗き見る。
中には三名の術者と、それらをまとめて見れる場所に、どしりと座っているオルゼムと思しき人影が居た。
「こちらには……気づいてないみたいだな」
術者らはおぼろげに光り、魔方陣の中央で呪文を唱え続けている。その光はどうやらオルゼム(仮)へと伸びていて、そこから魔方陣の中央へと魔力が流れているようだった。
「……これは」
四人とも、とてつもない集中力だった。
おそらく俺というネズミに気づかないくらい、この魔方陣を維持することに全力なのだろう。もしかしたら、イレギュラーによる早期発動の弊害なのかもしれなかった。
これは――――この状況は俺にとって、運が良すぎた。
「俺の視界に入る場所にまとめて居てくれてる。こんなにありがたいことはない」
事件としては過去最大級だが、ことココに関しては、おそらく過去最低レベルでイージーだ。
唐突だが俺の能力の説明を。
俺の使用する『仮装着』、つまるところ『勇者の力を与える』能力は、俺が対象を認識さえしていれば、ソイツに向って発動できる。
ベルへ初めて着せたときも、男たちが絡んできたときも、アリスを救出したときも、そうだ。
人型であればどんなものにも着せることが出来て、逆に、いくら物理的には視界の中に入っていたとしても、肝心の俺が人だと認識していなければ対象とはならない。
だから弱点としては、暗闇に紛れられるとか、目にもとまらぬ速さで動かれるとか、そういうことをされるとかけるのが難しくなるのだが……。
「で、今の状況が」
動かず。
俺の視界内に全員居て。
集中してこちらに気づいていない。
おあつらえ向きである。
「俺だけこんなに楽して良いのかって気もするけどな」
さあさあ喜べ、重苦しいフードをかぶった魔法使いさんたち。
あなた方には一瞬とはいえ、勇者の力が手に入りますよ。
「いくぞ……。『仮装着』……!」
出来るだけ声を押し殺して唱え、対象となる三名へと魔力を送る。
すると……、むくつけきオッサンたち(フードだったから気づかなかった!)は一瞬にしてバニーガール姿となり、驚きのあまり動きが止まる。
「「「うぉぉおおおおおっっっっ!!!!????」」」
筋骨隆々の身体へ食い込む、黒いビスチェ。精悍に刈り込まれた髪にはめ込まれた、ウサミミカチューシャ。逞しい毛むくじゃらの足を包む網タイツは、もはや何かの罰ゲームだろう。
「悪夢で見る奴だ、アレ」
魔法使いといっても、軍に務める奴らだ。身体の出来上がり方が、この間あしらった男たちよりも数倍は凄い。だからこそ、余計にバニーガールが似合わなさすぎる。
「まぁだけど、これで……」
驚きながらも――――寸前まで唱えていた呪文は。そして何より、発していた魔力は、止まらない。
彼らが発していた魔力は、『勇者の力』で打ち出され、これまで以上の出力を持って、魔方陣に吸収される。
その結果。
「うぐっ……!? う、おぉぉっ!??」
「だ、大丈夫かサディアン! ぐわぁっ、お、俺の魔力も……!?」
「オロギーッ! うぁ、も、持って行かれる! なんだこれは……!」
術者三名の衣装が変わる!
バタバタとバニーガールのオッサンたちは身もだえている。
あたりに張り巡らされた魔法陣は、凄まじい輝きを発しており、今にも建物自体を瓦解させそうな勢いだ。
「地上にも影響が出てるかもしれないな……」
崩壊していく式を背に、俺は再び地上へと走る。
そう。ここまできたらもう分かるだろうけれど、俺がやったのは、対象を『パワーアップさせすぎる』ことだ。
「そういえばアリスも、力加減が難しいって言ってたか」
魔法陣の仕組みには詳しくないが、前にヘリオスちゃんに、電化製品で説明してもらったことがある(分かりやすい!)。
曰く。どんな魔法陣にも、出力は適切でなければならないのだとか。
「百しか受け止められない魔方陣に対して、三百の魔力を加えたらどうなるか」
答えは簡単。一瞬でショートする。
その弊害として、その瞬間だけ良くないモノが召喚されてしまうだろうけれど、外に居るのはベルだ。おそらく問題はないだろうし、そのために保険としてアリスも向かわせた。
「それに、魔力の昂りによって、魔方陣はここに破綻した。
ヤバイものが召喚されたとしても、一瞬の出来事のはずだ」
今回は、物理的な道具や概念による召喚ではなく、魔方陣を使用しての召喚式である。
その媒介となるものが破綻した今、この世界につなぎとめることは出来ないだろう。
「今のチカラは一体……ぐっ!? ぐぁぁぁあッ!!」
「うぐぉぉッ!? なにか、が、入ってくる……!?」
「がががががががッッ!!!!??」
――――そして、『ヤバイもの』は逆流する。
俺とベルをもってして、過去最大にヤバイもの。そんなヤバイものの扱いを間違ったとしたら、どうなるか。それは……、魔方陣からの魔力の逆流だ。
「まぁ詳しくないから分からんけど……。確かヘリオスちゃんから習った魔方陣の壊し方は、こんな感じだったな」
勿論女神は手助けは出来ない。けど、事前に色々知識を与えるのはオッケーである。
だから俺は、万が一のときのため、俺の力がどういう風に応用がきくのかを教えてもらっていたのである。
男たちのあしらいもそうだ。あんな悪知恵、俺の頭じゃ到底思いつかない。
「思ったより頭良くないからな、俺。
――――だからこそ、使えるものは何でも使うぜ」
逆流した魔力は部屋一面に光り輝いている。
壁にびっしりと刻まれた魔方陣は、力の逃がし場所を求めているのか、ビシビシと壁に亀裂を走らせていた。
そして、そんな中。
祭壇のような場所で蹲り、混乱している者が一人。
どうやら三人に異常を感じ取った瞬間に、魔力の流れをカットしたのかもしれない。けど、バニー化の魔力はそのまま流れて行っちまったみたいだな。
「あれが……、オルゼムか」
俺はおそるおそる部屋に入り、出来るだけササっと祭壇へと近づく。そこには――――顔を羞恥の赤に染めた、歴戦の、女兵士みたいな人がバニーガールの姿でうずくまっていた。
「お……、女だったのか……」
「くっ……!? な、なんだ貴様……!」
女性とは思えぬほどに筋骨隆々。ところどころに傷があり、女性らしいカーブよりも、筋肉による角張りの方が目立つ。身長ももしかしたら、先ほどの男たちよりでかいかもしれない。
頬には激しい三本の傷。それが更なる歴戦感を醸し出している……のだが、それがとても、今の格好と合ってない。
獅子の鬣のようなオレンジの髪。その上に、黒いウサミミが弱々しく垂れ下がっていた。
「四十以上とは聞いてたが……、全然若い外見じゃないか」
三十代前半くらいに見える、仕事盛りと言った感じだ。
というか、先入観でオッサンだとばかり思っていたから、性別まではわざわざ聞いてなかったな……。まさか女将軍だったとは。驚きだ。
俺が別の驚愕をしていると、太くも上ずった声で、オルゼムさんは声を上げる。
「きっ、貴様が、この状況を作ったというのか……!」
これまで。この手の羞恥は受けたことが無かったのだろう。胸元と股を隠しながら、腰を引いた状態で立ち上がり、こちらを睨みつける。
困り眉と鋭い目つきのセットは、どうあっても彼女から威厳を取り上げていた。
「だ、大丈夫ですか……? ふらふらですよ……?」
「うるっ、うるさい……!」
成程。魔力の逆流を、彼らほどではないとはいえ、受けてしまっているのだろう。
小突けば軽く倒れてしまうような、もしくは酩酊状態に近いのかもしれない。
力を抑えているとはいえ、一応今のオルゼムには『勇者の力』が宿っているからな……。この方法は俺にとっても諸刃の剣なのである。けれど、ここまでフラフラなら問題はなさそうだ。
「油断……したなッ!」
「うぉっ!?」
一息つこうとした瞬間だった。オルゼムは俺の方へと手を伸ばし、攻撃魔法を発動しようとした。
「あっ、馬鹿ダメだって!」
「『明滅する一陣閃光』……ッ!!」
手のひらに収束した魔法光と、夥しいまでの魔力が収束される。そして、一斉にこちらへと攻撃が繰り出される――――
「あがががががッ!?」
「……ダメだって言ったのに」
――――ことはなかった。
オルゼムが放とうとした魔法は一ミリも前に飛ぶこと無く、自身の体内を駆け巡り、更なる大ダメージを負っていた。
「くわ……、く、わ、ぁ……」
「だ、大丈夫か!?」
心配する俺も俺だが。ともかく。
勇者状態の奴が術者へと危害を加えないよう、そのバニーガール衣装には『セーフティー』が設置されている。
どう説明したものか。
ベルはそもそもニンゲンに攻撃できない縛りがあるので、アリスで例えよう。
彼女が、明確な敵意を持って俺に攻撃を仕掛けてきたとする。その場合、俺では抵抗することが難しい。
なので、アリスが意思を持った攻撃を行った場合、それがペナルティとして対象者に還るようになっているのだ。
「そうじゃないと、俺が機嫌を損ねただけで死んでしまうことにもなるからネ……」
まぁ判定としてはガバガバで。
例によって、ベルが建築物を破壊したときの巻き添えなんかは、思いっきり食らうんだけど。
ただ、ことこの場においては。俺とオルゼム、二人しかいないわけで。
つまり、彼女が行う全てのアクションは、明確な俺への攻撃なのである。
「攻撃しない方がいいぞ……っていう脅しを入れる前に、やっちまうんだもんな……」
そのペナルティたるや、とんでもない威力だと聞き及んでいたんだが。
まさか目の当たりにするとは思わなかった。
「つーか、アリスの件もそうなんだけど。これまでベルと二人だけだったから、初めて経験することが多くてびびる」
二人だけでは気づけなかったことが多い。
俺も俺で一対一で敵対したことはあったのだが。時間を稼いでいるうちにベルが到着というパターンしかなかったので、ここまで相手を御せたのは初めてなのだ。
うーむと感心していると、ぼろぼろになった彼女の声が、うすらと聞こえてきた。
「ぐぅ……、わ、わたし、の……、理想のために……ッ!」
痙攣しながらもなんとか立ち上がり、彼女は更にこちらへ手を向ける。
いや、待て。待って欲しい。まさかコイツ……!
「『明滅する一陣閃光』――――ががががががッッ!? な、なんの、まだまだ! 『明滅する一陣閃光』ぐぉぉぉぉッ!!? これ、しき……! フラ、『明滅する一陣閃光』ごあああああああッッ!!!??」
「オ、オルゼムさぁぁぁぁぁん!!?」
見上げた根性だけども! 打てば打つだけ自分に跳ね返ってくるから!
「やめろっての! 意地になるな! いやマジで!」
「ま、まだま、だ……! わ、わらひの魔法、は、反射ごちょきではとめられ、にゃ……」
体内からバチバチと魔法光が炸裂する。
……なるほど。今彼女は、俺のことを単なる反射魔法の使い手だと思っているわけか。
結果は同じでも起こっている内訳は違う――――のだが、まぁ、これまでの経験からして、『概念的にペナルティを受ける』なんて、想像できないよなぁ。逆の立場なら、たぶん俺も同じような道を辿っていただろう。
ばたりと倒れる女漢は、バニーガール衣装の身体をびくびくと痙攣させながら、声を振り絞った。
「くっ……、こ、殺せ……」
「それ確実に俺が悪い側ですよね!?」
おかしい。勇者の力を使って悪い奴を懲らしめたという構図のはずなのに!
完全に、女武将を生け捕りにし、凌辱の限りを尽くした魔王の姿みたいになっていた。
「ご、後生だ……。このまま貴様の慰み者になるくらいなら、死を選ばせてもらう……!」
「ちょっとまて、どうしてそういう話になってんだ!?」
俺の疑問に対して、オルゼムはもう観念し尽くしたかのように口を開いた。
「明白、だろう……ぐはっ! なにせ、ダメージ自体はあるのにも関わらず、それは内側のみだ……。外傷がなく、衣装にすら傷をつけていないということは……、私をその、そ、そういう処理道具として――――」
「あぁっ! そういう解釈になるのか!
ちげーよ! んなこと全く考えてないわ!?」
頭を抱えて誤解を解こうとするも、それもそこそこに。今度こそオルゼムは気力尽き、その場に気絶してしまった。
ポン! と可愛らしい音が四つ響いて、仮装着の魔法は解ける。その場には、三人の男と女将軍を、傷一つなく制した俺の姿があった。
「う、うぇーい……? 大、勝利ぃ……?」
よく分からない感情のまま勝鬨を上げ、俺は中途半端に拳を上げるのだった。
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