7.魔方陣の在処
「酷い……、酷い目に……、遭った……」
「とりあえずお疲れサマ……」
前回までのあらすじ。
この作品はR15くらいの作品なので、皆様が思うような展開の事は、決ッッッしてありませんでした!!
「で……、どうなったんだアリス?」
「え……? あぁいや、ベルの指が肩口に触れたかと思えば、するりと谷間へ流れ込んできて……。更に奥深くに滑り込んで来たかと思ったとたん、背筋から足先にかけてぞくりと快楽のようなナニかが……」
「違う! 行為の内容じゃなくて協力の内容!」
この作品はR15だから!
お前は高潔な騎士のはずだ! そうだろう!?
「あ……、あぁ! 協力の内容、だな! うむ、それはもう、とてもしっとりとした……否、しっかりとした内容だったぞ!」
「そ、そうか! そいつは良かった……」
そんな俺たちの様子を見て、他人事のようにクァハハハと笑う勇者。
うん、ベル。とりあえずこの事件が一段落ついたら、後でお説教だ。
説き伏せられるかは不明だが、やるだけのことはやってみよう。
「とりあえず……、『行動』の制約を設けた」
「『行動』の? えっと……?」
というか、制約って何だ?
俺が不思議そうにしていると、無駄につやつやした顔でベルは言う。
「ぬしとはいきなり最上位の契約となってしまったので使っておらなんだが、通常ワシのような『良くないモノ』に頼るときには、何かしらの契りを結ぶんじゃ」
「ちぎり」
「うむ」
オウム返しの俺の言葉に対し、アリスもベルも、同時に頷く。
どうやらアリスも、ベルの言っていることは分かっているようだった。
「ベルが人間ではないということを分かった前提で話を進めるが……、本来こういったモノの力を顕現させるときはな、コースケ。こちら側から頼み込み、地上に『お越しいただく』というケースが多いんだ。
だからその代償として、こちらの行動を縛ったり、逆にベル側に制約を設けたりして、強さのバランスをとったりする」
「えーっと……」
説明割愛。
要約すると。
ベルの力を完全に引き出すのに一万円かかるとする。そのときこちらの所持金は百円しかないとき。取れる手段はおおまかに二つらしい。
一つは、百円分の力を借り受ける(身に宿す・顕現させるなど)。
当然一パーセントの出力しか出ないので、強さはそれなりにしか出ない……というパターン。
もう一つが、こちら側が払うお金の前借りである。
どうにかして後から千円払うから、今、十パーセントの力を出してください! というパターン。
当然代価を払えない場合は、術者の命で払わなければならなくなるし、本人だけではなく周囲にも被害が及ぶこともある。
「今回は二つ目のパターンの、変則形だ」
「変則形?」
「先に金を支払った。なのでベルは、強制的に私の『利になる行為』をしなければならない」
「んん? えっと……、すまん。よく分からないんだが……」
俺の質問に対して、背後からアリスの肩をがしりと掴み、ベルが上機嫌で答えた。
「つまり今ワシは、ぬしのペットであると同時に、アリスの奴隷でもあるという状況じゃのう。従順な奴隷に成り下がったワシは、こやつの命には何でも従わなければならんというワケじゃ」
「何で嬉しそうに言うんだよ」
「くるる……♪ いつなじられるかもわからんと思うと、ちょっと興奮するじゃろ」
俺はそうは思わないかな!
まぁそんな問答はどうでもよくて。
「アリスの利になる行為ってことは……、戦闘行為ってことだよな?」
「それだけではない。
街を最低限破壊しないことと、人を極力傷つけないこと。この二つに気を配りながらも、あの『象』だけを駆逐していく。これを、彼女との契約に刻んだ」
「そこまで具体的に出来るのか」
「真っすぐで良い魔力じゃったわい。すんなりカラダに入れ……あぁいや、身体に染みわたったぞ」
「あぁうん……、ソウデスカ……」
詳しくは聞かないことにしよう。
しかし成程。『行動』の制約とは、そういうことか。
これでベルはこの制約がある限り、アリスを経由して、力を出すことが出来る。
「アリスだけではなく、ぬしとの契約も勿論続いておる。
じゃから、ワシの身体には二つの契約パワーが流れることになるのう」
「それは……、良い事、なんだよな?」
「じゃの。
戦闘の馬力をアリスとの契約で。不安材料であった体力部分に、ぬしとの契約パワーをあてがうことにする」
ベルの言葉にアリスは頭を抱える。
「普通はそんなふうに、どこに何の力を使うかなど、配分することなど出来んと思うのだが……」
「クァハハハハ! こちとら千年単位で、力を貸し付けたり顕現に応じてきた『良くないモノ』じゃぞ? それくらいの配分、朝飯前じゃ」
「そうか。じゃあ、信じるぜ」
「うむ」
まぁなんにせよ。
俺はふぅと息を吐いて、状況を整理する。
「じゃあ……、二手に分かれる作戦で、大丈夫だな?」
「応とも」
「あぁ」
アリスの心配も、一先ずは大丈夫だろう。
彼女の身に何があったのかは置いておき、俺はよしと言って立ち上がる。
「それじゃあベルは、陽動で突っ込んで行ってくれ。俺たちは、魔方陣自体を解除しに行く」
「ほう?」
眉を吊り上げ、ベルは質問した。
「しかしそれは、軍内部に設置してあるのではないか? それこそ、あの『象』らの群れを抜け、中に居る洗脳済みの兵士たちを突破しなければ、その陣へはたどり着けんと思うのじゃが」
「それが……、そうでもないと思うんだ」
確かに前提条件としては。軍内部に居る、術者自体を倒すことだ。複数人なのか一人なのかは分からないが、そいつを無力化できれば事件は収束するだろう。
けどそれは、今言ったように、あまりにも危険が多すぎる。だから、別案に絞って考える。
「魔方陣の完全破壊じゃなくて、魔方陣の弱体化なら出来るかもしれない」
「ふむ?」
「なぁアリス。この街で一番の魔力を持った軍人って、誰か分かるか?」
俺の問いかけに彼女は顎に手を当て、少考して答えた。
「そうだな……。おそらくオルゼム大尉だろう。あの方は武力だけではなく、元々は魔法使い一家の出だ。そちらの心得と知識もあるはず」
「そうか……。それじゃあその人って、歴史に名を残すレベルで凄い魔法使いだと思うか?」
「ん……。それは……、流石に無いな。
あの方の功績は認める。しかし、単純な魔力だけで考えると、中央のエリート宮廷魔術師、くらいに留まるだろう」
「なるほどな。ありがとう」
ま、本当ならそれでも十分凄いんだけど。
だけどやっぱりだ。流石にそのレベルの魔力量でこの規模の召喚魔法を行使しようと思ったなら、桁違いの魔法陣が必要となる。
軍本部の面積……いや、それ以上の面積。つまり。
「――――街、全体か……!」
アリスの言葉に俺は頷いた。
けれど少考ののち、だがと彼女は声を上げる。
「魔方陣の式は、緻密に線を引いて描いていかなければならないものだ。しかし、地面に不穏な落書きなど無かったぞ?」
「線を引くのは地面じゃない。空だ」
俺はここからも目に入る、街の飾りつけをぴっと指さした。
色とりどりの模様が、流れる大気にはためいている。
「なる、ほど……。祭りの催しである、飾りつけか」
そう。三日後に開催されるという、収穫祭。
それのための装飾を、今年からは軍本部が手伝ったという。
「もしもそれが、魔方陣制作の、カモフラージュのための協力だったとしたら」
建物と建物の間には、飾りつけのために、ロープが括りつけられている。
それが一本一本。
魔方陣の線になっていたとしたら。
「……っ!」
軍本部は街の中心だ。そこを魔方陣の中央だとしたら、そこ周辺のどこかに、魔方陣を形成している、核となる部分が点在している可能性が高い。
「俺には魔法の知識も、この街の知識も無い。けど、アリスなら……」
元々魔法の知識もあるだろうなぁと踏んではいたのだが、先ほどの、ベルとの契約を共に説明している姿を見て確信に変わった。
「お前なら、魔法の式を壊す術が分かるだろ?」
「あぁ……! この方陣が、『召喚魔法』を基礎としているのであるならば。より魔力を込めなければならない地点を、導き出せる……!」
そして二手に分かれた後、俺たちは街中を走り回り――――、この鐘塔へと向かうことになった。
魔方陣解除の、第一チェックポイントだ。
「アリス、この場所だっていう根拠は?」
鐘塔の中へと入りつつ、俺は彼女に質問をした。
塔の階段を駆け上がりながら、彼女からの説明を受ける。
「魔方陣の中心を軍本部だと仮定した場合、おそらくこのあたりに、重要な術式の一部が描かれているはずなんだ」
「そうなのか」
「あぁ。もしも魔方陣必要な『神聖さ』を、この土地に昔から在る『馴染み』や『認知度』というものに置き換えて力を得ているとしたら……。おそらくキーとなる式は、街の目立つ場所に描かれている可能性が高い」
「へ、へぇ……?」
ううむ。
言っている内容が半分くらいしか分からない。
俺の地頭の悪さもあるのだが、それ以上に。
「くっ……! んっ……!」
走っている彼女の背中を、今度はとんでもない角度から見ているためだ。
先ほどはちらちらと、長い髪の間から背中が見えるくらいで良かったのだが、今度はそこに『高低差』が追加された。
その結果、足を動かすたびに動く尻肉が、むちぃ、むちぃと目の前で唸りを上げている。
筋肉と脂肪の入り混じった、とてつもない上質な尻肉だった。
「くっ……、今度はっ……、俺が真っすぐ走れなくなる……!」
「……?」
訝し気な彼女の視線を受けつつ、俺は気持ちを鎮めるためにも、術式のことに意識を向ける。
「……とりあえず、術式解除のための式は、街でも目立つ場所に掲げられているかもしれないということだけ理解しとけば大丈夫かな?」
「そんなところだ」
言いつつも、俺たちは確実に塔を登っていく。
ダカダカという重苦しい俺の足音と、カツカツというアリスのピンヒール音が鳴り響く。
場所が螺旋階段なだけに、駆け上がるというよりも飛び上がるといった移動方法に近い。
「これ……、ピンヒールなのに、どうしてこんなに足元が安定してるんだ?」
「それも概念的なモノだからだよ」
物理的にはピンヒールのカタチをしてるんだけど、足元は通常の靴や鎧と同じような感覚で動くことが出来る。
……なんかよく分からんが、そういう原理らしい。
「何だか気持ちが悪いな……。履いているのは確かにピンヒールで、足首も斜めになっている。だから、絶対に走れるはずがないし、ましてやこんなに高く飛べるはずがない……のに」
それとは裏腹に、彼女はとんでもない跳躍力を見せる。
分かりやすく言うと、これもある意味『神様魔法パワー』である。だから俺は、無理に原理を理解しようとするのはやめた。
魔法の世界に住むアリスたちでさえ戸惑うほどのチカラだ。そもそも魔法と言う概念に慣れてない俺が話を聞いても、絶対に理解なんぞ出来っこない(だから無理に説明もしない)。
「じゃ、じゃあきみの身体能力も、そういったものなのか?」
「え? あぁ、俺のは別。俺のチカラは、ベルから流れてきてるもの……らしいし」
「またもや曖昧だと!?」
「え? あぁまぁ……。だって俺なんかでは(以下略)」
「き、きみなぁ……」
アリスが何かを言おうとして、こちらを向いた直後だった。
鐘を突くための空間であろう場所から、何やら不穏な影が降ってくる。
「アリス!」
「え? な……ッ!」
見るとソレは、とてつもなく肥大化したコウモリのようなモンスターだった。
獰猛な牙と爪をこちらに向け、塔の最上階から真っ逆さまに急降下してくる。
「グルアァァァッ!」
「くっ!」
アリスはその身を大きくよじり、緊急回避をした。
「舐めるな! ――――ひゃん!?」
そして思い切り、俺の顔面に肉付きの良い尻を押し付けるかたちとなった。
思わず反射的に両手で腰を掴んでしまう。
鍛えられた細い腰が、びくりと揺れる感触が伝わってきた。
「きしゃ、ま、ソコ、弱い……、ん……ッ!」
「す、すまん!」
「ぐるぁぁぁッ!」
急降下したコウモリは、すかさずターンし、今度は急上昇してきた。
手すりもろとも切り裂くつもりなのか、鋭い爪を再び振るう。
「……く、」
「アリス、さっき教えたやつだ! 武器を出せ!」
俺の声に。狼狽していたアリスはすぐさま状態を立て直し、「そうか!」とつぶやく。
そして。
その魔法を、口にする。
「ウ……『武装装填』ッ!」
光る。
アリスの腕の先が、青白く光り輝いて。
「こ、これ、は……っ!」
光の中より。ソレは顕現する。
銀に輝く鋭い物体。
無から有を一時的に生み出す、勇者が使える物体顕現の魔法。
「が、ア、ア、ァ、ァ……、」
突撃してきた怪コウモリは、一秒後、真っ二つに切断されることとなる――――
そして……。




