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2.プロローグ前、こんなことがあったんです・2


 世界の認識を改変せよ。

 なんて言うととてつもなく複雑そうではあるが、やることはこれまでと変わらなかった。


 とにかく悪い奴らを倒す。懲らしめる。基本はコレである。

 隊長という立場になったとはいえ、基本的には戦力が足りていない。なので、俺もこうして現地に向かっている。


「ただ少しだけ違うとしたら……、勇者・ベルアイン軍団ってところくらいか」

「四か月経っても、違う名前の候補は浮かばなかったね」


 そう話しながら山道を登る金髪碧眼の美人女騎士、アリスの後ろに続く。

 日常会話をしながらも凛々しい瞳で、周囲をしっかりと警戒してくれている。


「チームの名称候補、いっぱい出したんだがなぁ……」

「いや、あれらはちょっと……」


 ベルアインズ、魔竜の使徒たち、コースケ・ウィズ・ベルアイン~人外娘たちを添えて~、などなど、最高の名前を考えてみたのだが全員に却下された。分かりやすくダサいのが敗因だそうだ。オッサンのセンスはもうぼろぼろ。


「そういうのに頓着が無さそうなベルでさえも拒否ったからなぁ……。センスの無さを再認識したよ」

「まぁ名称はもう『勇者・ベルアイン軍団』でいいだろう。元より我々の目的は、『ベルアイン』という名前を『勇者』のイメージとして定着させることなのだから。シンプルな方が良いさ」

「ま、そうだな」


 頷きつつ、山を登るアリスの尻を眺めた。





 普段は軽鎧(ライトアーマー)を装備しているが、今日は軽めのシャツに足を出したショートパンツだ。足を動かすたびに、左右の尻肉が左右に持ち上がっていく。

 最近はバニーに変身することに慣れてきたのもあるのか、はたまた白・黒ギャルズの影響か、多少の露出は気にしなくなってきたみたいだ。ビッチ堕ちみたいで興奮する。さすがに言わないけど。


「ベルのためにも、少しずつ『勇者』のイメージを強めていかなければなるまい。気を引き締めて行こう」


 ……うん、引き締まったいい尻だ。この肉感的な尻は何度見ても飽きないなぁ。筋肉と脂肪が混ざり合った、とてもむっちりとした美尻。控えめに言って最高なり。


「それに私たちが気にしなければならないのは、知名度のバランスだしね」

「うん……、バランスの良い肉だな」

「……肉がなんだって?」

「はっ⁉ い、いや、何でもないぞ……⁉」


 いかん。ついつい本能に任せて頷いてしまった。邪念を取り除く。

 しかしバランス……。バランスねぇ。


「ベル、ホントに大丈夫なのかなぁ?」

「本人が大丈夫と言っている以上、それを信じるしかないだろう。それに彼女は、意地を張ることはあれど、弱みを隠す様なタイプではないだろう」

「そうだな。今までもヤバイときには素直にヤバイって言ってたし」


 魔竜・ベルアインの現在を、少しだけ整理する。

 現在のアイツは、強さが全然安定しない。出会った頃の無法な強さを、発揮出来るときと出来ないときがあるのだ。

 というのも。

 ベルアインがあんなにも強いのは、世界中から『恐れ』られている概念が強さになったものである。

 人々の根幹に『魔竜=怖い』という気持ちがあればあるほど、強さは増していく。

 しかし俺たちが現在行っているのは、『魔竜は怖くないですよ』というアピールでもあるわけで。

 つまり、この先ベルが勇者として認識されればされるほど、魔竜としての強さは失われていくのだ。そしてそのせいで、気候だったり魔力の流れだったりで、日によって――――下手したら一日の内にも、強さがころころ変わったりする。


「あと、これよく分かって無いんだけどさあアリス?」

「なんだ?」

「仮に世界中の人が、『ベルアインは魔竜ではない』って思ったとして……。そうなったことで、『魔竜・ベルアイン』自体が消滅するってことは無いんだよな?」

「そのようだね」


 俺の疑問に頷き、アリスは続ける。


「あの後ヘリオスちゃんにも個人的に確認しに行ったけれど、そういうことは無いそうだ。何でも、人が忘れても大地や自然が覚えているから、とのことで」

「この世界そのものが、ベルアインが居たって事実を記録しているから消滅しない、と……」

「そういうことだね。

 だから仮に、この世界の人間全員が滅んでしまっても、『世界』そのものが残っている限り、ベルアインのような存在は残り続けるということになる」

「……それはそれで悲しいな」

「極論だけれどね」


 まぁ何が言いたいかというと。

 俺たちが『魔竜・ベルアイン』を、『勇者・ベルアイン』にすることに、懸念点は無いという話で。

 これからもバシバシ勇者活動をしていこうということである。

 問題があるとしたらベルの強さだが、アイツは元々自分の強さ自体には興味ないやつだからなぁ……。


「彼女は、『戦う』こと、『挑む』ことが好きなだけで、絶対強者である自分が好きなわけではないからね。よく勘違いされがちだけれど」

「意外なことにな……」

「そして、実はけっこう頭も回る。逃げる時には逃げるからね」

「そうなんだよな。『差し違えてでも勝つ!』とはならないんだよ実は」


 対ルーチェ戦のときもそうだった。

 ルーチェにムカついたから挑みはしたものの、勝機が無いと判断したら逃げの一手も打つ。存在(いのち)あっての物種だと、根本的なところでは理解しているのだ。

 まぁだからこそ。アイツの強さに、ムラを出してやりたくない。

 勇者のイメージの流布は。

 しっかりと、だが一気にはやらず、少しずつバランスよく行っていくのが良いというのが、俺たちの結論だ。


「それでも不安定だからね、彼女の強さは。それに、本格的に勇者を目指すとなったわけだから、今まで以上の制限を設けられてしまった」

「あぁ……、『人に危害を加えないこと』の上位版、『人のいるところでは全力を出せない』っていう制約だな……」


 前までは、人間種に危害を加えなければ、全力を出すことは出来た。

 しかし今は、万が一にも事故を起こせないということで。

 新たな縛りとして、『人間種がいる場所では全力を出せない』というものが敷かれたのだ。


「今ベルは、大都市・アルゴールで休暇中だろう? だったら確実に全力は出せないね」

「そうだな。どこに居ても人がいるだろうし」


 まぁ休暇というのは半分建前で。

 弱体化状態の自分に慣れてもらうというのもある。

 いざというとき。弱体化した状態に不慣れなせいで、敵の攻撃を回避できなかったら本末転倒だからなぁ。


「だから、仮にアルゴールに敵対勢力が居たとしてさぁ。今のベルの強さを見たら驚くだろうなぁ。なにせ、そこまで強くないんだもん」

「そうだね。只者ではない空気を纏っているのに、そこまで強くはない。……だけど時間が経って会ってみると、強さが一変している。そんなことにもなるだろう」

「言っててなんだけど、敵対するのに相手の強さが測れないって一番嫌だな……」

「だね。ただ実際、そのときのベルは強くはないワケだから、ピンチと言えばピンチなんだろうね」

「まぁ、アルゴールは大都市だからさぁ。街中でいきなり戦闘吹っ掛けてくるような馬鹿はいないだろ」

「そうだね。まさか、街一つを丸ごと潰す作戦でも立てる馬鹿でも出ない限り、そんなことにはならないだろう」

「だなぁ。ま、バニーは目立つんだけど」

「されても監視程度だろうね」


 ……何かのフラグみたいな会話になってしまった気がするがともかく。

 現在ベルは、大勢の人の、営みの中に居る。

 日常を体験してもらっているわけだ。

 まぁ、バニーの姿は解除できないので、そのままの姿になっちゃうんだけど。


「変なところで戦闘狂に火がつかないといいんだけどな。例えば大食い大会とか」


 バレたらバレたで、ベルアイン=勇者だと布教するフェーズに移行するだけだから良いんだけどな。……でも無用な騒ぎを起こして欲しくはないんだよなぁ。

 変な組織に目を付けられたら、それはそれで困るし。


「大丈夫だろう。彼女もだいぶ、ヒトというものが分かってきているみたいだし。……それにベルの『戦闘狂』な面は、そういうものではない気がするし」

「どういう意味だアリス?」

「いや……、何でもないよ。とにかく先を――――おっ、着いたね」

「マジだ……。雑談してる間に到着したかぁ」


 山を登り、登り切る。

 そこに見えるのは、今回のターゲットである『魔獣王国』の本拠地である。

 この辺りの山々を取り仕切っている獣人の軍団で、そろそろ世界転覆に向けて動き出しそうである――――というのを、ヘリオスちゃんがキャッチした。


「今回は出来るだけ秘密裏に潜入して、リーダー格だけブッ倒す、だったな……?」

「そうだね。正面から潰してしまうと、他の組織にも情報が知れ渡ってしまうかもしれない。今後のことを考えると、こちらの手の内はできるだけ伏せておきたいしね」

「確かになあ。リーダーのところに向かってる間に、手を組んでる組織に情報を流されないとも限らんし……」

「そういうことだ。時間はかかってしまうけれど、ここは慎重に最奥へと侵入しよう――――」

『コースケさんアリスさん、聞こえますか⁉ ベルさんが休暇している街が、丸ごと地中に鎮められようとしています! 至急応援をお願いします!』

「「……………………」」



「よし」

「時間をかけず、正面から潰そう」



 まぁその、俺もアリスもね。

 ベルのことになると、後先考えなくなっちゃうから。






 ――――そして、邪神・クァルボスを倒したのち、今に至る。


「…………あー、…………つかれた」

「これは参りましたねぇ」

「思った以上に、コースケの負担が大きいな」


 天界(わがや)に帰って早々、テーブルに突っ伏す俺に、ヘリオスちゃんとアリスがため息をつく。

 俺だって立ち上がりたい。立ち上がりたいけど……、ちょっと休ませて……。


「楽に……、楽に生きられるところはどこ……? ここ……?」

「むぅ。確かに私は昔、きみに『楽に生きろ』と言ったけども」

「楽な道はありませんねえ」

「マジで、神の仕事多忙。ルインのやつ、こんだけ大変なことを一人でやってたのかよ……」


 現在俺の体力を虐めにかかっているのは、三つの要因だ。

 一つは、先述した、敵がいつ来るか分からない問題。

 ただまぁこれは、生活が不規則になるだけなので、少し我慢すれば大丈夫だ。

 問題は、二と三。


「『味方をバニー化させなければならない』問題と、『現地でコースケが実際に力を使わなければならない』問題、か……」

「だなぁ……」


 うなだれたままアリスに返事をする。

 先日の邪神・クァルボスとの戦いは、まさにフルコースだった。


 突如の襲来ということで、俺はアリスとの出先から、休みを取らずベルたちのいる街へと向かった。体力マイナス五。

 次に、悪魔たちが予想以上に強かったので、全員をバニー化させる必要があった。仮装着(ドレスアッパー)四人分使用で体力マイナス五十。

 そして、クァルボス自体をバニー化させ、無力化させなければならなかった。格上相手への『仮装着(ドレスアッパー)』使用で体力マイナス五百。

 ちなみに体力上限は百なので、気分的には限界を超えている……。


「まぁまぁコースケさん。あともう少しの辛抱です。今回の件で、オーフニーグル地方にも監視員が出来たわけですし。コースケさんが現地に行く回数が減るのも時間の問題ですので」

「そ……そだね……」


 ヘリオスちゃんの言葉に少しだけ元気をもらい、俺はよっこらせと身を起こした。


「問題の二。味方のバニー化だな」

「はい! こちらはもう間もなくどうにかなります」


 ここで、下界の協力者たちの意味が出てくる。

 ヘリオスちゃん曰く、魔力の中継器、とのことで。


 例えば、アリスを地上でバニー化させるとき。俺の魔力が百必要だとする。

 その場合、俺も現地に向かい、有効範囲内へ待機したまま、アリスに魔力を送るのだが。

 協力者(ちゅうけいき)居る(ある)場合、俺が現地まで行かずとも、天界から魔力を送るだけでバニー化できるのだ。

 まぁその分、アリスには半分のバニー力しか与えられないし、必殺の武器である武装装填(ウェポンズ)も使用できないんだけど。

 ただ、純粋に選択肢が増えるので、協力者は多ければ多い程いい。

 条件は、過酷な戦況でも潜み続けられるような、ある程度の強さを持った者。そして……。


「ベルが気に入りそうな、美女・美少女、かぁ……」

「きみの周りは女の子ばかりが増えていくねぇ」

「正確には、ベルの周り、だけどな……」


 俺が望んでるみたいに言うのはNG。

 いや可愛い子眺めるのは目の保養だけどさ……。

 何にせよ現在、問題の二は解決に向かっている。

 では最後。問題の三。俺が実際に力を――――仮装着(ドレスアッパー)を敵に使用しなければならない問題。


「むしろこれが一番大変なんだが⁉」

「頑張ってください!」


 実はコレ。前回のクァルボス戦で、初めて試みたことなのだが。

 予想以上に体力が持っていかれた。


「大きな魔力や瘴気を持った者を『仮装着(ドレスアッパー)』で鹵獲(ろかく)して、こちら側のエネルギーに変換する、かぁ……」

「分かりやすく言えば経験値ですね。仮装着(ドレスアッパー)でレベルアッパー!」

「ヘリオスちゃん、おもしろくない……」

「おっと、スベリ芸になってしまいました」


 ともかく。

 今回のように、単体で大きな力を持った敵が出て来た場合。

 ただ倒すのでは、そのエネルギーが勿体ないとのことで。その力を少しでも回収して何かに用立ててみようという試みである。

 なんでもヘリオスちゃんの知り合いに、どんなものでも経験値(リソース)に変えてくれる女神がいるとのことで。魔力や瘴気エネルギーを回収して渡しさえすれば、こちらで好きに使って良い『神聖パワー』が得られるのだそうだ。


「それで出来たのが、広範囲のレーダーですね! これで更に察知範囲が広がりましたので、コースケさんをギリギリまで休ませてあげられます!」

「まぁ、少しでも休めるようになるのは良いことだけどな……」


 十の回復のために百の疲れを要するのは、果たして効率がいいのか悪いのか。

 まぁそれ以外にも、戦力の拡充とかにも回せるから、回収するに越したことはない……ということが、今回分かったわけだけど。


「しかしながら、無理は禁物ですね。疲れているときの回収は諦めて、ちゃちゃっと倒してしまいましょう!」

「倒せることが前提なのが、すげえことだよなぁ……」

「それは私も同意だね」


 どんなに強くなっても、どんなに偉くなっても。そこは我々、元々一般人である。

 人外めいた強さに慣れていくのは、まだまだ先の話だった。


「しかし……、それにしても疲労しているね」

「おう……」

「ふむ……。それでは、背中でも流そうか」

「……ん?」


 ぐいっと手を引かれ、強引に立ち上がらされる。

 アリスは「それではまた、ヘリオスちゃん」と言って、作戦室を後にした。

 向かう先は大浴場。

 湯煙の、ワンダーランドである。






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