1.プロローグ前、こんなことがあったんです・1
ヒナとヴァートが仲間になって、
ついでにルーチェも仲間になって、
家を手に入れて、
みんなでバカンスに行ってから、
なんと四か月の時間が経過した。
その四か月のことを思い返してみようかなと思ったけど、あまりにもカオス過ぎて鼻水が出るだけに終わってしまった。
はい、どうも。コースケ・フクワリです。
四十歳になって半年ほどが過ぎましたが、最近疲れが取れません。
「今に始まったことじゃないけどな……。この異世界に来てから、心身ともにずーっと疲弊している気がする」
「そうですねコースケさん。分かりやすく疲れています」
フムと息をこぼす、十六歳くらいのはつらつ女子。
輝かしい金髪をぴっちりと七三分けにしており、聡明そうなおでこと顔立ちが今日もまぶしい。まぁまぶしいのは、全体的に神聖チックな白い服を着ていて、物理的に輝かしいというのもあるんだけど。
俺が「元気だねぇ」と伝えると、彼女はいつものにっこり笑顔でこう返した。
「はい! コースケさんを見るだけで元気になりますとも!」
「素直に照れる……けど……、今はそんな元気もないな……」
「うーん、ダメですか。お疲れですねぇ」
肩を揉み労ってくれる彼女に苦笑いで返す。
まぁ、無理もない。
あの激戦の後。俺の立場は、とてつもなく変化してしまったのだから。
「ただ、そうも言っていられないのも事実。さぁさぁ、今日も頑張りましょうコースケ隊長! 皆さんが指揮を待っていますよ!」
「待って無いと思うんだよね……」
「そうでしょうね。ですが名目上は、あなたの号令が無ければ出動できないのです。さ、お仕事ですよっ!」
「は~い……」
腰を叩き、肩を回し、軽く伸びをしながらヘリオスちゃんの後に続く。
さて。
俺の身に――――というか、世界に何が起こったのかというと……。
「コースケさん到着です!」
「おっせ~。おつおつ~」
「たるんでいるぞコースケ。仮にも君は隊長なのだから、もう少しシャキッとだな……」
「まぁまぁイイじゃんアリしゅ~。寝起きのコーにゃんもかぁいいって」
「わらわもねむひ……。ヒトの身体めんどい……」
「クァハ。ようやっと来おったか」
「……へぇい」
みんなに迎えられる。
現在俺はここにいるみんな――――魔竜・ベルアイン、魔剣・ヴァルヒナクト×2、魔法・ルーチェリエル、女神・ヘリオス、人間・アリスをまとめる、『勇者部隊』の隊長なのである。
隊長……指揮官と言ってもいい。
俺が指示を出し、危険区域に出向いてもらう。そしてそこで事件を解決してもらい、世界を安定させる。その長である。無理ゲーである。胃が痛いのである。
「…………どうしてこうなった」
「またコーにゃんが頭抱えてるワロ」
「もうちょっと楽に考えればいいのにね~」
「変に真面目なところが可愛いんじゃ♪」
「真面目にしてもらわなければ困るからな」
……うん、頑張って行こう。
さて、こうなったのには訳がある。
遡る事四か月前。
現在この世界を治める神様からの言伝を、ヘリオスちゃんから聞いたのだ。
「神様……ルインの代わりに、世界を正して欲しい?」
「そうなのです!」
「いや無理でしょ」
元気に応えるヘリオスちゃんに、俺は即答する。
話の内容は、先述した通りのものだった。ヘリオスちゃん含む六人――――俺を入れたら七人の戦力で、この世界を平和にしてほしいとのこと。
「勿論仲間は増やしても構いません。現状がこの七人というだけです」
「いやそういうハナシではなく」
更に更に話をまとめると。
この世界は元々、良くないモノが溜まりやすい不安定な世界なのだそうで。
理由は様々。魔力だったり瘴気だったり、世界を安定させる幕が薄いだの減っただの穴が空いてるだのと、元々現代日本で暮らしていた俺にはま~~~~~~~~理解できないカンジだった。
ともかく不安定なんだってさ。
良くないモノが来たり、良くないコトが起こったりするんだとさ。
「これまではそれを排除するのは、ルイン様のお役目でした。しかしルイン様は現在、世界をこれ以上悪くさせないために奔走する任務に当たっています」
「手が空いてないってワケか」
ヘリオスちゃん特有の、分かりやすい例えによりそこだけは理解できた。
神様の手は空いていない。だから、戦力が懐いている俺に、その任が回ってきたと。
「元々この天界における、私、女神・ヘリオスの仕事は二つ。
一つは、魔竜・ベルアインの管理。もう一つは、世界の異常を予見し、ルイン様及び他の神々に報告することなのです」
「なるほど……。つまりこれからは、ヘリオスちゃんがキャッチした異常現象を、俺たちが解決することになる、と……」
「そういうことですね!」
「分かりやすい説明ありがとう。そしてそれでも言わせてもらうけど、無理じゃね?」
「どうしてです?」
否定に次ぐ否定で非常に申し訳ない。だけど、凡人たる俺にはかなり難しい問題だと思われた……んだけど。
しかしながら彼女は、様々な分かりやすい説明で、俺の不安をほとんど拭い去ってくれた。
「分かりやすい説明って怖い……」
「はい分かりやすい!」
説明という名の暴力だった……。
①例えば移動手段。
今いる展開を拠点とし、異常事態が起こっている場所までワープが出来るのだという。
②例えば事件の同時発生。
そのための七人なのだという。戦力には、ヘリオスちゃん自身も含まれていた。
③例えば俺の安全性。
神代の防御魔法がオートでかかっているから、ルーチェの大魔法くらいの威力じゃないと傷一つつかないらしい。
4⃣例えば……みんなの安全性。
「…………あの方たちのピンチ、想像できます? 仲間割れ以外で」
「…………ソダネ」
という風に。まぁ、だいたい大丈夫そうである。
「――――そう、俺の体力以外はな……」
「さぁしゃきっとしろコースケ。私とヴァートはどこに向かえばいい?」
「わらわと魔竜はどこに向かうんじゃ? 体力よわよわの雑魚ニンゲン♪」
「ちょっと待ってくれよ、今考えてるから……」
何せ事件は、世界各地で起こっているのだ。ということは、朝とか夜とか関係なくて。
一週間何もないときもあれば、一週間ずっと働き詰めのときもある。
「め、めざせ……、働き方改革……ッ! ……がく」
誰か。事件発生にシフトを作ってください。
あとですね。みだりに世界征服とか考えないでくれますか。大変だから。
こうして俺は、大戦力をまとめる隊長と成った。
まぁ……、弱音を吐いてはいられないんだけどな。
だって――――
「……チャンス?」
「――――そうです」
あの説明の後。
ヘリオスちゃんは、俺に『続き』を話した。
世界を救うという任務の、もう一つの意味を。俺が世界を救うことに、どういう意味があるのかを、彼女は口にする。
「ベルアインがどうして『畏怖』の対象となっているのか、分かりますか?」
「そりゃあ……、大昔に人間を大量に殺した――――っていう伝説が、世界各地に広まってるから、だろ?」
「そうですね。私のせいです!」
「……いや、それはさぁ」
「まぁそこは置いておきましょう。女神の自虐ジョークです」
「踏み込みづれ~……」
若かりし頃のヘリオスちゃんにも、色々とあったのだ。
ともかく。
「人々の『伝承』が、ベルアインを恐怖の対象としてカタチ作っている。もっと言えば、この『伝承』――――認識が弱まらない限り、ベルアインは永遠に人間からは恐れられてしまうでしょう」
「……そうだな」
そして、その伝承を弱めるなんて無理だろうと思う。
何たって何千年も前から語り継がれてきた恐怖のおとぎ話だ。
たとえば。
桃太郎に倒されるのは『鬼』と相場が決まっていて、その『鬼』がベルだと言えば分かりやすいか。
人々にとって『悪』とされるもの。『討伐』をされるモノ。
その伝承の中の大きな一つに、アイツは食い込んでいる。
大昔から続く人々の認識を覆すのは、なかなか難しい話だろう。
「まぁだから俺はさ。アイツが少しでも人間を救いたいっていうから、手助けしてるわけで」
「そうですね。……では、そのゴールは?」
「ゴール……か」
考えたことも無かったけど、しいて言うなら、人々がベルアインと聞くと正義を思い浮かべてくれるようになること……かな?
でもそれは、先ほども言ったが難しい。
悪というイメージに、正義というイメージで上書きしなければならない。
桃太郎の仲間には、犬・猿・雉の他にもう一匹。鬼も仲間だったと広めなければならないのである。
「では、それが出来るとしたら」
「なんだって……?」
「恐ろしいまでの、魔竜のおとぎ話。今回の任務は、それを払拭できるチャンスだと思いませんか?」
「ヘリオスちゃんにしては……、珍しく分かりにくいね」
俺の言葉に彼女は、変わらず笑みを浮かべて続けた。
「世界は混沌に満ちている。世界中で異変が起き、世界中で何かが企てられ、世界中で危機を感じる人々が居る」
こつこつと、ゆっくりと部屋を旋回するヘリオスちゃん。
「一つ事件を解決するだけでも、伝説になるでしょう。
二つ事件を解決すれば、英雄になるかもしれません。
三つ事件を解決する頃には、語り継がれているかも」
ゆっくり、ゆっくり。言葉は流れる。
そうして彼女は俺に、光と、これからの目標を指し示した。
「伝承を上書きするのです。彼女のイメージを魔竜ではなく、勇者としての伝承へと、上書きを」
俺の正面に戻った彼女は、両手を広げ。
にっこりと、今までのどの笑顔よりも輝かしい笑顔を持ってして、こう言った。
「それはつまり、新たなる伝説の創設」
人々は語り継ぐ。
自分を救ってくれた者を。
街を救ってくれた傑物を。
世界を救ってくれた、勇者を。
「分かりやすく言うと」
これは。
魔竜・ベルアインを、
勇者・ベルアインにするための、魔なるモノの討伐奇譚。
「バニー勇者の魔討譚です!」
俺はベルが好きだ。
アイツには幸せになってほしい。
そのためなら、どんな大変なことだって――――
「あぁ、やってやる」
こうして俺たちは。
手を取り合った。
「でもまぁたまには、疲れたって愚痴は言いたいけどな!」




