表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

王子 編③(終)

 廊下で行き違う人達が、ブリーフ一丁で歩く僕を見て驚いている。そして口々に何かを言っている。

「王子は裸だ」「いや見たこともない美しい衣装を着ている」「お前には見えないのか」「私あの衣装すきよ、ぐふっ」

 とても恥ずかしい。みんなは無様で情けないと思うだろう。でもその通りなのだ。僕は無様で情けない奴なんだ。今までは周りに着飾ってもらっていただけなんだよ。


 客間の扉を開ける。ユキノがいる。彼女に向かって歩く。

 彼女は僕を見て驚いた。体をのけぞらせ、両手で口元を抑えた。そして目を瞑ってうつむいた。

「ユキノ。驚かせたね、ごめん。身の回りの物全部、天使に……悪魔に奪われちゃったんだ」

「――悪魔!??……そう、なのですね」

「君には全てを知っていてほしいんだ。この悪魔の呪いも、僕の全てを知ってほしい」

「……わかりました。私も知りたい。あなたを」

 ユキノは目を開けて、顔をあげ僕と目を合わせた。僕は自分のこれまでのことを話した、転生のこと、前の人生のこと、王子になってから自分勝手だったことを。素直な言葉で話した。


「僕はこの通り、立派な人間じゃないんだ。弱くて、情けないんだ。王子様として着飾ってもらっても何も変わらなかったんだ」

「話してくれて、ありがとうございます。本当のことが聞けてよかったです」

 ユキノは僕が話したことを飲み込むのに一生懸命のように見えた。彼女の気持ちが整理できるまで黙って待とうと思った。


「私も。隠していることがあります」

「……そう、無理して話さなくてもいいよ」

「――私、公爵に雇われています。――シャルロット嬢と王子様の婚姻を妨害するためです。シャルロット嬢の悪い噂を流したり、王子様が嫌いになるように仕向けました。婚約破棄が成功したら、私の商会を立ち上げてくれる約束だったのです」

「!……」

「私はあなたが言うような純粋な人間ではありません。とても醜い、汚れた人間なんです」


 彼女の告白には驚いた。商会を立ち上げるために王子に近づいたのだ。そして、シャルロット嬢を落とし入れた。初めて見た時、気弱そうに見えたが、この人はたくましい人だ。庶民の出身ながら貴族社会で戦っているのだ。

 責めたいとは思わない、かといって、自分を責める彼女に与えられるものが僕には無い。自分の偽りと彼女の偽りに、打ちのめされそうになって、僕は唯一の希望にすがろうとした。


「君が僕を愛してくれたことは、本当?」

「本当です――それだけは、本当の本当です!」

 ユキノはさっきまで自分を貶めていた表情と打って変わって、自信を取り戻したようだった。


「信じているよ。ありがとう、とても。僕は君を失うのが怖いんだ……」

 ユキノの気持ちが嬉しい。同時に、彼女に何ができるだろうと弱気になって僕はうつむいた。


「王子様……」

 ユキノがそっと僕の手を握る。僕はユキノと目を合わす。

「あなたが、何があっても私を守ると言った勇気は、本物ですか?私に無様な格好で全てを打ち明けたその強さは、本物ですか?」

 彼女のその言葉が僕に気づかせた。この世界で、王子になって手に入れたものがある。

「君のためだったら、強くなれる。これは本物だ」

 僕らはそっと抱き合う。また見つめ合って、僕は彼女の厚い柔らかな唇に、自分のそれを重ねようとした。


 ――しかし、ユキノが互いの口元の隙間にその細い手をピッと入れた。僕は固まった。

「ただし、9割取られるというのはナシです。だからあなたに嫁ぐのはナシです」

「へ?」

 僕は動揺した。いい流れだっただろと、こっからふられんのかと戸惑った。


「私には夢があります。稼いで、世界を飛び回って、稼いで、土地を転がして、稼ぎたいのです!」


「…………」


「私と一緒にいたいのなら、条件があります。あなたの給金は無し、あなたの持ち物も無し。天使に持ってかれるから無駄です!私が商会を立ち上げるので、国庫や領地の会計で私に全部流してください。私があなたを食べさしてあげます!」


「…………」

 夢を語る彼女はとても頼もしく、綺麗だった。


 どうやら誰かに搾り取られる人生は、永久に変わらないらしい。




<王子 編 了> 蜜柑プラム

読んでくれてありがとう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ