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回復術士 編①

 私が意識を戻すと、そこにあったのは見慣れない光景だった。真っ白い空間の中に、天使が1人立っていた。そして天使の横には、なにやら大きな円形の板が立っている。

 その天使は私に向かってしゃべり始めた。


「はい。えーと何を言うんだっけな……。えー、あっ、希望をどぞう」


「…………」

 私は何がなんやら分からずぼーっと天使を見ていた。それにしてもこの天使、顔が可愛くない。というより天使ってなによ、もしかして――


「希望無しっすね。じゃあルーレット行きますよ……。えーっとボタンボタン……」


「ちょっと待って!これなに!?私ってもしかして死んじゃった!?」


「あはい。死んでるっす。そんで、今から転生するっす」


 死んでた。私には心当たりがある。その日は生きるのがつらくなって慣れないお酒を飲んでいた。

「はあ……。やっぱり死んだのね。ほんとつまらない人生だったわ。誰からも愛されない陰気でノロマ――」

「じゃ回しまーす」


 天使は私の嘆きを遮って手に持ったボタンをポチッ押した。

 すると、トゥロロロロローと電子音のようなものが鳴り始めた。同時に、天使の横にある板の真ん中から外に伸びた矢印が、ぐるぐると回転しはじめた。


「だからなんなのよこれは!」


 私が大声を出すと、天使は両手で耳の穴をふさいだ。

「うるさっ。分かるっしょ、だいたい。転生っす、転生。ルーレットが止まった人生に転生するっす」


 天使はイラついたような顔をするが、イラつきたいのは私の方だ。説明少なすぎるでしょ。私は少し考えて、一番初めに天使が希望を聞いたことを思い出した。考えている間にもルーレットの矢印の速度が少しずつ弱まってくる。


「希望!希望を言ってないわまだ!」


 天使が口をとんがらせて、よりイラついた表情をする。

「希望あったんすか? ちっ……。もっと早く言ってほしかったっす……」


 天使は呆れたように溜息をついてから、手に持ったボタンを押した。すると電子音が消え、矢印の回転が止まった。


「はいじゃあ、希望を言ってください」


「――聖女になりたいわ。誰からも愛されて尊敬される聖女になりたい!」

 そう、私の憧れは聖女。人々の傷を癒す、人々の敬愛を集める聖女。


「いや、一点狙いは無しっす。それだとルーレットの意味ないっすから。だから女性だけとかそういう感じで決めてもらえます?」

 確かに一点狙いはずうずうしい気がした。私はあごに手を当てて考える。男性に転生してうまくやれる自信はないから、女性にしようか。いやそれだけじゃ、普通の女性村人になったら、これまでと同じようにつらい人生になってしまう。何か特技が欲しい。


「回復魔法が使える人生がいいわ。回復魔法が使える女性という希望にするわ」


「んー。だいぶ限定してきたっすね……。まあいいっすよそれで。でもその分の手数料をもらいます。

あと、ルーレット回し直しの費用ももらいますよ」


「お金なんか持ってないわよ」


「転生先であとで請求します。頑張って働けば、払える額っすから心配しないでください。じゃ回します」


「……わかったわ」

 私は費用の事はよく分からなかったが、人生の成否と比べて勝るものではないと思った。


 天使がもう一度ボタンを押して、トゥロロロローとルーレットが回り出す。私は、聖女聖女と両手を強く握って祈りながらルーレットを見つめる。

 ルーレットの矢印が減速する。


 トゥロロ、ロ、ロ、ロ、ピー!!ピピピピピ!


 矢印が止まった。

 天使が声を張る。


「おお!これは!……<陰気でノロマな回復術士>っす!」


 ん?と思って、私は矢印の停止先の文字を何度か読み返す。陰気でノロマって……、今と変わんない――


「まあいい方っすよ。よかったっすね」

「――ちょっとお!!なんで、陰気でノロマなんていう設定があんのよ!そんな人生もう嫌よ!!」


「るさっ……。また文句っすか。いい加減にしてほしいっす、こっちも仕事なんすから」


「お願いお願い!せめて陰気だけやめてもらっていい?そこだけお願い」


「……はあ。わかったっすよ。その代わり請求費用を3倍にするっす。いいですね」


 3倍って足元みやがってこのガキ、と思ったが、背に腹は代えられないと受け入れる事にした。

「いいです。お願いします」


 天使はマジックで"陰"に"×"をつけて横に"陽"と書いた。

「はいじゃあ、<陽気でノロマな回復術士>で。飛ばしますよ!」


 天使は板の中心にあった赤いボタンをポカンと押した。

 すると、ドドドドドドーという太鼓の音が流れた。


「それじゃあ、頑張って稼いできてください。よい人生を!」


 視界が一気に真っ白になった。私はあほっぽい太鼓の音を聞きながら、本当に転生するんだろうかと今更になって疑い始めた。可愛くない天使の「これ重労働だな」という声がかすかに聞こえた。視界が今度は真っ黒になって、そこで私は意識を失った。




 * * * * *



「レアーナ。僕について来てくれないか。一緒に魔王を倒そう」

 長身で研ぎ澄まされた肉体、黒髪ですがすがしい表情の青年が私にほほ笑みかける。彼は魔王を倒すべく生まれた人類の希望、勇者様。


「レアーナちゃん。俺たちと一緒に冒険をしようよ」

 勇者様のとなりに立つのは、紺色のローブに白いマントをはおった魔導士様。金髪で気さくな笑顔がまぶしいくらいの美男子。


 私は120%の笑顔をつくって返答する。

「はい、喜んで!私を連れていって下さい。こんな所、一秒でも早く出たいんです!」


 私は心底嬉しい。美しく頼りがいのある男性二人と一緒にこの街を出られることが嬉しい。やっとこれまでの苦労と屈辱が報われる。


 思えば、この世界に来てから辛い事ばかりだった……



<つづく>

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