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『空飛ぶ大どろぼう』  作者: 八神 真哉
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第3話 がん坊伝説

まるで、がん坊伝説だ。

翔太は、何年か前におばあさんから聞いた、この神社にまつわる昔ばなしを思いだした。


――そう、あれはたしか、こんな話だった。


『昔々、八幡村に、がん坊とよばれる子どもがいた。

もちろん、それは本当の名前ではない。

悪さをしてもあやまりもしない。人のいうことをまったく聞かない手に負えないがんこな子どもだったので、みながそうよんでいたのだ。


貧しい小作のもとに嫁いだお母は、がん坊を生んですぐに死んだ。

お父はがん坊が9の齢に病で死んだ。


がん坊には12になる美しい姉がいた。

お父でさえ見放した、がん坊のしりぬぐいをした。

うちも外も美しい娘であった。


ともに親戚に引き取られた。

この親戚も貧しい小作だった。


人が増えても耕す田畑が増えるわけではない。食い扶持だけが減っていく。一人前に働けもしない。

人買いに売られなかっただけでもありがたい話である。

にもかかわらず、がん坊はその親戚のいうこともきかなかった。


一年がたったある日、武器を手にした盗賊たちが、村の名主の屋敷に押し入った。

そこにあった米や銭だけでは満足せず、名主一家をたてにとり、反物や美しい娘を要求した。


役人をよびに行こうと声をあげた者もいたが誰も賛成しなかった。

一年前にとなり村で同じ事件が起きていたからだ。


役人たちは、助けに来なかった。命惜しさに引きのばした。

盗賊が引き上げたと聞いて、ようやく腰を上げた。


ならば、要求を呑むほかない。

名主を見殺しにしたとて親族が継ぐであろう。


拒否したことで名主の家族が一人でも殺められるようなことがあれば、今後、田畑を貸してくれなくなるだろう。仕事をまわしてくれなくなるだろう。


話し合いがもたれ、がん坊の姉が差し出されることが決まった。

水吞百姓とよばれる、がん坊の親戚では、米など出せないことがわかっていたからだ。


――それまで、一度たりとも人に頭を下げたことのないがん坊も、この時ばかりは頭を下げた。土下座までした。


だが、誰一人として首をたてにふる者はいなかった。

がん坊にとって姉はたったひとりの味方だった。身も心も美しい自慢の姉だった。

盗賊たちに連れて行かせるわけにはいかなかった。


盗賊たちを道づれにして死ぬ――がん坊は覚悟を決め、鎌を手にした。

月のきれいな夜だった。


がん坊は多家神社に立ち寄り、生まれて初めて神に祈った。

姉を助けてください。それがかなうなら、来世、おれは虫けらでもかまいません。人に生まれ変わるなら必死で奉仕します。と一心不乱に祈った。


思いが通じたのか、神殿から声ならぬ声がかえってきた。

境内にはえている木の、赤い実をひとつだけ食べていけという。


奇跡がおきた。

赤い実を食べたがん坊は、空を飛べる体になったのだ。


ことはあっけなく終わった。

盗賊たちは、鎌をもって夜空を飛ぶ、がん坊の姿を見て、化け物か神の使いに違いないと逃げ去ったのだ。

こうして、村に平和が戻った。


だが、得意になったがん坊は、神様との約束をやぶって、残っていた赤い実を全部食べてしまった。

さらに体の軽くなったがん坊は風に天高く舞い上げられ、二度と村に戻ってくることはなかった。


村人たちは、その赤い実のなる木を怖れ、お祓いしてもらったのち、焼き払ったという。


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