三、事後
結局、俺は定時まで仕事をこなした。
家族のことは気がかりだったが、こんな状況でも会社の仕事というのはあり、淡々とこなす他なかった。
全国展開する大企業のしがない下請け会社・・・にしてもこういう状況下でも融通が利かないとは考えものだ。
それでも、合間、家族とは頻繁に連絡をとりあい、仕事に没頭することで、少し不安は和らいだ。
昼過ぎからは少しずつ雨も収まってきた。
俺は小雨がまだ残る中を傘もささず、駐車場まで走り、車に乗り込むと急ぎ体育館へと向かった。
私は一樹が仕事終わり、こちらへ来るというメールを受け取ると、とりあえず、ほっとした。
家族が揃うのは何よりで、娘たちの家族も無事で確認し安堵している。
こういう体験をしないと、家族の大切さありがたみは分らなかっただろう。
何気ない日常の日々が、どれだけ素晴らしいのか、今日という日はそれを強く感じさせてくれた。
今夜は体育館で過ごすことになりそうだが、天気も回復に向かっている。
きっと、明日には家へ帰れるだろう。
果たして家は大丈夫だろうか。
ワシは配布された弁当を三人分貰ってきた。
腹が減ってはなんとやらというが、そういえば朝食から何も口にしていない。
今日という一日は何という日か・・・忘れられない。
ワシは溜息を一つついた。
三人は無事に再会を果たした。
こんな日においては、半日会わないだけでも、ずいぶんと長いこと離れていたように感じる。
「一樹、無事で」
到着した一樹を見るなり、良子は抱きつき涙ぐんだ。
「よせ、よせ。恥ずかしい」
一樹は気恥ずかしさで、そっぽを向いた。
「仕事はどうやった?」
と、勘助。
「どうもこうもないよ、普通に仕事あったよ」
一樹は呆れたように答える。
「ま、被害のあったところは、川沿いと低いところだけやけんな」
勘助は納得し頷き答える。
「場所場所で温度差があるもんね」
良子は呟いた。
「家は?」
一樹は気がかりなことを尋ねた。
「避難した後は見とらんばってん。が、大丈夫やろう・・・と思う」
「本当?」
「信じるしかなか」
「そうね」
三人は頷き合った。
テレビでは、なお豪雨に関するニュースが流れている。
まだ、決して楽観視出来ない。
翌日も強い雨の警報がでている。
それでも、明日がある。
こうなった以上と前向きに開き直る気持ちもある。
家族三人は、同じく不安をともにする人たちと、不安な一夜を過ごした。