2人の絆
私とお父さんは、慌てて車に乗り込むと、避難場所である体育館を目指した。
車を走らせると、アスファルトは川のようになっていて、タイヤ水に浸かっている。
「お父さん、行けると?」
「わからん・・・ばってんが、早ようここから出らんと」
本当に異様な光景が、そこには広がっている。
巨大な川に車が泳ぐように走っている。
「エンジンルームに水が入ったらおしゃかやな」
お父さんは、ぼそりと呟いた。
「そん時はどうすると?」
「泳いでいくしかなか」
「本当ね。私、泳げんよ」
「知っとる!よか、俺が背負うていっちゃる」
「・・・お父さん」
私は思わず涙がでそうになった。
「なあに、後、少したい。心配なか」
私に気遣ってくれたのか、普段とはらしくない言い方で、とても嬉しかった。
私が様々な感情に入り乱れている内に車は無事、体育館へとたどり着いた。
館内に入ると、近所、隣組の方や見知った人たちが、皆不安そうな顔をしている。
私は、気心のしれている奥さんを見つけ、挨拶や近況報告を行う。
どうやら、他の場所では、ここより凄い状況のところもあるらしく、孤立した場所もあるらしい。
川にはいろんな物が流れ、堤防が決壊しただの不安な情報ばかり耳に入ってくる。
館内に緊急に設置されたテレビでも、福岡のローカル局が、豪雨の特番を組んで、逐一、情報を流している。
観れば、どこもこの付近の状況で、まさかこんなことになっているのが信じらないことばかりだった。
「お父さん・・・」
私は思わず、お父さんの手を握りしめた。
「もう、なるようにしかならん」
お父さんも力強く握り返してくれる。
「うん」
「でも、大丈夫」
「うん」
「きっと」
体育館の屋根を打つ雨音は容赦ない。
その叩きつける大きな音が、不安をより一層煽られる。
私は天井を見つめる。
(早よ、雨止め!)
必死に祈った。