会社にて
いつもは10分ほどで着く会社だが、15分以上かけて、ようやく到着した。
俺は駐車場の端に車を停めた。
この駐車場は真ん中にいくほど、すり鉢状に低くなっている上、水はけも悪く、何度か車が水没しかけたこともあった。
なので、多少、会社まで遠くはなるが、こんな日は端に車を停めるのが賢明の策といえるのだ。
幸い雨足もおさまってきたので、俺は思い切って車を飛び出し素早く傘をさすと全速力で会社へ走る。
駐車場の真ん中には、早くも大きな水溜まりが出来ていた。
このまま降り続けば、きっとヤバい状況となるだろう。
会社に着くと、靴下がべちゃべちゃに濡れていた。
「おっ、今日はいつもより早いな」
同僚の高橋が声をかけてきた。
「ああ、この雨だからな」
俺はそう返す。
作業服に着替え終わると、身体も少し雨に濡れていたので、ひんやり感じた。
仕事場へ向かうと、今日の大雨の事でみんなはザワついていた。
これから相当量の雨が降るらしいと会話をしている。
職場はいつもと違う独特な雰囲気があった。
「なんか、やばかげねな」
「ああ、やばかっちゃろ」
あちらこちらで方言のやりとりが行われている。
俺はどうせいつものように大したことないと思っていたので、適当に話を合わせた。
ラジオ体操がはじまると、みんなは我に返り体操をはじめた。
それから朝礼では大雨の影響で、仕事に支障が出始めているという事が告げられた。
仕事がはじまり、しばらくはいつも通り淡々とこなす。
しかし屋根に叩きつける雨音の激しさは増すばかりだった。
が、二時間経った頃、主任が血相を変えて飛んできた。
「西君、谷さん、高橋君と井上君、車が危ないので、すぐ移動させるように」
主任はそう言い残すと、他の人達にも伝えに小走りに去って行った。
と、ちょっと待て、わざわざ端に移動させたのに、それでも動かさないといけないとは、どういう事?
俺は家のことが心配にになった。