一、事前
その日の朝は、いつもより激しく雨が降っていた。
ゲリラ豪雨が長時間続いている。
最近はこんな妙な天候が続いていたし、朝起きてぼんやりとしている自分には、でかい雨音さえ耳に響かない。
母が不安そうな顔を見せる。
「一樹、今日は早く会社に行きなさい」
はい、はいといつもの小言だと受け流す。
俺は茶漬けを一気にかっ込んだ。
夏場になると食欲が無くなる。
朝は眠さもあってなおさらだ。
その点、するりとかっ込める茶漬けは、まさに万能で朝食の友だ。
俺は食べ終わると、ぼんやりと窓の外を見た。
どこまでも曇天の空、大粒の雨が激しく、屋根や庭に叩きつけている。
そのせわしい音に、少しずつ目が冴えてきた。
「いつから降り出したと」
母に聞いた。
「夜中からずっとよ」
「ほー」
この状態で夜から降り続いているなら相当なものだ。
不安を少し感じたが、いつものことだろうと、家の玄関を開けた。
叩きつけるような雨が降っている。
玄関から愛車までの距離は、わずかだが一瞬、躊躇したのち思いきって走る。
ポケットから鍵を取り出し、キーレスのボタンを押すまで、わずかに手間取ってしまった為、シャツがじんわり濡れた。
髪の毛を触るとべちょべちょだった。
車のエンジンをかけ、フロントガラスを見る。
叩きつける雨、雨、雨。
ワイパーを強にして発進させる。
その激しい雨に、全く視界が遮られ、のろのろと車を走らせた。