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磁場の乱れに遭遇した人々のある断片

作者: カーミラ











 聞くものはいたのだろうか?

 この俺の祈り。

 宇宙空間に咲く、灰ピンクの一輪の花。

 灰青緑の稲妻。

 一瞬の光り。

 一瞬の出来事。

 光明。

 Epiphany.










 母乳を掛けられた。

 変態プレイ。

 恋人から、

 母乳を掛けられた。

 それは変態プレイ。

 いきおいよく。

 手に掛かり、

 顔に掛かり、

 尻やペニスにそれは掛かる。

 使い方の誤った母乳を掛けられていた。









 道端に顔を覗かせる蕗の薹。

 ひんやりとした春。

 またここに戻ってこられる日は、一体いつになるのだろう。

 消えかかった雲。消え切らない黒板の文字。

 何かの徴のように、意味も無く羅列しまくるこの文章。

 もう何も、書けないのだろう。わたしの世界はもう遠い昔に終ってしまっていたのだから。









昔のことを書こうとすると、キーボードの上で指先を戸惑わせる、何もないことを知っている、明日という日だけがあるのだという無味乾燥として切実な約束事の枚挙。そういえば昨日の夜、珍しく心地よい夢をみた。それを思い出した。でもその夢の内容を思い出せない。あれはいったい何だったのだろう。どこか超然としていた。それでいて現実的でもあった。まるで二律背反のように。まるで生きたまま死んでいるかのように。宇宙の中を心地よく彷徨っている感覚がそこにあったのだ。だけどももう忘れた。その微かな徴の感覚だけを残して。









 もうひとつの宇宙に行くのだ。そこにはきっと想像の超えた世界がある。

 こことは別の、異なった街に行くのだ。そこにはきっと今まで求めていたものがある。

 そう言って、あいつは消えていった。

 そう言って、あいつはいなくなった。

 今それを思い出した。でもあいつの名前や顔は思い出せない。

 どんな奴だったかも。


 




 




 でもあいつは放射能をたくさん浴びた。

 あいつが浴びた所為で、俺は浴びずに済んだ。

 浴びた後、黄緑色に発光しながらあいつは言った。

 溶けながら、鉄の床を転がり、俺から逃げながらあいつは言った。

 逃げろ。俺に近寄るな。あっちへ行け。

 助け起こそうとする俺に対してあいつは叫んだ。

 そして梯子をハッチの方へ昇っていった。

 発光しながら。

 溶けながら。

 そしていなくなった。


 







 その後に、あのお面を被った集団が世界中の至る場所に現れるようになったのだ。

 インターネットの中にも彼らは現れた。

 彼らは自分達のやっていることについて、世界中の多くのネットユーザーに対して説明した。我々は、世界平和を求める集団であると。世界中から戦争やテロ、飢饉を失くし、平等と個人の尊厳を尊重する必要性が、この世界にあり続ける限り我々は常に行動する者たちであり、現実世界とインターネットを媒介にそうした活動を行っていく集団である。









 その年の秋に、彼女は死んだ。

 葬儀の後、私はひとり部屋のなかで、何もする気になれず、ただ窓から夜空を見上げていた。そうしていれば、電燈の点いていない、この暗くなったままの部屋の窓辺に佇む私が、星空から不図振り返れば、そこに彼女が立っていることを期待するかのように。

 でも彼女はそこにいなかった。あれだけ星の夜空を見上げていたというのに、彼女はいなくなったままで、夜だけが深々と流れていくだけだった。

 生きるということについて、私は何度思考したことだろうか。結局は、己に与えられた生を全うしなければならないのだろうという陳腐な結論で、それは終る。仮の世。彼女と共にいられるあの永久の世に行く為にも、私は残された人生をひとり、生きていかなくてはならないのだろう。ひとり寂しく。心に埋めることの出来ない穴を空けたままで。









 私には記憶はない。正確に言うなら、それらしい過去もないということか。


 


 




 今日、私は珍しく、電車に乗って知らない街へ行って来た。

 そして永久に帰って来られなくなってしまった。

 気づいたら、帰る理由を失くしていたのだ。


 


 




 冗談はよそうよ。僕は今日彼女にそう言われた。冗談はよそうと。

 冗談なんかではないと、僕が言うと、彼女は薄く笑った。

 ある大きな公園の木立の中を、僕と彼女は歩いていた。

 暑さの退いた夏の朝、 僕たちはベンチに並んで座った。

 陽は昇り、蝉の声が辺りの森林を満たしていた。

 蝉と同様姿の見えない鳥たちが囀っていた。

 遠くの木立の間から人が見え隠れしているのに気付く。

 それは異様な顔をしていた。

 でも違う。顔が異様なのではない。お面を被っているのだ。例のあの、近頃世界中で目撃されるようになった兎のお面だ。そいつが離れた木立から顔を覗かせてはまた隠していた。そんなことを繰り返していた。そしてそれは僕らに対して行われていた。木立から面の被った顔を出した時、そいつが我々の方を見ていることは一目瞭然だった。僕らの周囲や後方を確認しても誰もいないのだから。








 少女は死んだ。死んでいた。その少女を誰も知らない。彼女は未来からきた。そのことを知っているのは僕だけだ。僕だけが彼女を知っていた。







 「ここはどこ?」

 少女は額にまだ乾かぬ血の滲んだ掠り傷をつくったまま僕に訊いてきた。

 「天国への階段だよ」

 僕は答えた。












 君が来なかったので、僕は焦った。

 でも大丈夫。君はまた月曜日に必ず出社してくる。

 きっと助けにくるから、ここで待っていて!

 いまはもう誰もいない。

 そこにはきっと、君がいるはずだ。

 兎のお面を被った人間は、もういない。

 運が良ければ、どこかでばったり会うかも知れないよ。




 





 僕らのいるベンチの方へ兎の仮面を着けた人物がやってきた。それは大人の男。兎の面の空いた眼からは、赤い目ではなく、人間の眼が覗いている。







 


 ところにより雨。こわれた物語り。晴れ。雨。晴れ。曇り。雨。曇り。晴れ。晴れ。








 こわれた雨。ところにより、物語り。風。光。闇。







 救い出されない。







俺たち助けが必要だ。そう詩人は考えたのかも知れなかった。






 救い出されない。

 救われない。

 救われなかった。


 








 古い写真から私は彼女を見つけた。たったひとりの写真。

 彼らはもういない。

 救い出されなかった。








 ルイス=スケープゴート

 救い出される








 街に出る。人々はいない。こういう時代も悪くない。いずれここに生きている全ての生き物は死ぬ運命にある。ベートーベンもそういう曲を作ってから、この世からいなくなった。例外などないのだ。






 




 古い写真に君が写っていた。

 私は海を見に行くことにした。

 そこに君はいた。そこにも、






 



 


 ベルが鳴る。玄関に誰かがいる。覗き穴から見た。

 ドアを絶対に開けてはいけない。

 でもこの世には、あることを除いて、絶対なんてことはない。

 僕はそれを知っていた。

 だから開けてしまったんだ。

 未来から来た少女との同棲生活がはじまる。

 でも彼女は何か月かして傷を負い、未来へ向けて生きることを止した。

 でもそれまでは楽しかったんだよ。彼女を探すものなど遂に現れなかったけれど、それはやはり、彼女が未来から来たからだ。そして未来から来た他の人間も現れなかった。未来から来たのは彼女だけだったし、僕以外には、誰も彼女のことを知らなかった。

 だから彼女はまた僕の前に現れるんだ。彼女がいた未来の時間に到達すれば、また彼女に逢える。僕はその事実を知ったのだ。だがひとつだけ問題があった。彼女がいる未来の時間までは、あと1000年と8日、生きねばならないのだ。


 


 


 




 


 あれから時が過ぎて、今現在は1997年11月4日夜11時21分。

 何かが書けそうで、

 時間が無い。

 眠らなければならない。

 眠ろう。

 きっと眠れるだろう。

 たぶん。

 また未来にでも、会おうではないか。











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