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コメディ短編

この勇者パーティーは最高だ! 魔王に俺たちの絆を見せてやろう!

世界最強の勇者パーティーがやって来た。


何しに?

「ようやくここまで来たな」と勇者は言った。

「ええ」と剣聖は頷いた。

「長かったですわ」と聖女が答えた。

「この旅ももう終わりか」と賢者は呟いた。


 魔王城を前に勇者パーティーの4人はお互いの顔を見ながら最後の戦いに赴こうとしていた。

 

「俺たちが四天王を倒したと言っても、魔王は別格だ」

「そうね。勇者の言う通りよ」

「四天王ですら魔王の顔を見たことがなかったとか」

「ああ、あまりの威圧感に近寄れないと言っていたな」


 勇者たちは苦難の旅の末、それぞれがレベルを上げきっており、これ以上はないというくらいの強さを手に入れていた。

 

 勇者はその手に聖剣カラドボーグを

 剣聖はその手に聖剣アスカランを

 聖女は死者をも蘇らせる治癒の力を

 賢者は大地の形さえも変える魔力を

 

 今やこの世界に4人の力に比肩する存在などいなかった。

 それは魔族の四天王ですら例外ではなく、もしいるとすれば、それは魔王にほかならない。

 四天王すら寄せ付けなかった勇者たちにとって、最後で最強の敵が魔王なのである。

 

「もしかしたら、もう言えないかもしれないから言っておく。俺みたいな頼りない勇者についてきてくれてありがとう……」

「なにを言ってるのよ。頼りなかったのは私たちの方じゃない!」

「そうですよ! むしろ、あなただったからここまで来れたんです!」

「そうだぞ! おまえだから俺はついて来たんだ!」


「おまえたち……」


 気がつけば4人の目には涙が溢れている。

 お互いがお互いの手をとり、いつのまにかしっかりと輪の中で手を握り合っていた。

 

「俺は自信を持って言える! お前たちは最高だ! そして、俺たちは最強のパーティーだ!!」

「そうよ! 私たちは最高のパーティーよ! 魔王なんか蹴散らしてやるわ!」

「私たちの前に敵などありません! 魔王の首を掻っ捌いてやります!」

「ああ、そのとおりだ! 俺たちは最高だああ!!」


 まるでお正月の大学ラグビーの控室のような雄たけびを上げて勇者パーティーは盛り上がる。

 そして、一体いつ作ったのか、『勇者パーティーの歌』を高らかに歌い始めた。

 

「「「「ららら―ららら―ららら―! おうおうおう!!」」」」



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇


 

「なんなんだよ、こいつら……」


 魔王城の警備室では映像に映る勇者パーティーを見て魔族たちが恐れおののいていた。

 

「モチベーションが高すぎるだろ?」

「金とか名誉だったら悪魔の囁きで何とかなるけどさ。こいつらムダに絆とかに執着してない?」

「まんま田舎のヤンキーじゃねえか」

「おいおい、歌が終わったと思ったら今度は踊り始めたぞ?」

「全員同じハッピを着こんで気持ち悪い……」


 魔王城の前では、感極まった表情で勇者たちが踊り始めていた。

 まるで今年こそは優勝するとみんなで誓ったような一体化ぶりである。なにで優勝するつもりなのかはさっぱり分からないが。

 

「「「「そーれそれそれ! ヤーレンソーレン!!」」」」 


「ものすごくシンクロしてる……」

「よほど練習してきたんだろうな」

「もしかしてあの聖剣はこの踊りのために手に入れたんじゃないか?」


 前列で聖女と賢者が激しく頭を振る一方、後列で勇者と剣聖が振る2本の聖剣からは炎が立ち昇り、見る者に無駄な感動を与えていた。

 

「やばい、ついつい見とれてしまった」

「ああいう踊りって、心を揺さぶる何かがあるよな?」

「というか、これいつまで続くんだ?」

「来るなら来るでさっさと来いよ」


 ちょっとイライラしてきた警備員の願いも空しく、勇者パーティーは誰に向かって言っているのか「次の曲は『絆~勝利への道~第1章』です!」とわざわざ曲紹介をしてから4人で肩を組み、体を横に振りながら大声で絶叫し始めた。

 

「「「「らら、らら、らら、おうおうおう!」」」」


「一緒じゃねえか!」

「リズムが変わっただけだろ!」

「しかも第1章ってなんだよ! まさか18章まであるんじゃねえだろうな!」



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇

 

 

「まさかほんとに18章まであるなんて……」

「しかも、途中途中に踊りを挟んでくるからな」

「あれ見た? 最後の踊りで聖剣を落とした剣聖が号泣したの」

「ああ、聖剣を落として申し訳ないと泣いてるのかと思ったら、『踊りの足をひっぱってごめんなさい』って意味分かんねえよ!」

「しかも、あとの3人が『おまえは悪くない!』って一緒に号泣してたもんな」


 結局、勇者パーティーは自分たちのパフォーマンスが気に入らなかったのか、魔王城には突入せずに帰っていった。

 

「あれ、来年も見せられるのか?」

「勘弁してくれよ。おれ絆とか苦手なんだよ」

「映像越しに俺たちにも手拍子を要求してたもんな」

「でもやりきった顔してたぞ」

「どうせこの後飲みに行くんだろ」



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇


 次の年。

 新人メンバーを新たに加え、大人数でのパフォーマンスが可能になった勇者パーティーは半年前から準備して魔王城に乗り込んだが、魔王城はすでにもぬけの殻であり、戦わずして魔王討伐を成し遂げることとなった。

 

 王都ではそれから魔王討伐を記念して、毎年【討伐よさこい】が開かれたのは言うまでもない。




こんな話を最後までお読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 鳴子は持ったか!? [一言] よさこいソーランの札幌ではそろそろ地元民はいい加減にしてほしいと思っているらしいという話を思い出しましたちょいやっさ!!!
[良い点] 誰も傷つかない平和な魔王討伐でとても面白かったです。四天王を葬り去ったとありましたが、ひょっとしたら彼らに対しても『勇者パーティーの歌』によってメンタルを攻撃することで戦わずして勝敗を決し…
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