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第九十七話 少女の帰省

 商業の街ベネス。ここは私の生まれ育った故郷だ。


 ここには私の思い出が詰まっている。もちろん苦く辛い記憶もあるが、どれも大切なものばかりだ。


 両親と幸せに暮らしていた時、メリルやカイン達がいた孤児院の生活、ストニアに鍛えてもらった訓練時代。


 街に到着し、すれ違う商人達や活気のある声が所狭しと聞こえてくる。


 思えばこの一年は色んなことがあった。馬車から荷物を下ろすシェリー達を見ながら、私は最近の出来事を思い出していた。


 神殿で神の力を引き継ぎ、従僕と親友ができた。その親友は戦争の最中、命の危機に瀕したが何とか救出することができた。

 それから国を混乱に陥れた灰と戦い、隣国の救出にも向かった。



 これら全てを私が成し遂げてきた訳ではない。

 王都の人達やアレク将軍など、たくさんの人に支えてもらったからできたことだ。


 私に従うジークとシーズ、親友のシェリー、私の良い理解者であるエイン王女に面倒を見てくれるエメリナ達。

 誰一人欠けても私はどこかで失敗しただろう。


 それに全てがうまく行った訳でもない。


 戦争では王子を失ってしまった。

 私が早く気がついていれば、この未来は変わったかもしれない。しかし、それはどれだけ悔やんでも覆せないことなのだ。


 それでも私は前を向いて歩こうと思っている。

 夢で会ったキンレーン殿下は私に国の未来を託したのだ。託された者としてはその期待に応えなくてはならない。


 それだけではない。私には守りたい人たちが沢山いる。


 この街に住む私の恩人のストニアもその一人だ。

 彼女は今は孤児院の運営に勤しんでいるが、昔は国の魔法剣士隊を率いる英雄だった。


 その因果で今は命を狙われる身だ。かつて戦争で滅ぼしたケニス小国の生き残りによって、世界もろとも滅ぼされようとしている。


 もちろん私はそれを阻止するつもりだが、ストニア自身に危機が迫っていると彼女に伝えたかった。


 その願いがかなってか、休暇をもらった私は故郷のベネスへと帰ってきた。


 アルドベルの動向は気がかりだが、彼は直ぐに攻めてくることはない。


 彼が数年かけて進めていた計画を見事に粉砕し、彼の目的を阻止することができたのだ。次の行動に移すまで猶予はあるだろう。


 それに、彼らの存在は今回の一件で大陸中に知れ渡ることになった。

 すでに被害があった国々への通達も始まり、「灰」の掃討に向けて国家間の協力体制が急速にできつつあった。



 フィオ達の存在も大きい。二つの国を滅茶苦茶にした張本人達だが、手元に置けば心強い。


 彼の居場所までは知らないらしかったが、彼の元で動いていたもの達だ。そう遠くない未来には見つけ出してくれるだろう。


 ベネスから戻ればまた長い戦いが始まる。それまでの間はこの街で羽を伸ばそう。



 そんなことを考えていると、急に腕を引っ張られた。私の腕の先には旅用の服に身を包んだシェリーがいた。


「何をぼーっとしてますの? 行きますわよ、私が担当してる花市場があるんですの!」


 そう言ったシェリーは私を引っ張っていく。


 仕事で年に何度も足を運ぶ彼女からすると、ここはもう庭のようなものだろう。彼女は迷うことなく突き進んでいく。


「シェリー? 花ならもう用意してますけど、仕事で向かうのですか?」


 私の腕を掴んでどんどん前に進むシェリーに戸惑いながら言った。


 そう、ストニアに渡す花は昨日の間に入手し、今はジークに運んでもらっているのだ。後ろを見ると、口元を手で押さえているジークが目に入った。


「私から渡す分を購入しますの。花は現地購入が命! そこは譲れませんわ!」


 私を掴んでいる反対側の手を天高く突き上げながらシェリーが言った。花はシェリーの領分だからこだわりがあるのは当然だろう。


 そう納得した私はシェリーにお願いをすることにした。


「それなら私もいくつか買いたいです。見繕ってくれますか?」


 私が買うのはお墓に添える為の花だ。両親とメリル、カインの分だ。新しく買う花の用途を伝えると、シェリーは太陽のように明るく笑った。


「勿論ですわ! そうと決まれば早く行きますわよ! ジークさんも早く早く!」


 彼女はそう言うと、空いてる方の手でジークの腕を掴み、私たちを再び引っ張る。心なしかシェリーの足が弾んでいるように見える。


 実はこの帰省、シェリーが一番楽しみにしていたのではないかと思ってしまう。

 横にいるジークと目が合うと、彼も伏し目にして少し笑った。ジークも同じことを考えているようだ。


「おい、リジー! あそこの赤い建物は何だ! 王都では見かけんぞ!」


 頭の方からシーズの声が聞こえてきた。馬車を降りてから私の頭に乗っているのだが、目新しいものを見つけると子供のようにはしゃいでいた。


「あの赤いのですか? あれはですねーー」


 シーズの存在は人目を引くが、王都で慣れた私は構わずにシーズの質問に答えていく。


 そこにたまにシェリーが相槌を打ったり、ジークも食いついたところもあったりと、市場へと向かう道中は賑やかに過ぎて行った。

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