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第八十七話 王の宝刀

「リジーちょっと来てくれ」


 サーシャの足取りを追おうとしたところでアレク将軍は私を呼んだ。

 視線を向けると、彼は王の腰付近を凝視していた。


「アレクさんどうしましたか?」


 彼に近づいて聞いた。アレク将軍は国王の腰を指し示して言った。


「これを見てくれ、陛下がいつも腰につけている宝刀がない」


 確かにアレク将軍の言う通り、国王の腰ベルトには銀色に輝く剣の鞘はあったが、肝心の本体は収まっていなかった。


「どういうことです?」


 私が疑問に感じて首を傾げていると、彼は懇切丁寧に説明してくれた。


「恐らくサーシャが去り際に抜き取ったのでしょう。国から逃亡する前に金品になりうるものを取って行ったのは想像に難くない」


 組織を追われたサーシャは資金源として剣を盗んだということらしい。鞘自体は価値が無いと判断したのだろう。


 その他に、この部屋に置かれていたいくつかの工芸品が失われているようなので、彼女が持っている可能性はたかい。

 常にこの部屋を出入りしていたアレク将軍が言うのだから間違いないだろう。


 だが、それで彼が何を言いたいのかを理解した私は国王から鞘を取り外して床に置いた。


 剣本体はサーシャが持っている可能性が高い。そして、剣を収めていた鞘があると言うことは、本体を探る手がかりになるということだ。



 剣が収まっていた鞘を探知魔法の媒介にし、剣本体を逆探知する。それはかつて私がクライオ先生を探した時に使った手段だ。


 私は思いがけずに笑った。

 まさかまたこの魔法を使うことになるとは思っても見なかった。不本意ではあったがクライオ先生に感謝して作業を進めた。



 準備が整った私はすぐに探知魔法を王都中に展開し、鞘に収まる剣の行方を追った。


 探知魔法の反応はすぐに帰って来て、いくつか見つけることができた。そして、その反応の内、動いている物を探す。


 剣は生き物ではないので、一人でに動くことはありえない。物取りされたというのであれば、それは盗んだ人物と一緒に動いていることになるのだ。



「ひとつだけ今も移動をしている反応がありますね。ここからそう遠くない場所です」



 私は立ち上がって部屋の窓を大きく開け放つ。昼間ではあったが、涼しい風が肌を撫でた。


 望遠魔法を展開して反応があった方向を見る。路地裏の細い通路で茶色いローブを着込み、皮袋を背負った人物が目に入った。


 剣の所在は見えなかったが、アレク将軍の言っていたサーシャの見た目にそっくりだった。



「見つけました。アレクさん、行きましょう。ジークはここに残って王族の方を護衛してください」


「承知いたしました。くれぐれも無理のなさらぬように」


 ジークは仰々しく礼をしてこの場を引き受けた。

 私はジークにセディオを渡すと、アレク将軍の手を引っ張った。



「な! 待ってくれ、心の準備がーー」


 アレク将軍は私が空を飛ぶと考えたのだろう。だが彼の訴えは私の一瞥で途切れた。これから戦うことになるのだから有無を言わせない。


「安心してください。今回は転移魔法を使います。相手の位置が分かってますからね」


 私はそう言うとすぐに魔法の構築を始める。その横ではアレク将軍が安堵したように息を吐いていた。

 サーシャまでの距離なら一、二度の転移で移動可能だろう。


 二つの地点を結び終えると、体が前に引っ張られる感覚がやって来た。


 目を開けると、そこは城の内装ではなく、白い壁が目立つ街並みだった。屋上に転移したのでまだ人目にはついていないようだ。


 近くにサーシャの姿はない。魔力探知を発動すると少し離れたところを走っているのが分かった。


「これが噂に聞く空間転移か、空を飛ぶよりは楽だな。腹の中がかき回される感覚はあるが……」


 隣ではアレク将軍が腹部を弄りながら言っていた。私でもその感覚に慣れるまでしばらくかかったのだから仕方がない。


 そう思ったのも束の間、地面を見下ろした私はすぐにアレク将軍の裾を引っ張った。


「アレクさん、すぐに移動しましょう。兵達が集まってきています」


 私は下の街道を指差す。私たちの立つ民家の周りには、既に兵達が十人ほど集まって来ていた。


 恐らく彼女が差し向けた者達だろう。生気のない顔なのに剣を構えて戦う姿勢を見せていた。


「そこの二人に告ぐ、抵抗しても無駄だ! 今すぐ降りてこい!」


 剣を構えた兵の一人が声を張り上げる。

 当然その光景は目立つ訳で、集まった兵達に近隣の住人達が野次馬のごとく集まり始めた。


「街中の戦闘はまずい。騒ぎになれば彼女を追うどころではなくなる」


 ここで兵を攻撃すれば、私たちは町の人たちに悪人として映る。その誤解を解く間にサーシャは遠くへと言ってしまうだろう。


 それでも私は「大丈夫」、とアレク将軍に言った。彼は一瞬思案顔を向けたが、私のことを信用して頷いてくれた。


 住民達に見られてはいるが、すぐに姿を隠せばそれはいっ時の噂話で流れて終わりだ。

 兵達も操られてるとはいえ普通の人間だ。転移で移動すれば追ってくることはできない。


「彼女の前に移動します。掴まってください」


 アレク将軍は頷くと私の肩に手を添えた。伝わるほのかな温もりを感じながら、私は再び転移魔法を構築して移動した。


 この国を混乱に陥れた者を捕らえるために。

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