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第八十六話 王の縛り

「おおおおおお!」


 一人の兵が声を張り上げて突撃して来る。私はその攻撃を躱し、空いた鳩尾に拳を突き入れた。


 少し上の方に入りすぎたかもしれない。彼の骨が折れる感触が伝わって来る。内臓を揺らされた兵は呻き声を出すことなく倒れた。


 塔の中は兵が所狭しと待機しており、見つからずに行くというのは不可能だった。私達が塔に侵入してすぐに見つかり戦闘が始まってしまったのだった。


 サーシャの命令が効いているのだろう、戦っている間に次々と集まって来ていた。


 問答無用で倒したにも関わらず、他の兵達が恐れることなく向かってくる。気絶を狙うのは簡単だったが、数が多いのが面倒だ。



「意外に見回りの兵が多い。リジー様、この狭い城で囲まれると厄介です」


 ジークは二人の兵を脇で固めながら言った。首がしまった二人の兵はすでに気を失っていた。

 その周囲を取り囲んでいた三人の兵を私は浮遊魔法で持ち上げて軽く振り回して投げ飛ばす。


「ぐえぇぇ」

「かはっ」


 受け身を取れずに壁に激突した兵達は軽い呻き声を上げて動かなくなった。


「下手に攻撃できません。とにかく今は無力化に専念です!」


 新たに兵を投げ飛ばしながらジークに言った。


 まだ周囲にはかなりの兵が待機していて軽くげんなりする。


 このままでは埒が明かないし、サーシャに逃げられる可能性もある。一気に彼らを戦闘不能にしてやりたかった。


 しかし、加減を間違えると彼らを殺してしまう可能性もあったので、各個撃破に専念しているのだ。

 戦争でもないし、彼らは操られている身だ。無意味な死体を作る必要はない。


 私はまた飛びかかって来た兵士数名を同じように浮かせ、壁に投げ込んでいく。

 そして同じように彼らは気絶して床の模様になっていった。


 そんな中アレク将軍は、ここで広がる光景をどこか遠い目をして見ていたーー



「また君の手を煩わせてしまったようだね……すまない」


 全ての兵が気絶して動かなくなったところでアレク将軍が謝罪して来た。


 幸い今の戦闘で負傷者は出たが、死者がいないのは幸いだった。私は彼らを通路の端へ運んでいたが、その手を休めずに答えた。


「アレク将軍の責任ではないですよ。誰も死んでませんから大丈夫でしょう」



 全ての兵を運び終えると、ジークが水の入った皮袋を差し出して来た。

 さっきから戦闘の連続で少し休憩を挟みたかったところだ。私は受け取って喉を潤す。


「アレク殿もどうぞ」


 私がしばしの休憩を挟んでいる間、ジークはアレク将軍にも水を渡した。彼はぎこちない手つきで受け取り軽く喉を鳴らした。


「さて、次の兵が来られても面倒です。アレクさんお願いします」


 彼がジークに皮袋を渡したところで移動の合図を出した。


「ああ、次はこっちの通路だ。ついて来てくれ」


 アレク将軍は焦ることなく移動を再開した。

 石畳で作られた通路を私達は疾走する。さっきの集団の兵はもういないのか、出くわすのは二人一組の見回りだけだった。


 そうして王族がいるであろう塔の最上階まで向かって行った。


 彼らの居室に足を踏み入れると、そこには異様な光景が広がっていた。



 セレシオン王国の王族は今は五人いる。現国王と王妃、それから三人の王子達だ。

 その彼らは各々椅子やソファーに腰掛け、何もない壁や虚空を見つめていた。


 私達が彼らの居室に足を踏み入れた時も、眉ひとつ動かすことなくただ座っているだけだったのだ。

 置き物の人形のように動かない彼らに私は身震いした。


 あまりの衝撃に動かないでいると、アレク将軍は私の横を矢のように通り過ぎて行った。


「王! ご無事ですか!」


 アレク将軍は白髪混じりの国王の元まで行って跪いた。


「おお、アレクよ戻ったか」


 国王はアレク将軍を一瞥して口元を緩ませた。

 しかし、それだけ声をかけると視線を虚空に向けて無表情に戻った。


「お、王? どうなさったのですか?」


 アレク将軍は掠れそうな声を振り絞って言った。今にも泣き出しそうな表情をしている。その国王は再びアレク将軍に視線を移して言った。



「此度の戦争はまっこと残念であったな。しかし、そう悲観することはない。我が国はすでに安定を取り戻しておる。お主がとる責任はないであろう」


 手元にあるコップを口に傾けた王は淡々と述べた。兵達が全滅したことに対して何一つ悲しむこともなく。


 その姿を見たアレク将軍は瞳を潤ませ、歯を食いしばった。


「王……失礼致します!」


 彼は王に魔法をかけて気絶させた。それを合図に、私とジークで残りの四人を気絶させる。

 王の胸に手を当てていたアレク将軍は深いため息を吐いた。


「王は、やはり操られている。リジー、どうにかできないか?」


 彼は目を袖で拭いながら言った。

 案の定、彼らは皆命縛法で縛られているようだった。


「残念ですが、命縛法の解除は私でもできません。サーシャさんを捉えて解除するしかありません」


 シェリーを救った方法は二度とできないことも説明済みなので、アレク将軍はすぐに引き下がった。

 だが、彼らの自殺行為は止めることができる。私達が保護したことでこの作戦の半分は成功したに等しかった。


「次はサーシャさんを探しましょう。ジーク、王族達に防御魔法を展開してください」


 私に呼ばれたジークは頷き、王族の魔核に防御魔法を展開させた。

 これでサーシャから王族に危害を加えることはできない。ゆっくりする訳にはいかないが、彼女の捜索にじっくり向かえるようになった。


「何か手がかりがあればいいのですがーー」


 私が独り言を言った時、アレク将軍が何かに気付いたように声をあげた。

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