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第八十二話 将軍の望郷

 王都リールには貴族が住む区域がいくつかある。

 それは城から近い場所で、城を覆うように立地している。城勤の者が多いためそのような区画になったとも言われている。


 だが、その近辺は貴族だけが住んでいるわけではない。軍に所属する兵達が住まう官舎や、罪人を捉えておく拘置所などもある。また他国からの使者達をもてなす屋敷もその地区に用意されていたりする。


 キンレイス陛下とエイン王女に謁見した翌日、私はとある屋敷に向かっていた。


 そこは捕虜となった重要人物を拘置する場所で、今はアレク将軍が滞在している場所だ。

 捕虜と言っても牢屋に入れることはない。普通の人間が普段通り暮らせるだけの設備と使用人が控えている。


 言ってしまえば貴族の屋敷と変わりない生活を送っているのだ。


「アレク将軍の面会に参りました。案内いただけますか?」


 屋敷に着いた私は、常駐している使用人に挨拶をした。身形の整った使用人は丁寧に腰をおり、私を案内してくれた。



「やあ、リジー数日ぶりだね」

「こんにちは、アレク将軍。お元気そうで何よりです」


 屋敷の入り口から少し離れた庭で本を読んでいたアレク将軍は、私が入ってきたのに気づいて出迎えてくれた。


 彼は元々貴族の出なのでここの生活に差はないようだ。白いシャツ姿の彼は、以前よりも少し元気そうな様子だった。



 庭には大きな円卓テーブルと椅子が数脚設置されていた。誰か来るわけでもないが、突然の訪問に備えて用意されているものらしかった。



「少し見ない間に大人っぽくなったようだね。見た目だけじゃなく、心の方もね」


 私が手近な椅子に腰掛けると、アレク将軍はにこやかに話しかけてきた。


「そうですか? いつもと変わらないような気がしますが」


 そう言って私は彼から受け取ったシーラを一口飲んだ。やはりいつも飲み慣れているものはどこで飲んでも落ち着く。

 ほっと一息ついた私は肩に掛かった髪を後ろに払った。


 そんな私の様子をアレク将軍はじっと観察していた。



「少し前の君はまるで積み木みたいに不安定だったよ。一度崩れたら戻れない危うさがね。だけど今はとても柔らかい、自然な表情になっている。シェリーという子を助けられたのが大きいのかな?」


 彼はそう言うと顎を手に乗せた。見た目が若く見えるので彼は後ろの庭に溶け込んでいるように見えた。



「確かにシェリーを助けたことで肩の荷は降りましたね。ですが、そこまで変わりました?」


 エメリナもジェットも何も言ってこないから変わっている自覚はなかった。だが、普段接していない人物が見ると変わったように見えるのだろうか。


 私が首を傾げていると、彼は白い歯を見せて笑った。


「いつも近くにいる人は中々気づかないものだよ。ま、いずれ分かるだろう」


 アレク将軍は少し笑ったあと、真剣な顔に戻って少し身を乗り出した。



「君がここに来た、と言うことは私の処遇が決まったと言うことかな?」



 アレク将軍は察しが早くて助かる。

 私は無言で頷き、セレシオン王国の現状と私が受けた任務について説明した。


 現在、セレシオン王国とは連絡が取れないこと。それが「灰」の者の手によって行われていること。

 ストルク王国がセレシオン王国の救出に動き出したこと。


 私は国王より聞いた内容を包み隠さず彼に伝えた。


 彼は最初は何事もなく返還されることに驚いていたが、その後の作戦を聞いて顔色を変えていく。


「セレシオン王国と連絡が取れない、か。ある程度予想していたが事態は最悪の方に向かっていると言うことか」


 アレク将軍は腕を組んで唸った。だが、開戦前から疑いを持っていた彼はどこか納得するようにしきりに頷いていた。


 続けて、私はこの国で起きた顛末も語った。キンレーン殿下の真実やフィオ達がどうやってこの国を支配したのか。

 アレク将軍は私の話が進むにつれて徐々に顔が険しくなっていった。


「王族に直接干渉できて、尚且つ貴族の間も取り持てる存在か。確かにうまいところを突かれたな」


 一通りの説明を終えるとアレク将軍は顎を撫でながら言った。どうやら心当たりのある人物がいるようだった。



「ところで、この作戦は君が担当すると言うことでいいのかな? 正直、他の者では心許ないよ?」


 何かを思い出したようにアレク将軍は言った。両国を大混乱に陥れた連中が潜んでいるのだ、彼が不安に思うのも最もだろう。

 私は彼を安心させるように頷いた。


「ご安心ください。今回の任務は私が請け負うことになっています。それと、私の従僕と神獣も連れて行きますから大軍が待ち構えていても制圧できるでしょう」



 セレシオン王国で起きていることはまだ全容が把握できていない。

 だが、少なからず国の中枢は麻痺していると見て間違いない。それならば持ちうる最大戦力で臨むのが私の考えだ。


 今回はジークもシーズも連れて行く。彼らの補助があれば例え大国が相手でも制圧できる自信はある。

 私の持つ戦力を聞いたアレク将軍は


「分かった。まさか国まで助けてくれるなんて。君には感謝しても仕切れないよ」


 そう言うと彼は深々と頭を下げた。



「それで、セレシオンにはいつ向かうつもりだい?」



 顔を上げたアレク将軍はすぐにでも戻りたいと言うように腰を浮かせて言った。

 ここで生活する間も気が気でなかったのだろう。その真剣な顔つきで彼の心情はよく分かった。


「先行して私の手の者を向かわせてます。情報がない状態で行きたくはないですからね。彼らから情報が入り次第すぐに向かうつもりです」


 お代わりのシーラを注いだ私はゆっくりと飲みながら説明した。

 私の手の者とはフィオとベルボイドの二人だ。昨日からセレシオン王国に送り込んで動いてもらっている。


 彼らなら敵にバレることなく潜入し、情報を仕入れられるだろう。


「そうか、それなら来たる時に備えて準備しないといけないな」


 私のことは信頼してくれているのか、アレク将軍は安堵したように腰を落ち着けた。

 その日は細かい情報交換をして終わった。


 そして三日後、フィオ達から情報を受け取った私達はセレシオン王国に向けて飛び立つことになった。

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