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第七十一話 少女と夕焼け

 王都の城下街。そこは夕陽が差し込むと朱色に染まった民家が一つの光景を作り出す。塔の上から見ても、広場のように開けた場所から見ても幻想的な街並みを見せつけてくれる。


 その中で人々は、一日の営みを終えて各々が帰路につこうとしている。

 南区の広場では店じまいを進める人たちや家に帰ろうとする人たちでごった返していた。


「いやー今日は本当にありがとう! リジーのお陰で楽しい一日を過ごせたよ!」


 その広場では、旅用のローブを着込んだ男の人が私に笑顔を向けていた。

 目の前にいる男はアルという名の歌人。私の案内が相当に嬉しかったのか、彼は終始上機嫌に過ごしていた。



「喜んでいただいたようで何よりです。アルさんの歌も素敵でしたよ。私、また聞きたいです」


 私がそう言うと彼は屈託なく笑った。夕陽に照らされた彼は、朱色の広場によく映えた。



「そうだ、今日の優美な一日を歌にしよう。題目は、『千年王朝赤き花に誘われて』とかかな。うん、良い歌ができそうだ!」



 アルは腕を組んで一人頷き言った。そして、背負った楽器を一撫ですると、広場の出口に体を向けた。



「さて、名残惜しいがそろそろ行かないと。一期一会な旅だけど、また君に巡り合えるといいな」

「私も楽しみにしてます。お元気で」



 別れの挨拶を済ませると、アルはゆっくりと弾むような足で広場を後にした。

 私はアルの背中が見えなくなるまで見送った。



 そして、彼の姿が見えなくなった辺りで私に近づく人影があった。

 フードを被った二人組は広場手前で方向を変え、街路路へと入って行った。


 私はフードを外して二人の後を追う。薄暗い通路を進むと、二人は夕日の差し込まない陰ったところで待っていた。



「ここがいつも落ち合ってた場所なんですか。思ったより城に近かいですね」


「そりゃ遠かったら怪しまれるからね。それに、足元はいつも見る訳じゃない。身を隠すには丁度いいのよ」



 私の感想を聞いた一人がフードを外して言った。そこには今朝、火刑に処せられたはずのフィオがいた。


「それはともかく、男をいきなり逢い引きするとは、嬢ちゃんも大胆なことするもんだよ」


 もう一人もフードを外して言った。彼の名はベルボイド。隣にいるフィオと同じく元「灰」のメンバーだ。


 この二人が生きているのを知っているのは私だけ。陛下も、エイン王女も誰も知らない。


 実は、火刑の炎が処刑台を燃やす直前に私は二人を安全な場所に転移させたのだ。周囲にバレないようにするのに苦労したものだ。


 そして二人を救出した後は、誰にも見つからないように行動させ、夕方に落ち合う。

 これは彼らと契約を結んだ時に計画していたもので、二人は忠実に行動してくれたようだった。



「ところで、私が接触した方で間違い無いですか?」


 私は二人の行動に満足して頷き、依頼していた結果を確認した。それにはベルボイドが即座に答えた。


「ああ、彼で間違いない。『灰』のボスだよ」


 彼は時折『灰』のボスと会っていたためその顔をよく知っている。なので、私が彼と接触している間に、ベルボイドに確認してもらったのだ。


 彼の返事に私の心が騒つくのを感じた。

 獲物を見つけた腹の怪物は、喉元まで昇りチリチリと焦がす。


 ……ようやく見つけた。

 両親、メリルとカインの、そしてキンレーン王子達の敵討ちができる!


 だが私ははやる気持ちを抑え、次の行動を冷静に考えることにした。



「正直言って、その探知力は驚異だよ。一体どうやってボスを見つけたんだ?」


「そりゃあ英雄リジー様だからね。私達の考えもつかない方法で探したと思うわよ?」



 私の猛りをよそに、ベルボイドは腕を組んで考え始めた。それに対して、フィオは既に考えるのを放棄しているのか、かなり投げやりに答えていた。



「理屈は簡単です。実行するのは大変ですけどね」



 私は一度思考を切り替えて彼らに説明した。


 今回使った魔法は魔力探知だ。

 人にはそれぞれ固有の魔力が備わっている。そのため、この魔法は一人一人を識別して感知することができるのだ。


 私は探知する範囲を王都全域に展開し、昨日と今日の差を比べた。


 王都に住う者は、余程なことがない限り生活圏を変えることはない。なので、二日とも感知した魔力は除外して、今日、新たに感知した魔力に的を絞って探した。


 それは河原にある大量の石から、無くした石を探すような途方もないものだった。その労力は予想以上で、火刑の間、目を閉じて集中せねばならないほどだった。


「最終的な対象者は五十人ほどいました。ですが、処刑場に終始いたのがアルさんだけだったんです。他は商人で外から搬入する作業をされてましたから、間接的に彼だと判断しました」



「なるほどね、確かに貴女しかできない芸当ね。普通は一人の魔力を識別するのに苦労するものよ」



 フィオは何か納得したように仕切りに頷いていた。



「で、これからどうするんだ?  追うのか?」


 フィオを横目で見ながらベルは神妙な面持ちで私に尋ねた。


「当然追います。二人は次の拠点に移ってください」


 私の指示を受けた二人は無言で頷き、すぐに移動を開始した。


 そして一人になった私は心を鎮め、魔力を高めた。

 ……アルは私の獲物だ。絶対に逃がさない。


 私は未だに魔力探知で捕捉している男に向かって移動を始めた。

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