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第五十六話 呪いの発動

 私の宣言に騎士団は包囲を縮める動きを止めた。

 どうするべきか迷っているのだろう。互いに顔を見合わせていた。ただ一人を除いて。


「拘束? 君が王族相手にできるのかい?」


 キンレーン殿下は含み笑いを見せながら私の方に歩いてきた。見た所丸腰だ。それに、彼が戦闘で秀でていることはない。その自信は一体どこからくるのだろうか。


 彼が操られている可能性も否定できないが、それなら尚更、彼を拘束しなけれればならない。これ以上、国を衰退させる訳にはいかないのだ。


「今の貴方に話をしても意味がありません。大人しく拘束されてください」



 私は眼前の殿下を睨みつけながら、セディオを地面に向かって振り下ろした。

 瞬時に構築した魔法陣が地面に展開され、城門全体を覆うように広がった。



「何かしてくるぞ! 早くこいつを捕らえろ!」


 殿下は足元に展開された魔法陣を見るや、唾を飛ばす勢いで騎士団に命令した。

 しかし、彼の命令を受けても、騎士団は一歩も踏み出せなかった。


 それもそのはず。私が発動した魔法によって動けなくされているのだから。



 私が発動した魔法は超広範囲の浮遊魔法だ。

 本来は磁力を地面と反発するように操作するのだが、今回はその逆、地面と引き合う方向で展開した。


 これを受けた者は、自分の体が何倍も重く感じるだろう。


 強力な磁力によって騎士団達は立つことすらできず、地面に縫い付けられていった。辺りで立っているのは私とシェリー、アレク将軍だけとなった。


「か、体が、動かない……」

「だ、誰か助けてくれ!」

「ああぁぁぁぁ!」


 身体強化されていても身動きが取れない騎士団達は、皆口々に騒ぎ始めた。


 手に持っていた武器を捨て、私から逃げようと、必死になって地面を這いずり回っている。

 騎士団の心は折れ、私を捉えようとする者は一人もいなくなっていた。


 だが、そんな中キンレーン殿下とダンストール宰相だけは、私に敵意ある視線を投げつけていた。二人も地面に転がって身動きが取れないでいる。



「リジー・スクロウ! 貴様は王族を侮蔑した! その罪は極刑だ、宰相、奴を殺せ!」


 顔を上げたキンレーン殿下は叫んで命令した。その顔に最早爽やかな雰囲気はなく、怒りで歪んでいた。


 命令された宰相は上げられない腕を前に擦り動かして魔法弾の構築を始めた。


「シーズ!」

「はいよっ!」


 私の掛け声に反応したシーズは、シェリーの頭から飛び上がり、本来の姿に戻って宰相の背中にのし掛かった。


「ゔっ」


 いきなり肺から空気を押し出され、宰相は呻き声をあげた。その拍子に魔法弾が弾け、彼は自らの魔法弾で意識を刈り取られることになった。



「使えない奴め、こうなったら私自らっ!?」


 もはや感情を隠すことなく荒立っている殿下を蹴って転がした。衝撃で咳き込む殿下の両手を空間固定で縛り上げる。


「動かないでください、殿下。これ以上手荒な真似はしたくありません」


 歯を食いしばって睨みつけて来るキンレーン殿下を見下ろしながら言った。


「くっ、こんなことをしてただで済むとでも思っているのか!」



「先に手を出したのは殿下の方です。今の私は、たとえ王子であっても殺してみせますよ?」


 そう言って魔力を最大まで高め、周囲を威圧した。


 その効果は絶大で、転がりながら喚いていた騎士団が静まり返るほどだった。彼らは既に抵抗する意思はなかった。頭を抱えて震えている者もいる。


 その光景を見た殿下も苦虫を噛み潰したように顔をしかめた。そして俯きざまに「無能どもが……」と言ってうなだれた。



 よし、殿下と騎士団の制圧は完了した。あとはエイン王女が来るのを待つだけだ。


 彼女には通信具を介してここの状況を伝えていたので、ジークと共にそろそろ到着するだろう。


 その後は、キンレーン殿下に精神支配をかけてシェリーの束縛を強制的に解除しよう。今の殿下の精神状態ならば命縛法もかけられるはずだ。


 問題はエイン王女にバレないようにかけなければならない。人目のつかない時を見計らって実行しようか……


 私が頭の中で計画を反芻していると、足元から耳をつんざくような音が聞こえた。



「きひっ、きひひひははははーー! あっははははははーー!!」


 それはキンレーン殿下の狂ったような笑い声だった。最早正常じゃない。その異様さに、私だけでなく騎士団も凍りついた。



「けほっ、きははははははっ! 勝ったと思ったか? まだだ! これからお前に絶望をくれてやる!」


 そう言うとキンレーン殿下は魔法を展開した。見るからに命縛法の魔法陣だ。この期に及んで何をする気?

 眉根を寄せて考える前に殿下の声が耳に届いた。



「この魔法には最後の手段がある……術者も死ぬが、支配された人間も死ぬ。せいぜい足掻いて絶望しろ!」


 まずい!



 彼が何をする気か気づいた時には、すでに魔法が発動していた。


「我が命を薪としてシェリー・ルードベルの魔核を破壊せよ!!」



 キンレーン殿下は最後に叫ぶと白目を剥いた。


 それと同時に、後ろに立っていたシェリーが、布切れが落ちるように崩れ落ちた。



「シェリー! しっかりしてください!」


 慌てて駆け寄ってシェリーを抱きおこすとと、彼女から急速に魔力が失われているのが感じ取れた。

 急性の魔力欠乏だ。このままでは数刻と待たずにシェリーは死ぬ。


 動き始めた絶望を前に、心が激しく乱れていくのを感じた。

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