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第五百十二話 騎士の救済

 金の鳥が現れた瞬間、シーズ達はそれぞれ違う反応を見せた。


 見覚えのある鳥にシーズは納得した顔を向ける。金色の鳥について、リジーから聞いたことがあったアレクは期待に顔を輝かせ、何も知らないフロットは驚いた表情を見せる。


 彼らがいる空間を温かい光で満たした鳥は、優雅に机に降り立つと大きな翼を畳むと彼らの顔を一つずつ見つめた。


「シーズ殿、この鳥はもしや」

「ああ、間違いなく奴の鳥だの……アレクとフロットはじっとしておれ。わしが話そう」


 アレクに相槌を打ったシーズは机に飛び乗り、金色の鳥をじっと見つめる。

 だが金色の鳥はシーズなど見えていないのか、ただ何もない虚空を瞳に映していた。


「他人の観察が好きなのは相変わらずのようだの、パレイス。いい加減に姿を見せたらどうだ?」


 しばらく鳥を見つめていたシーズは、ため息を挟んで鳥の向いている方向に声を飛ばした。

 その瞬間、シーズ達の目の前で何もないはずの空間が歪み、その中から一人の男が姿を現した。


 腰まで伸びた美しい髪を束ね、ねっとりとした笑みを貼り付けたパレイスだった。


「お久しぶりですね。ライカさん、いえ、今はシーズさんでしたか」


 パレイスはシーズに向かって仰々しく腰を折る。シーズが鼻を鳴らして返事を返すと、パレイスはアレクとフロットの方を向いて腰を折った。


「そちらのお二方は初めてお会いしますね。私はパレイスと申します。お会いできて光栄ですよ、アレク・ドイハール様、フロット・ゼイル様」


 そう言ったパレイスは二人に柔らかい笑みを見せた。


 パレイスは普段通りの笑みを見せていたが、この時、彼の肩には先ほどの金の鳥がとまり、薄っすらと光に包まれていた。


 人とは明らかに違う雰囲気に飲まれたからだろうか、アレク達は優雅に佇む男を凝視することしかできなかった。


 だがそのすぐ後、パレイスの背後から現れた幼女を見て、アレク達は開いた口が塞がらなくなってしまった。


「これ、パレイス。あまり人を驚かせてはいかんぞ。妾が出にくくなるではないか」


 長い黒髪を束にしている幼女が宙に浮きパレイスの頭を小突く。


 アレク達はその姿を三年前に見たことがあった。屍人軍やデンベスとの交戦中、リズの前に降り立ち力を与えた神々しい姿そのままだ。彼らが崇拝している神の一人、アイルが再び現れたのだった。


「アイル様の方がよほど驚かれていると思いますよ」

「まあの。妾の名は知られすぎておるからということもあろう。ま、そう言う意味ではリジーはあまり驚かんかったがの」


 口元に手を当て、てくすくすと笑ったアイルはこの場にいる面々を順番に見つめた。


 アレクとフロットは目が合った瞬間に椅子から飛び降り跪こうとする。だがそれはアイルが飛ばした魔力で椅子に押し戻されてしまった。


「これこれ、そうすぐに膝をつくでない。今日の妾は神としてではなくリジーの友達としてやって来たのじゃ。楽にするがよい」


 アイルは床に降りると、アレクの対面の席によじ登って腰掛けた。

 椅子の脚が高いようで、床に届かない足をぶらぶらと揺れる。そして近くにいたシーズを抱き寄せて撫で始めた。


「あっ! おい、アイル! いきなり抱えるとは聞いてないぞ! そう気安く撫でるでないの!」


 額を撫でられたシーズはむっとしたようにアイルを睨むが、彼女の撫でる手には逆らえないのか次第に丸め込まれていく。アイルが十回も撫でる頃には、シーズは満足げに鼻を鳴らして彼女の膝で丸まっていた。


「ふふ、シーズの毛並みはいつ撫でてもさらさらでふわふわじゃな。一緒にいると落ち着くのう」

「そんなことより、早う要件を話すんだの。ただの観光で来た訳ではないのだろう?」


 シーズはアイルを見上げて言った。彼女が来た理由は分かっていたが、いきなり抱えられた仕返しとばかりに説明を求めた。


「妾達はジークが送って来た魔力を辿って来たのじゃ。ほれ、この机に置かれておる紙、そこに妾とジークだけが知ってる秘密の魔法が隠されておる」


 アイルは机の白地の紙を拾うと静かに魔力を流し始めた。


 すると、先程と同じ魔法陣が紙に浮き上がる。この魔法は遥か昔、ジークに地の魔核を与えた時に、アイルがジークに与えたものだった。

 本当に助けが欲しい時に、一度だけアイルを呼ぶことができる呼び寄せの魔法だった。


「やはりジークは生きておるのか。そしてわしらの助けになるようにアイルを呼んだ、と言うことか。あのばか、なぜもっと早く使わん」


 シーズはアイルの説明を聞くと、この場にいないジークを罵った。

 だが口では文句を言っているが、内心は喜んでいるのかシーズの口元は緩みきっていた。それを見たアレクも緊張しながらも目を細めて笑った。


「彼には感謝しなければなりませんね。操られている状況でもこうして私達に助けを残してくれたんですから」


 アレクはアイルの持つ手紙を見つめた。

 一時は希望が失われたと思ったが、それを覆す大きなものを残してくれた。アレクはジークに感謝するように目を閉じた。


 アイルはそんな彼を慈愛の篭った目で見つめると大きく頷いた。


「そう言うことじゃ。ここから先はジークに変わって妾が導こう。じゃが敵がいるのはとても危険な場所じゃ。だから覚悟のあるものだけ連れて行くぞ」


 そう言うと、アイルはアレク達を一人ずつ確認するように見つめた。暖かい赤い瞳に見つめられ、アレクとフロットは緊張するが決心はできていると力強く頷いた。 


「よし、それならば行こうか。奴らは虚空の世界に引き篭もっておる。パレイス、準備するのじゃ」

「はっ、承知しました」


 アイルの命令にパレイスは間髪入れずに腰を折った。そして肩に止まっている鳥をひと撫ですると、彼らが現れた時と同じように青白い魔法陣を浮かび上がらせた。

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