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第五話 雨に紛れて

 午後になり雨が降り始めた。


 こういう天気は動きやすくてちょうどいい。悲鳴もあまり響かないから昼間でも遠慮なく殺しができる。

 それに気づかれてもすぐに逃げれば追って来られない自信もある。



 今まで何人も殺しているが、未だに見つかっていないというのも自信に繋がっていた。


 魔力も大分集まったし、あと一人殺れば十分だな。そうだ、今日、やってしまおう。


 最後の標的は既に決めてある。いや、初めから決めていたというのが正しいかな。メインディッシュは最後まで残して楽しみたい方だ。


 ……そうすれば、この街ともお別れだ。しみじみとした気持ちで部屋の中を見渡す。


 本棚で埋め尽くされた部屋の片隅に黒のロングコートと黒い仮面がかけられていた。


 テーブルの上には鈍く光る魔法具がいくつも置かれている。今まで殺し、集めた魔力だ。これだけあれば、王都でも一生遊んで暮らせる金が手に入る。


 今の仕事も給料はいいが、常に人の目があって自由な時間がない。それに面倒な貴族どもが何かと注文つけて来やがる。ストレスでおかしくなりそうな時もあるくらいだ……。


 さて、暗い気分になるのもこれまでにして、荷造りに取り掛かろう。


「せ、先生……?」


 不意に聞き慣れた声が扉から聞こえた。

 どうやら物思いにふけり過ぎていたらしい。部屋に入られたことにすら気づかなかった。


「やあ、メリル。どうしたんだい? 今日は学院は休みだろう?」


 いつも通り爽やかな笑みを作りながら振り返る。目の前には四年生のメリルが立ち尽くしていた。


 何やら書類と瓶を持っている。困惑した顔をしているな。いつも通りの顔でいるんだが。



「あの……新薬の実験で先生に相談があって、ノックをしても気づかれないようでしたので、お声がけしようと思ったのですが……」


 そう言えば今日はそんな約束をしていたな。これは悪いことをした。最後だから丁寧に相談に乗ってやろうかな。


 ん? 足元が震えているな。何を怖がっているんだろうか。


「どうしたんだい?」


 ゆっくり近づきながら問いかけてみる。彼女からの応答はない。視線は後ろに釘付けになっている。後ろにあるのは例の魔法具くらいだ。


 ……そう言えば彼女はストニアが運営する孤児院の出だったな。

 ということは、あの魔法具の存在も知っていてもおかしくはない。


 近づいてくる僕に気付いたメリルは少しずつ後退っていく。



「どうして……先生が、その魔法具を?」



 メリルは浅い息づかいになってきた。動揺しているな。それに、やはり彼女は知っていたか。


 それなら、迷う必要はない。魔法学院の中でもそれなりの魔力持ちだから金額で考えるとかなりいい生徒だ。近くで彼女を覗き込むと、恐怖に怯える瞳に僕自身が映り込んでいた。張り付いた笑顔をしているのが見える。


「怯える必要はないよ。大丈夫、きっと痛いのはほんの一瞬さ」


 君はもうすぐ僕のお金になる。予備の魔法具があるからそれに入れてあげよう。


 腰に下げた剣を鞘から抜き、右手で構えた。同時に左手で魔法具を机から呼び寄せ魔法で手に取る。

 彼女は足がすくんで動く気配がない。それどころか目に涙を浮かべている。


 僕は嬉しさのあまりこの場で踊りそうになった。


 やっぱり殺す前のこの瞬間がたまらなくいい!

 自分のいる空間を完全に支配しているこの高揚感!

 これから殺される人間のなんとも言えない表情!



「い、いや……来ないで」


 逃げられないように魔法で固定する。

 剣で確実に心臓を刺したいからずれても困る。彼女はもう泣くことしかできないようだった。


 今まで殺してきた魔法師達も、大体こんな感じで引き攣っていたっけ。

 魔法の訓練は受けていても実戦となったら戦えないひ弱な連中だった。彼女もその部類のようだ。



 もう少し見ていたいけど時間が惜しい。他の教師に気付かれると厄介だ。それに、最後の獲物を探さないといけない。


 そう考えゆっくり距離を詰め、剣を魔法で強化し、一気に突き刺した。

 手には刺した感触が伝わり、息を飲む声が聞こえた。

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