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第四百七十七話 別れの言葉

 リズとジークを回収したリジーは、再生が始まった混沌から距離をとった。そこへ遅れてやってきたシーズが混沌に魔法をぶつけ、その復活を強引に抑えた。


「シーズさん! よかった……生きてたんですね!」

「再会を喜ぶのは後だ! それよりもジークを連れていけ!」


 シーズの姿を見た瞬間、リズは涙ぐむも、それをシーズはぴしゃりと止めた。リジーに手を引かれたリズは、シーズの身を案じながらも後退した。


 リジー達混沌から少し離れたところにジークを地面に寝かした。胸を穿たれたジークは目を閉じたまま浅い呼吸を繰り返している。その傷口は修復されておらず、崩れていく一方だった。


 それを見て嫌な予感が当たったとリジーは顔を暗くした。ジークが消えてしまう時はいつか来ると覚悟していた。せめて新しい時代になるまでは一緒にいたいと願っていた。

 それが今訪れただけのことと思おうとしても、ジークを握る手は震えていた。


「ジーク……」

「ごめんなさい、リジー姉様。私がもっとしっかりしていればジークさんは……」


 リジーがジークの手を抱き寄せるとリズが気落ちしたように謝った。

 敵を倒した後だったから油断していたとリズは自らを責めた。悔しさを紛らわすように握りこぶしを作る。だがその手を優しく包んだリジーは首を振った。


「ううん、これはリズのせいじゃないよ。いつかはこうなる運命だった、それが、少し早まっただけだから。それに、まだ戦いは終わってないから」


 そう言って言葉を切ったリジーはシーズの方に目を向けた。


 切り刻まれた混沌が復活するのを阻止するように雷の刃で切り裂く。それでもシーズの攻撃よりも混沌の再生速度の方が早かった。シーズに切られながらも混沌の体は元に戻りつつあった。


 だがシーズの二発目の攻撃が失敗した今、混沌を倒す手立てはない。

 今彼女達にできることといえば、混沌が動けないように切り刻み、二度と世に出ないよう封印するしかなかった。


「リズはジークを連れて逃げて。混沌の封印は私とシーズでやるから」


 そう言って目尻に溜まった涙を拭い、リジーは立ち上がった。だがシーズの元に向かおうとしたリジーの手をジークがそっと掴んで引き止めた。


「お待ちください。リジー様……混沌を倒すのに必要なのは、アイル様の魔力ですよね。ちょうどここに、あります」


 薄目を開けたジークは自分の胸を指差した。

 ジークの体を構成する屍人魔法。そこにはアイルの魔力が込められている。残り少ない時間を全て消費すれば一回分の攻撃魔法に変換することは可能だとジークは言った。


 だがそれはジークの消滅も意味する。残りわずかな時間すらも共に過ごせないことにリジーは涙を流して首を振った。


「そんなこと、できない。どうしてジークが犠牲にならなくちゃいけないの……私がもっと頑張るから、消えないで」


 振り返ったリジーの涙がジークの手に落ちる。少女の願いはたった一つだった。愛する人と一緒にいたい。ただそれだけだった。

 彼女と同じ気持ちだったジークは、それでも心を押し込めてリジーを抱きしめた。


「混沌の封印は確かに有効です。ですが、平和が訪れるのは今の時代だけ。いずれ復活し、再び厄災を撒き散らすことでしょう」


 ジークはリジーの頭に手を回して優しく撫でた。最後に愛しい人を確かめるようにゆっくりと。


 混沌は人類の敵。倒せる可能性が残っているなら確実に手を下すべき相手なのだ。それが、誰かの命を犠牲にするものであっても。


「いや、いや……消えないで、お願い」


 リジーはジークの胸の中で首を小さく振った。混沌を倒さなければならないと分かっていても、ジークに消えて欲しくないと我儘を言った。それが叶わない願いであってもリジーの思いは止められなかった。


「大丈夫ですリジー様。私はいなくなりますが、私はいつでもリジー様を見守っています。私はいつまでもリジー様の騎士ですから」


 ジークは優しく歌うようにリジーの背中を撫でた。

 愛する人を残して消えることは辛い。少女の体の震えがジークの腕にも伝搬する。消えるその時までこうしていたいと願うほど、ジークは自らの決断に心が痛んだ。


 だが胸の痛みが全身に広がり始め、体の崩壊が始まったのを感じてジークは戦う決意をした。


 リジーの肩を掴み真っ直ぐ見つめた。静かに涙を流していたリジーの愛らしい顔が映る。ジークは優しく目を細めると、手を取ってリジーを立ち上がらせた。


「もう時間がありませんリジー様。私が消えれば混沌を倒す機会はなくなってしまいます。ですから、私達で最後の敵を倒しましょう」


 そう言うとジークは混沌に目を向けた。シーズと合流したリズが復活する混沌の体を切り飛ばしている。そこにリジーが加われば確実に混沌を道連れにできるだろう。


 震える手を胸に当て意識を研ぎ澄ます。そして、屍人魔法として使われていたアイルの魔力を感知したジークは迷うことなくその魔力を取り出し始めた。


 ジークの手に輝く魔法弾が出現する。それはとても小さかったが、シーズがアイルから授かったものと同じ魔力だった。


 アイルの魔力が徐々に大きくなるに連れてジークの姿が透けていく。足元からは光の粒が舞い始め、今にも消えそうだった。


 そんなジークの光を見て、リジーはもう後戻りすることができないと止まらない涙を拭った。

 ジークが別れの辛さを乗り越えて決断したのだ。リジーだけがいつまでも泣いている訳にはいかなかった。


「ジーク。私、あなたのことずっと愛してるから」

「私も愛しています。さあ、行きましょう」


 別れの言葉をかけ合った二人は最後に笑みを見せ合うと混沌に向き直った。

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