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第四百七十二話 見届けるもの

 エンカとの戦いでシーズは魔核を失い死ぬ運命にあった。シーズも心残りはあったが、エンカと共に滅びれることもあって納得できる死だった。


 それでもシーズが生かされたのはアイルの希望だった。

 地面に横たわるシーズを抱きしめた時、彼女はシーズの魔核を修復し、死ぬ運命を捻じ曲げた。ライカとエンカを神獣にした時と同じように、シーズの命を救った。


 そして傷を癒すまで眠らせていたアイルは、シーズが目覚めるまで抱きしめ続けていた。


 死んだと思って目を閉じたはずのシーズは、再びジストヘール荒原を見た時はさすがにアイルを呪った。エンカと共に逝けなかったこと、助けにくるのが遅かったこと、色んな文句を言った。


 だが我儘な幼女はそれを全て受け止めてもなお頼みを言った。世界を救う少女を守り、この時代の行く末を見届けて欲しいと。


 そう言うと、シーズの返事を待たずに、頼んだぞ、と言い残してアイルは姿を消した。


 二回目の救済を受けたシーズはアイルが消えた空を見上げるだけだった。眠りから無理やり起こされて不機嫌だったが、懐かしい顔が見れたこともあってシーズは不思議と笑みをこぼしていた。


「アイルの頼みなら仕方ないの……ちょっとだけ世界を守りにいくとするかの」


 シーズはアイルの消えた空に呟きベルネリア山へと向かった。そして、混沌がリジーを攻撃している所に降り立ったのだった。


「戻ってきてくれてありがとう……シーズ」


 駆け寄ったリジーは、シーズの存在を確かめるようにしっかりと抱きしめた。もう二度と会うことはないと覚悟していたのだ。リジーはその喜びを無言の抱擁で表現した。


 一つ問題があったとすれば、リジーは魔力強化した体で、締め付ける力は普通の何倍も強かったことだろう。力一杯に締め付けられシーズは息が止まりそうになる。

 だが少女が体を小刻みに震わせているのを感じ取り、その温もりを素直に受け止めた。


『お前は、そうか、アイルの使いか。どこまでも俺の邪魔をしやがる……あの幼女め!』


 少女と神獣の再会を混沌は面白くない目で睨んだ。ベオの力を通して邪魔な神獣は相打ちで死んだのは確認したはずだった。それがアイルによって騙されていたのだと知って全く面白くなかった。


 リジーの抱擁から離れたシーズは、混沌を挑発するように笑った。


「そっちは混沌だな、挨拶が遅れたの。わしは新生シーズ。アイルに変わって言伝を持ってきてやったぞ」


 シーズは大きく咆哮をあげると同時に空から魔法弾を落とした。

 それはアイルがシーズに貸した魔法弾だった。混沌の急所を穿てば、力を封じてそのまま討伐することができるアイルの奥の手の一つだった。


 混沌の目には見えない遥か上空で展開されたそれは、光の速度で落下して混沌の右脇を掠めた。


 もちろんシーズは混沌の魔核を狙ったが、アイルの攻撃だけは絶対に受けたくないと、初めから警戒していた混沌は全力で回避したのだ。


 受け身を取らずに転がった混沌はゆっくりと立ち上がり、苦い顔をするシーズを睨みつけた。


『アイルの使いだからやっぱ持ってやがったな。だが、今ので打ち止めのようだな。あの攻撃はアイルの中でも特別製、一発だけしか撃てないのは知ってるぜ』


 混沌は勝利を確信して黒剣をシーズに突きつけた。


 覚醒した混沌の体はどんな攻撃を受けても必ず修復する。それは魔核であっても例外ではない。完全な不死身として君臨する絶望だったが、唯一、アイルの使う魔法にだけは抵抗することができない。

 彼女が貸し与えた仮の力ではない本物の魔力だけが混沌の影を晴らすことができる。


 その攻撃を容易く避けられたシーズは、どうするべきかと混沌を観察した。実はさっきの魔法弾はもう一発だけ持っていた。念のためにとアイルが二発分力を渡していたのだ。


 だが、一発外した時点で二発目を当てるのは至難の技となっていた。


 全く警戒するそぶりの見せない混沌が、予備動作なしの攻撃を無傷で避けたのだ。二発目はないと口では言っても、警戒を怠らない混沌に当てることはますます不可能になっていた。


 挑発するように口角を上げる混沌をシーズはげんなりしたように見つめた。

 アイルの性格を知り尽くしている混沌は、きっと二発目の攻撃が来ることを知っているのだろう。


 その時、シーズの頭にふわりとリジーの手が重ねられた。シーズが視線を上げた先には、ふわりと微笑むリジーがいた。

 依然として厳しい状況なのに、リジーは微塵も不安を抱いていないようだった。優しく撫でるリジーの手はシーズを不思議と落ち着かせた。


「慌てないでシーズ。私が絶対に隙を作るから、シーズはさっきのをもう一回撃ってね」


 リジーはシーズに笑いかけると混沌に意識を向け直した。


 二発目があることは初めから知っていたような口ぶりだった。あるいはシーズなら無理と言われた攻撃も二回目までなら出せるだろうと信頼しているようにも見えた。それにはさすがのシーズも、リジーには敵わないと口角を上げる。


「全く、リジーの頼みなら仕方ないの。安心せい、次は確実に当ててやるぞ」


 シーズはそう言うと、普段はあまり使わない魔力強化の魔法を使った。普段の身体能力でも十分に戦えるが、混沌にとどめの一撃を確実に当てるため、初めて全力を出すことにしたのだった。

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